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恋愛挽歌(書きかけ)

さみしさが先立つ夜には、気持ちの行き先なんてどうでもよくなる。
でも選んだのは君だし、なかった事になんて出来ない。
それは責任とかそーいうハナシじゃなくてその晩、その人を選んだのは君自身だから。
その晩、君は本当にその人の事を求めていたし必要だったんだ。
多分、それは続く夜にも。

愛してるなんて言うのは簡単だ。
その気持ちの本当なんて実はどうでもよくて私の口から発したその言葉自身に意味がある。
だから、ものすごく悲しいけど、みんなは私の言葉を聞きたがる。
本当なんていらないんだ。
そう気づいた時のショックは今でも忘れない。
まるで何かが私の中から抜け出したみたいだった。
多分それは本当とかそういうモノ。
ものすごく分かりやすく言えば私自身。
あれからどれくらいたったろう?
知覚できる年数はとうに過ぎた。
青春が終わり、なんだか大人になれないまま時が過ぎて誕生日が素直に祝えなくなった今日この頃。
ああ、私は三十歳になったんだ。
心からどうでもよいと思った。
周りは何かをうるさく言う。
体力の衰え、なんだか重くなった立場、動きにくくなった環境、何よりも言い訳して動こうとしない自分の心、そして結婚。
「ミクも早く結婚したいでしょ?」
「孫の顔も見たいな」
「焦ってない?」
「いまどき三十で結婚もないっしょ」
「仕事が一番だよね」
「て、いうか年収がアタシより低いってありえないっしょ」
「いまさら恋愛とかどうでもよくない?」
「優しいだけじゃね」
「彼氏が言うこと聞かなくってさ」
「なんかむこうは子供が欲しいみたいなんだよね」
「ハゲとかマジありえないし」
「ん~したくなったら結婚とかもいいかもね」
「子供に縛られて自由ないとか耐えられない」
「旦那に縛られて自由ないとか耐えられない」
「こないだ友達が離婚してさぁ」
親、友達、同僚。
その言い分を聞いて私は答える。
「そうだね、結婚もいいかもね」
「ん~自分の子供って可愛いだろうね」
「ちょっとだけ」
「そうそう、もう少し先でもいいよね」
「ああ、分かる。ようやく立場上がってきて仕事も好きに出来るようになったもん」
「確かにそれは無理!私彼氏の貯金額知っちゃって別れたことあるよ」
「それはあるかも、もう楽しいだけじゃないもんね」
「なんかこの年になると逆に優柔不断にみえる」
「勘違いあるよね、付き合ってやってるのはコッチだって」
「大変なのはコッチだって分かってないよね」
「あとデブとか」
「今はそんな事考えてる余裕ないねぇ」
「まだまだやりたいことあるっての」
「縛ってくる男とか信じられないよ、ホントに」
「早く結婚した子ってホント離婚多いよね」
すると安心する。
ああ、私だけじゃないんだ、そう思ってるのは。
誰かの同意が欲しくて仕方ない、みんな。
だから私は同意する。
少しだけ相手の意見を深読みして、答えを先取りして。
するとさらに安心される。
そうそう、私が言いたかったのはそれ!!
こいつ分かってるじゃん!!
相手の表情がそう語る。
私は気づかないフリをしてニッコリ。
だからみんなは私の言葉を待っている。
聞いて欲しい。
そして認めて欲しい。
私のコトを。
そして言って欲しい。
私の意見を他人の言葉で。
同意。
それは深く同意され理解されるコトだから。
なぜ私の言葉をみんなは待つのか。
それは簡単。
私が他人の鏡だから。
自分は自分に痛烈な批判をしない。
自分はいかなる時も自分を認める。
自分はどんな場合でも自分に甘い。

私は貴方とは違う形をした貴方自身。 

本当をなくしたときから、私自身がいなくなってから、ずっと私は私と身近な他人。

「ミク!?ミクちょっと聞いてる?」
携帯で話しながらテーブルの上に置いてある鏡にうつる自分をぼぉーっと眺めていたらいつの間にか意識がトリップしていた。
「ああ、ゴメン聞いてなかった」
素直に謝り意識を携帯に戻す。
私は鏡が恐い。
そこに写る自分が自分に見えないからだ。
「もう、しっかりしてよ。大事なハナシなんだから」
「だからゴメンって、ええっと独身最後の飲み会だっけ?」
電話の相手、篠咲くるみは来月晴れて結婚する。
「そうそう、それ。結婚しちゃえば当分ハメも外せないしさ、ホントは旅行とかにしたいんだけど式の関係で時間も取れないしまあ飲み会でも、って思ってさ」
「ああ、そうだよね。なんか式って大変らしいもんね。去年結婚した先輩が言ってたよ」
「でしょー!!!もう式場選びから始まって料理のランク、引き出物、招待客、席順、司会を誰に頼むか、両家両親親戚も含めてぐっちゃぐちゃ。これじゃ半分仕事だよぉ」
そういうくるみの声はどこか弾んでいる。
「でもドレスはここだわったんでしょ?ちっちゃい頃から言ってたもんね、自分でデザインした真っ白なドレスに身を包んでとか何とか。夢をかなえて今じゃ名の知れた衣装デザイナー、自分のドレスは特に気合入ったでしょ」
「うん、納得いくデザインが出なくてあやうく式が延びるトコだった」
「締め切りにあわせるのも仕事のウチだよ」
「分かってるよぉ、いつもミクは厳しいよぉ」
「それが私の仕事だからね」
「そうだよねぇ、今じゃ副編集長さんだもんね。アタシの仕事が軌道に乗ったのもミクさんのおかげっす」
「またぁ」
私の仕事はフッション誌の編集。
学生時代にもぐり込んだ出版社にそのまま採用されキャリアを積んだ。
編プロと見分けのつかない弱小出版社だったウチを出版不況の中ここまで大きく成長させたけん引役になった雑誌「ファニー」の副編集長に気がつけばなっていた。
「ホントだよ!だってミクが私の服を取り上げてくれたから今のカンパニー・フリーがあるんだよ」
カンパニー・フリーはくるみの会社だ。
どこにも相手にされない地方の小さな会社からスタートし、今では渋谷に本社を持つ立派なブランド。
カジュアルな服からドレスまでそろい、バッグやポーチ、靴、アクセサリーまでカンパニー・フリーでトータルコーディネートが出来る。
「でも、もうくるみの年収の方が多いしねぇ」
「だから青葉出版はおかしいんだよ。ミクがいなきゃ今頃夜逃げしてるか社長がクビつってるかど
っちかなのに。ねえ、そんな会社見切りつけてウチ来なよ」
「雑誌屋がカンパニー・フリーみたいなブランドで何が出来るの?いまさら若い子に混じってショップの店員は出来ないでしょ」
「雑誌屋の経験を生かして企画に回ってくれればありがたい!」
「企画、ね」
それは今の仕事だ。
やはり人が求めるものをただ私自身というカタチではなく紙面で表現する。
私は私の分身を造ったのだ。
「そう、企画。時代を先取りするその感性をアタシは買いたい!!」
それは違う。
時代なんて先取ってない。
私はただみんなが言うとおりに紙面を造っただけ。
「アタシは結構本気だよ!!」
くるみが畳み掛ける。
毎度のことだ。
会えばいつでもこの話題。
くるみは本気で私を欲しがっているのだろう。
だから私はいつもこう答える。
「ありがとね、くるみ。でも私にはまだ雑誌でやりたいことがあるからさ」
ありがとうでくるみの自尊心をなぐさめ、そして彼女のモノを造るデザイナーとしての部分を私も創作者であると言ってくすぐり、そしてやんわりと断る。
本当は私にやりたいことなんてない。
「ん~いっつもミクはそれだ。ま、もし雑誌じゃなくてファッションで何かを表現したくなったらいつでも言ってね」
「うん、その時はよろしくね。それで、話は戻るけど飲み会は?」
彼女を立てて、お願いまでして機嫌を取り話を戻す。
「そう飲み会!!あやうく忘れるトコロだったよ。とりあえず日取りはみんなに確認して、一番人が集まる日にするとしてさ、場所はウチの会社のそばのフロンティアでどう?」
「ああ、いいんじゃない?式とかあると時間的に大変だろうからくるみの会社のそばで異議なし!」
私はフロンティアの料理がちょっと苦手だ。
「ミクがオッケーならそれでいいね。んじゃその線で連絡回しとくから」
「ん、了解。それじゃ飲み会楽しみにしてるね」
私は少々疲れてきていた。
「うん、楽しみにしてて。それじゃまた日取り考えて連絡するね。」
「ん、待ってる」
ん、心に一呼吸。
「じゃぁ」
「またね」
ピッ・・・・プープープー
携帯をおく。
そしてため息。
くるみのことは好きだ。
親友だと思ってる。
でも、くるみと喋るのは大変だ。
きっとくるみは私に気なんて使って欲しくないんだと思う。
私だってくるみに気なんて使われたくない。
でも、それと私が気を使わないで誰かと喋れるのは話が違う。
それは呼吸するようなもの。
呼吸を止めて人は生きられない。
そうしたら私はきっと溺れてしまう。
気を使い続けるのは疲れるのに、誰かの鏡でなんかもういたくないのに、だけど、私は、他の生き方を知らないのだ。
私は、私でいたいのに、私がいないのだ。
「どうしたら、いいの?」
鏡の中に問いかける。
他人の求める答えによどみなく答えるはずのそれは、かすかに歪んで、何も答えてくれなかった。


「どうしてお前はいつも笑ってるんだ?」
今は深刻な話をしている。
「それは大事な話じゃないのか?」
大事な話だ、と思う。
「今大変なんだろ」
大変だ、と思う。
「辛いんだろう?」
辛いんだ、と思う。
「だから何で笑ってるんだよ」
私は、これ以上の表情を知らないのだ。
「面白おかしくなんか話さなくていいんだよ」
面白くなくて聞いてくれるの?
私なんかの話を。
「ちゃんと聞くし馬鹿になんかしない。お前の気が済むまでそばにいる」
私が貴方の望む答えを出さなくても?
そんなのは、嘘だ。
みんな、みんな、みんな私に望むのはそれじゃないか。
「だから言えよ。上手く伝わらないかもしれない、けどそれはしょうがないじゃん。人間の、それも気持ちの問題って言葉にするの難しいし。でも言葉にしなきゃ誰にも伝わらない。まず言ってみろよ。
全部、そこから始まるんじゃないか?」
だから言ってるじゃん!
私は何も言わないほど、何も言わないで耐えられるほど強くないよ!
「お前の気持ちつーか叫びつーか・・・そういうのを汲み取るのは簡単だよ。でもそーいう表現を続けてると、なんでも面白くとか伝えやすい形に変えると、いつまでたってもホントには届かないんだぜ。そーやっていつまでも自分から逃げるなよ!」
逃げてなんかない!
私は私と必死で戦ってる!
私は私と、私は私を必死で隠している!
「私は!・・・私は・・・」
「私は・・・何だ?」
「私は・・・・」
私は何を言いたいのだろう。
辛いのだ。
悲しいのだ。
寂しいのだ。
でも、なんて言ったらいいか分からない。
「分からない、なら分からないでもいいんだ」
そう、怒った顔から、突然何かをあきらめたように笑った彼の顔がなぜだが私はとても悲しかった。
今日も彼の為におしゃれに決めて、待ち合わせの時間にあうように家を出て、なのに五分遅刻したように見せかけて、彼に合わせて、なのに彼はなぜ私を困らせるのだろう。
貴方に、合わせたじゃない。
貴方の好みになるように努力したじゃない。
今日はドライブじゃなかったの?
なんでこんな場末のパーキングエリアで車を止めてるの?
せっかく作ってきたお弁当は。
「ねえ、そんなコトより早く行こうよ」
一刻も早くこの場を立ち去りたい。
「だから・・・」
そういって彼はタバコに火をつけた。
「今大事なのはドライブじゃないだろ?」
大きく紫煙を吐き出す。
私はタバコが苦手だ。
もちろんそんなことは言わない。
「いいって、私の話は。変な話してゴメンね」

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