【川柳】ミッドセンチュリー(42句)

書き順を忘れられない町がある

黒鍵に即身仏がゆびを置く

てのひらで塩を固めた黙読よ

天井に近づいていく富士登山

人形が会議に遅刻したらしい

あなたにもランプの芯があるはずだ

ブルペンで菜の花が咲く戦後なの

暗色を持たずに春に来てしまう

おみやげの宇宙模型の住み心地

お尻にも吹雪を挟むことにした

最近のアメリカ人はCGだ

昆虫の気持ちの中の哲学堂

喫茶店の窓をはげしく覗き込む

玉虫と決めたらずっとそうしてる

魂を齧られているアーモンド

こう持てば浅草はゆらゆらしない

潮騒の最後のほうを聞き逃す

ら行から漂うミッドセンチュリー

標準語の情熱にいつも励まされる

水族館ごと重そうな骨だった

傍線がかすれるたびに滝の音

めくるまでページにはえていた草だ

紙箱は潰されたとき目を覚ます

片足を月の窪みに置いておく

花柄にもどされている哲学者

あ行にはいつも男がいるらしい

ちょんまげを見たことがない冬の旅

誕生日も記念日も歯で祝います

江ノ島を落とし穴から見ていたよ

手のひらの水も拘置所かもしれない

泌尿器にしてはドイツ語が堪能だ

木星を国庫にもどす記者会見

八階の野菊売り場が荒らされた

膨大な日々のわずかな針葉樹

十二時を配信しよう、音の音

眼医者という噂の白い壁がある

食パンを吃らずに食べきるなんてね

つじつまの合う子供しか愛せない

ほほ笑みに書き順があるむすめたち

一月の手拍子は無視して下さい

鈴をもう見ることはない放水路

毛糸の穴ひろげる指でしたカンパ


(初出:ネットプリント「ウマとヒマワリ12」2021年1月)

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