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【古代メキシコ×STEAM教育】カカオ

前回、古代メキシコで食べられていた農作物、動物について触れました。

古代メキシコの歴史を語る上で欠かせない食べ物に「カカオ」があります。
現代、カカオはさまざまなお菓子に使われたり、バレンタインデーにチョコレートを贈ったりと、私たちにとって身近な存在ですね。

カカオの歴史

カカオも、これまで紹介した農作物と同じように、中南米が原産です。
現在のコロンビア、ベネズエラ、エクアドル、ペルー領内のアマゾン川上流地域が原産地でした。

エクアドルにあるマヨ・チンチペ文化のサンタアナラフロリダ遺跡(紀元前3500年頃)から、カカオ飲料の痕跡がある土器が見つかりました。

これまでは、中央アメリカ・ベリーズにあるマヤ遺跡、クエリョから3000年以上前のカカオ外皮が見つかったのが最古とされていました。しかし、この発見で見つかったカカオ飲料の痕跡がある土器は、紀元前3300年頃とされています。古代メキシコでカカオが利用される前に、マヨ・チンチペの人々がカカオを栽培していたことが分かりました。カカオの起源がアンデスであることを証明できたこととなります。

また、サンタアナラフロリダ遺跡の人工遺物には、太平洋沿岸とつながりを持つものもありました。交易によってカカオが古代メキシコへ送られるようになった可能性があるそうです。

栽培が難しいカカオ

カカオは栽培が難しい植物でした。3〜5年かけて大切に栽培すると、1本の樹に白く美しい花が年間5000〜1万5000個も咲きますが、実になるのは70〜300個程度と言われています。

カカオ栽培には、次のような条件が必要です。

  • 酸性の土壌

  • 土壌の栄養状態が良い

  • 年間の平均気温が21〜30℃の間

  • 年間を通じて気温の上下幅が狭いこと

  • 高温多湿

  • 日陰を好むため、風除けや日除けのための樹木が必要

また、病気にかかりやすく、強風、砂埃に弱いのです。

現代ではさまざまな地域で栽培されるようになりましたが、それでも栽培、収穫は簡単には自動化できないと言われています。そんなカカオは、古代メキシコでどのように使われていたのでしょうか。

カカオのイメージ

王族の特権だったカカオ

「チョコレート」と聞くと、固形の甘い食べ物を想像する方が多いのではないでしょうか。しかしチョコレートは、長い歴史の9割にあたる期間、飲み物だったのです。

古代メキシコでは、カカオは次のような存在でした。

  • 聖なる飲み物
    (神話の中で神ケツァルコアトルがトウモロコシと共にカカオを人間に与えたとされています。また古典期後期のマヤ、アステカではカカオが人間の血液と結びつけられていたため、儀式的に使われていました。裕福な階級の間では、婚約や結婚の儀式でも使われていました。)

  • 嗜好品

そして、先ほど紹介したように栽培が難しかったため、王や王族のみが飲むことができる特権だったのです。

メソアメリカ文明には、チョコレートをモチーフにした土器や土偶が数多くあります。

BIZEN中南米美術館蔵 
黒色三足深鉢  グアテマラ マヤ低地南部 古典期前期 400~600年頃 
下の部分にカカオ豆がデザインされています

カカオは、以下のような手順で飲むために加工されました

① メタテ(平石臼)とマノ(棒状の器具)でカカオを粉にします。

BIZEN中南米美術館 メタテ、マノのイメージ

② 水を加えます。

③ 好みによってほかの材料を加えます。

  • ハチミツ

  • リュウゼツランの樹液

  • 唐辛子

  • バンレイシ

  • トウモロコシ

  • バニラ

  • アチョーテ
    食紅:混ぜるとチョコレートが赤色となり人間の血液のように見えるため、儀式に結びつけられていました

④その後、よく混ぜます。

アステカ族も、古典期マヤの王族も、泡こそがチョコレートの最大の魅力と考えていたそうです。現代で言えば、ビールの泡のような存在だったのでしょうか。泡立つチョコレートを作るため、チョコレートカップと呼ばれる大振りな円筒形の土器がふたつ用意されていました。

中身の入った状態のひとつを高い所から傾け、低い所に置いてあるもうひとつのカップに注ぎます。これを繰り返し、泡立てていたそうです。

特別展「古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン」展示 
円筒形土器 マヤ文明 600~850年 出土地不明 メキシコ国立人類学博物館蔵 
カカオの飲料用に使われたと思われ、宮殿における外交儀礼の様子が描かれています。

チョコレートカップは小さいものでも1リットル、大きいものでは2リットルも入ります。王や王族はこれを使って、1日20〜30杯ものカカオを飲んでいたと言われています。

BIZEN中南米美術館蔵 
左:刻文深鉢 グアテマラ マヤ低地南部出土 古典期後期 600~950年 
右:彩文深鉢 グアテマラ マヤ南部高地 古典期後期 600~950年

カカオの効能

カカオを毎日大量に飲んでいた王、女王は大変長寿でした。平均寿命が40歳にも満たなかった当時、91歳まで生き、60年も王位に付いた王がいたほどです。王の長寿が、国の安定や発展に繋がり、歴史にも影響を与えたと考えられます。

征服者エルナン・コルテスの側近が書いたとされるティノチティトラン見聞録には、チョコレートについて「この世のいかなる飲み物よりも健康的で、滋養に富んでいる。というのも、これを飲んだ者は、一日中何も食べずにどこまでも歩き続けることができるからだ」と書かれていたそうです。

カカオには、さまざまな有効成分が含まれています。

  • フラバノール(抗酸化物質)
    細胞の損傷に繋がるフリーラジカルから体を守る作用があり、血圧の低下や心臓病の予防に効果があると言われています。

  • カカオプロテイン
    大腸がんと関係する異常細胞を減らす働き、便通が改善するという研究成果が発表されました。

  • テオブロミン(チョコレートの苦味の成分、香り)
    ストレス解消、リラックス効果

  • カカオポリフェノール
    抗菌作用があり、虫歯だけでなく、歯周病予防など口腔内の健康を守る役割があります。
    その他、アレルギーの改善、肌の老化の予防、動脈硬化の予防も。

古代中南米の王たちが長寿だった理由が、お分かりになったのではないでしょうか。

特別展「古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン」展示 
円筒形土器 マヤ文明 600~850年 出土地不明 メキシコ国立人類学博物館蔵

貨幣となったカカオ豆

10世紀以降になると、カカオは王・王族だけのものではなくなり、貨幣の役割を果たしました。
1545年、メキシコ中央部にあった都市国家・トラスカラで書かれた、ナワトル語の記録が残っています。

  • 野ウサギ = カカオ豆100粒

  • 小さなウサギ = カカオ豆30粒

  • 摘みたてのアボガド1個 = カカオ豆3粒

  • 熟しきったアボガド = カカオ豆1粒

  • 大きなトマト1個 = カカオ豆1粒

庶民も使うようになったカカオですが、貨幣として使われたことで変わらず貴重なものだったと分かります。貨幣になったことで、カカオ豆の偽物まで作られるようになったそうです。

世界に広がるチョコレート

16世紀のスペイン侵攻で、カカオがスペインに渡りました。
その後、どのようにしてカカオが世界に広がったのでしょう。

スペインでは100年ほど、カカオが門外不出とされていました。
大きく広まったのは、1660年スペイン王女マリア・テレサの結婚の時からです。ルイ14世に嫁いだマリア・テレサは大のチョコレート好き。輿入れする時、チョコレート専用の料理人をスペインから連れてきたと言われています。

日本には、1797年長崎の記録に残っていることから、出島を通したオランダ商人との貿易でもたらされたとされています。

世界にチョコレートが広まっても、特権階級や非常に裕福な人々だけの飲み物でした。大衆に広まるまで、28世紀という長い年月がかかりました。

現代も続く、有名な会社が名を連ねていますね。

さいごに

世界中に広まり、身近なお菓子となったチョコレートですが、古代中南米とは食べられ方がまったく異なります。

先ほど「カカオの効能」を紹介しましたが、砂糖や乳製品、油脂などの添加物がたっぷり入ったチョコレートでは、逆効果になります。

最も健康に良い摂り方を知っていたのは、古代中南米の王や王族たちだったのですね。私はこのことを知ってから、ハイカカオチョコレートしか口にしなくなりました。

BIZEN中南米美術館 グアテマラのリオ・アスールにある墓所から発見された陶器の壺/レプリカ 
マヤ古典期前期 紀元500年頃。
蓋をしっかりと締めることができ、鎧型の上部を取っ手のようにし、持ち歩くことができます。
チョコレート飲料が入れられており、水筒のような役割だったと考えられています。

現在開催中の展覧会でも、古代メキシコをはじめとする古代中南米とカカオ(チョコレート)の関わりを知ることができます。チョコレートカップの実際の大きさと美しいデザインを、是非ご自身の目でご覧ください。

またkoedoのTwitter(https://twitter.com/koedo_project)では、現在東京国立博物館で開催中の特別展「古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン」のチケットを抽選で3組6名様にプレゼントします。皆様、奮ってご応募ください。

〇●BIZEN中南米美術館ーーーーーー

  • 展覧会名:「冒険!マヤ文明」展 エピソード2

  • 期間:2023年3月28日~10月9日(月・休) 

  • URL::https://www.latinamerica.jp

BIZEN中南米美術館 館内の様子

〇●特別展「古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン」

  • 東京国立博物館 平成館  2023年6月16日(金)~9月3日(日)

  • 九州国立博物館(福岡会場)2023年10月3日(火)~12月10日(日)

  • 国立国際美術館(大阪会場)2024年2月6日(火)~5月6日(月・休)

特別展「古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン」
 左:猿の神とカカオの土器蓋 マヤ文明 600~950年 トニナ出土 トニナ遺跡博物館蔵

(koedo事業部)

【参照】

「教育×IT」を定点観測するwebメディア【koedo】

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