「私の雇用契約なんですが、来月、三月いっぱいで満了します。今の状況ですと、インドの件で休日も出社していますし、別件で、株主間契約の改定や、B社からは請負契約についての検討依頼ももう直ぐ来ます。私としては延長していただきたいと考えているんですが……」 部内の定例打合せの後で、部長と課長を呼び止めそこまで言ったところで、部長は「それで?」とばかりに首をかしげて藤村を見やった。 「……ご検討ください」 この会社、三十五年務めたA社を退職し、三年前から週三日、嘱託として働い
今年は高峰秀子の生誕百年、ゴールデンウィークに東京タワーで開催されていた展覧会を見てきた。五歳で映画に初出演し、五十五歳で引退、その間三百本以上の映画に出演したという。「二十四の瞳」や「浮雲」が特に名高い。個人的には、「妻の心」や「張込み」が好い。昭和を代表する大女優であるが、デビューからずっと、自らの意思によらず周りに振り回され、不本意な半生であったようだ。それはご本人のエッセイ、「わたしの渡世日記」に詳しい。高峰秀子は、他にも多くのエッセイを書いており、その外連味のない