浜田教授インタビュー

経済政策について理解してない人物が政策提言する日本の不幸

人間というものは不思議なもので、若い頃はどんなに柔軟な考え方ができても歳をとるごとに、段々と柔軟な考え方をしたり、意見を言ったりできなくなります。

それにはいろいろな理由があると思うのですが、大きな理由のひとつが歳をとるごとに「立場」や「(その人の言動が作ってきた)歴史」というものがあるからです。

ですが、たまにそういうことを無視して「あ、俺間違ってたわ。こっちの方が正しいわ。」と平気で言える人がいます。

この人もその1人。

安倍内閣の経済政策の知恵袋の1人、内閣官房参与である浜田宏一氏です。

浜田宏一氏が語る「MMTは均衡財政への呪縛を解く解毒剤」(ダイヤモンド・オンラインより引用)

https://diamond.jp/articles/-/208526


間違っていると思ったらさっさと撤回する凄さ(??)

浜田氏はいわゆる「リフレ派」と言われる経済学の重鎮です。

リフレ派というのはごく簡単に言うと、景気というのは「政府のお金をいくら発行するか(=これを「金融政策」と言います)」で調整することが可能だという理論です。

今日本が苦しんでいる「デフレ」は、お金が不足して物の価値が下がっている状況ですので、お金をもっと発行すれば景気は回復する。

逆に、「インフレ」という物の価値が上がって、お金があり余っている状況では、お金の発行を減らせば景気は回復する。

こういう理論です。

この理屈に従って、安倍政権ではいわゆる「異次元金融緩和」を行って、お金を発行しまくった訳です。その額、約350兆円!

ところが、350兆円もお金を発行していながら景気はちっとも回復していません(一部の大企業を除く)。

普通だったら自分が支持する理論に従って350兆円もお金を発行したにも関わらず景気が回復していなければどうするでしょうか?

恐らく多くの人が自分の理論に固執して、「理論通りにならないのは現実の何かが間違っているんだ」「誰かが邪魔しているんだ」と言って、自分の失敗は認めません。

あるいは本当に覚悟がある人であれば、責任をとって辞任するでしょう(ま、そんな人はほとんどいませんが)。

最初に書いたように、歳を取ればいろんな立場や人間関係が出来てしまいますから、どうしてもそうならざるを得ません。

ところが、この浜田氏のすごいところは、あっさり自分の間違いを認めてしまっているところです。

なんとこのインタビューの中で浜田氏は金融政策だけでデフレ脱却はできないという理論に出会うまで、デフレ脱却に必要なものが何かということを

「十分、理解していたわけではありませんでした。」

と言ってのけています。

お・・おお・・・・そ、そうですか・・・理解してなかったんですか・・・。

理解してなかったのに「異次元金融緩和」を“内閣官房参与”という立場で推進したと。

いや、確かに私も間違っていたらさっさと撤回するのは正しいとは思いますが、そこまであっさり認めてしまって良いのでしょうか(笑)。

安倍政権になって以来、どれほどの人たちが「異次元金融緩和によるデフレ放置」のために苦しんだかを考えれば、とても笑い事ではありませんが、もうここまで来ると笑うしかありません。

デフレ脱却に必要なものは?

では、浜田氏はデフレ脱却には何が必要だと言っているのでしょうか?

それはズバリ「政府がお金を使うこと」です。

これを「財政政策」と言います。

経済学に詳しく知らない人は「じゃあ、さっさとやれば良いじゃん!」と思うでしょうが、実はそれほど簡単ではありません。

なぜなら、さっき書いたように財政政策というのは「政府がお金を使うこと」です。

政府がお金を使うというのは、つまり赤字を増やすということです。

どうですか?

このように聞くと

「何ーー??赤字を増やすだとーー!そんなこと駄目に決まってるだろ!!」

と仰る人がほとんどではないでしょうか。

ただ、浜田氏も仰っているようにデフレという状況では、それが正しい政策なのです。

今、財政政策が必要な理由

なぜそれが正しい政策なのでしょうか?

それは至って簡単です。

金融政策: 政府がお金を発行すること

財政政策: 政府が発行したお金を“使うことで”市場に供給すること

だからです。

考えてみれば当たり前なのですが、金融政策でいくらお金を発行してもタンスにしまっていては意味がありません。

例えば「政府が公共事業をやって企業にお金を支払う」こと(=財政政策)によって、市場にお金を供給しないと、そのお金は使われないのです。

つまり、金融政策と財政政策は一緒にやって初めて意味があるのです。

ただ、これがなかなか理解して貰えない。

っていうか、さっきも書いたように浜田氏でさえ「理解してなかった」と言ってますからね。

そして、なかなか理解して貰えないからこそ、日本は30年もデフレ不況が続いているという訳です。

日本のデフレが厄介なのは

財政政策とは政府がお金を出す政策である。

政府は巨額の赤字を抱えている

政府がお金を出したら赤字が増える

赤字なんて絶対駄目!

という思考が背景にあるからです。

「財政政策という正しい政策があるにも関わらず、“赤字は駄目だ”という思い込みによって、正しい政策が打てない」。

これが日本がデフレから脱却できない根本的な原因なのです。

しかし、その「政府の赤字は駄目」という理屈が、実は“デフレという異常事態においては間違っている”ということを説明する理論が、ここ最近世界を騒がせています。

それがこのインタビューの中で浜田氏が説明している「MMT (Modern Monetary Theory)」こと「現代貨幣理論」です。

MMTとはどんな理論なのか?

文章量の都合上、詳しい説明は割愛します(別の機会に書きます)。

ごく簡単に書いておきますと

自国通貨で運営されている国家は、インフレ率が適正に維持されている限りにおいて自由に貨幣を発行できる。

したがって、財政赤字によって国家が破綻するということはあり得ない。

という理論です。

インフレ率が上がり過ぎなければいくらでも政府は支出が可能。

だとすると、インフレ率が上がらない「デフレ」で悩んでいる日本は、理論上いくらでもお金を発行できるということになります。

それはつまり「“デフレにおいては”政府は財政赤字を気にする必要はない」という結論が導かれるわけです。

浜田氏はインタビューの中で、この理論についてはいくつか異論を唱えています。

しかし、この理論から導かれる「今は財政赤字を拡大してでも財政政策を行うべきだ」という結論に関しては、全く同じことを述べていらっしゃいます。

そして、実はこのように財政政策の必要性を説いているのは浜田氏だけではありません。

MMTの論者はもちろん、クリストファー・シムズ、ジョセフ・スティグリッツ、ポール・クルーグマン、ローレンス・サマーズなど、数多くの世界的権威たちが賛同しています。

ポール・クルーグマンに至っては、一昨年の来日時に安倍総理と面談した際に

「日本が財政破綻するなんて言っている人がいたら、どうやったらそんなことになるのか説明させれば良い。どうやったって財政破綻なんてしようがないのだから、説明なんてできる訳がない」

と断言しています。

「日本は財政赤字なんだから政府の支出を増やす財政政策なんてやったら、赤字が拡大して破綻する!」

そんなデタラメ理論はもうとっくに世界では駆逐されてしまっている。

にも関わらず、日本だけがいつまでもそんな時代遅れの理論に囚われているのです。

時代や状況が変われば、打つべき政策も変わる。これは当たり前のことです。

最後に20世紀の大経済学者であるジョン・メナード・ケインズの言葉を引用して今日の投稿を締めくくります。

「僕は、状況が変われば意見を変える。君はそうしない?」

今回も長文を最後までお読み頂きありがとうございました😆


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