一休さんのとんち

いきなりですが、みなさん、脱酸素剤を食べた事ありますか?私は、あります。なぜこのような事になったか。

簡潔に言うと

子供の好奇心 × 一休さんのとんち

=脱酸素剤を食べる

です。


私は、小学校低学年のいたずら盛りだった。世の中は、わからないものだらけで、色々なことを試していた。

玩具屋で、玩具の小さな家があり、危険なので屋根に登ってはいけません。という但し書きがあったら、屋根に登った。また、危ないから行ってはいけないという用水路をジャンプして飛び越えたりしていた。当時の私に取っては、ダメと言われていることにチャレンジすることがブームだった。


ある日、友達と二人で、お菓子を食べながらファミコンをしていた。色々なお菓子を食べていると、あるお菓子の袋から脱酸素剤が出てきた。そして、食べないでくださいと書いてある。

「どうして脱酸素剤は食べたらいけないのかな?食べたらおいしいかもしれないのに」

と友達がいう。私は、

「食べないでくださいと書いてあるから食べてはダメ」

という。丁度、やるなといわれると、やってみたいブームの中にいる私は、食べてみたい気持ちもあった。しかし、脱酸素剤のパッケージの雰囲気がヤバイと感じて、それが歯止めとなっていた。

「どんな味がするのかなぁ?」

「食べたらダメだって」

私の気持ちは、食べてみたいという気持ちに傾いている。理性の扉は、半分壊れ、好奇心が見え隠れする。そして、何か免罪符がないかと頭の中で、探しはじめる。

しばらく、“食べよう”、“食べない”という押し問答をしていると、ひらめいた。

そうだ一休さんだ。

“寺の和尚さんは水飴が大好きで、水飴を一人占めするために、水飴は子供には毒だと嘘を言っていた話” 

を持ち出した。

そして、この食べないでくださいと言う但し書きも、大人が、美味しい物を子供に食べさせないようにするための陰謀だという結論に至った。全てに合点が行った。私の中の、理性の扉は吹き飛んだ。そうして、一休さんを免罪符にして、脱酸素剤を食べることにしたのだ。

脱酸素剤のパッケージを開ける。その時の記憶は定かではないが、確か、黒いサラサラした粉だったと思う。そして、ドキドキしながら、脱酸素剤の中身を、お菓子にふりかけて食べる。いざ実食。緊張した空気が流れる。

「・・・・・・おいしい」

【それは、乾燥剤ではなく、お菓子がおいしかっただけであろう。】

そして、私達は、食べたらいけないものを食べた背徳感、それが美味しかった事に興奮して、何かに勝利した気になり、訳のわからないハイテンションになった。

「なんで食べたらいかんの。こんな美味しいもん」

「今度、友達にも教えてあげよう」

私達は、天下を取ったかのように騒いだ。しかし、その天下は長く続かなかった。


友達が、部屋からトイレに出ていく。しばらくすると、ドタドタドタと友達と友達の親がすっ飛んできた。

「脱酸素剤を食べたんか?」

と、すごい剣幕だ。怖かった。大人の本気の表情だ。後ろで友達が泣きそうな顔をしている。

私は考えた。ここで、食べたといえば、友達が怒られる。しかし、大人がここまでいうならば、処置しなければ、下手すりゃ死ぬんじゃないか。

私は、なんとも言えない表情で、左手の親指と人差し指で丸を作る。

すると友達の親が

「それは、食べた量がゼロか。これだけ食べたのどっちだ。」

と言われるが、私は、沈黙し、左手の親指と人差し指に力を入れる。そして、怖いので目を瞑る。

私は考えた。友達が怒られず、私も脱酸素剤を解毒するような言い訳を。そして、再びとんちをひねり出そうとするが、そんなものはなかった。

友達の親が、ますます強い剣幕で迫ってくる。

「ド・ッ・チ?」

万策つきた私は、歯を食いしばり、息を止めて、目をおもいっきり瞑り、顔を真っ赤にして、

「ムググ」

と言うばかりだ。

友達の親も必死だったが、私も必死だった。こんな押し問答を何回かしたが、その後の記憶がない。ただ、脱酸素剤を食べた興奮と、大人が本気になった剣幕が印象に残っているだけだ。



以上、子供の好奇心と一休さんのとんちが、悪い方向に噛み合い脱酸素剤を食べてしまう話でした。

※当たり前ですが、危険なので真似をしないでください。

|д゚)チラッ