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地政学とは地球儀で世界をみること。カイゾクに教えられた世界と私のこと📕

『13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海』という本を読みました。
正確には、買ったその日に読み終わり、読んだその日にこれを書いています。そのくらい楽しくすらすら読み進めました。
本屋さんに山積みされていたので、目にした方や、すでに読んだ方も多いことでしょう。

地政学というのは、以前別の本ではじめて知ったのですが、世界の動きを地理上の理由から研究するものです。
世界史で学べ!地政学』という本で地政学のことをはじめて知った時に、その視点や、歴史の流れや、今起こっている問題の背景がクリアになり、なぜ今まで知らなかったのだろう!とショックを受けました。それぐらいスゴイです。

地政学(ジオポリティクス)は、リアリズムの一つです。(略)
地政学は、帝国主義の論理です。国家と国家が国益をかけて衝突するとき、地理的条件がどのように影響するかを論じます。(略)

各国のすぐれた指導者はリアリズムでモノを考え行動しています。(略)
相手の思考方法、世界のルールを熟知すれば近未来予測も可能になり、日本のとるべき選択肢もはっきり見えてくるでしょう。

『世界史で学べ!地政学』 茂木誠 祥伝社

さてこの本。地政学とうたっていますが、地政学とは?(そのノウハウ)を子どもにかみ砕いて教える本ではありません。
自分の周りの世界がどうなっているのか、地球儀を見ながら一緒に考える本です。
つまり、タイトルにもあるように、
「カイゾク」と「地球儀」で「航海」し、世界のことを考えます。

ちょっと余談ですが、まえがき・あとがき(著者がいいたいことを端的にまとめているもの)がなく、久しくフィクションを読んでいない私にとって、展開が予測できない航海に出発することになりました。
かろうじての情報は作者の略歴で、記者という立場であること、ネコ好きなこと、40歳になって泳げるようになったことが書かれていました(これで好感度あがりました)

さて本の内容に入ります。

カイゾクとあだ名されている変わった風貌の老人の店に飾られていたひとつのディプロマットという古い地球儀
ウインドウの前で見とれていた、高校1年生の大樹と中学性の妹の杏
その二人が店先でカイゾクに声をかけられて、ある試験に合格したら地球儀をもらえることになりました。

「ならば、こうしようか。10日、いや7日間でいい。夏休みの間、7回ここにきて、わしの話を聞く。最終日にわしの出す問題に答えられたら、この地球儀をさしあげよう」

『13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海』 田中孝幸 東洋経済新報社

このやりとりは、実際に子どもの興味を引くだろうなあと感心しました。
・時価(たぶん高価なもの)がタダになること
⇒すごく手の届かないものが、自分の選択で急に身近になる
・7日間のレッスンを受ける
⇒どんな内容だろう?話を聞くだけでいいの?
・試験に合格する
⇒難しいのかな?どんな風にしたら合格できるのかな?
話だけ聞いてもいろんな興味がわきます!

そしてレッスンは対話から学ぶ方式で、古代ギリシャのソクラテスと対話しているかのように進んでいきます。

と、ここまではメタ的に(本の人物をキャラクターとして俯瞰して)見ていたわけですが…
気づいたら、ごく最初から、私はカイゾクの話に引き込まれ、生徒側として二人と一緒にレッスンを受けることになっていました。
それだけ興味深い話だったのです。
ー各日のあとにレッスンのまとめがついていますが、ここからは印象深かった部分をピックアップします。ー

1日目 
海のことから見える世界について。
地政学の講義かと思って読んでいたので、初日は海を制覇したいという各国の考えをレクチャーするのかと予想してましたが…
海をテーマに地球儀をつかって一番強い国のことを学びます。
海を制するとは?流通を抑えるとは?海底ケーブルを持っているとは?
知っているつもりで知らなかったことがたくさんでてきました。

「海には常に流れがあるように、人の流れも地球上で常に激しく動いている。開かれていて、魅力的な国は磁石のように人々をひきつける。みんな幸せを求めて国境を越えていく。人の流れを見ていれば、どの国にどんな可能性があるかよくわかる。」

出典同

2日目も海の話です。
現実に起こっている戦争では、国際社会のルールを無視していても、国際法で止められないことについて疑問をもっています。
国連・国際法の限界を感じて失望することもあります。
ここに明確な解決策はありませんが、私たちの課題がわかりました。
罰則を強制するのではなく、法を犯すものの事情と思惑に向き合うこと。
世の中が偏っているならどう変えなければならないのか?を考え続けること。

領土というのはぼーっとしていたら取られるというのが世界の常識だ。」
「日本のどこかが中国に取られてしまったら、それを取り返すためにほかの国が何かしてくれるかというと、それを期待する方が間違っている
「国際法は、違反した場合に誰が罰することができるのかあいまいなものだ。そして、それは大きな国に都合よく使われるという傾向がある」

「じゃあ、国際法に意味はないということでしょうか?

出典同

もうひとつ日本にとって大事なこと。
核兵器は廃絶すべきだし、日本が絶対に持つべきでないが…
日本人がすべてその気持ちを持ち続けられるだろうか?
そのためには、すべての人が目を背けずに考えること。
出てきた思慮深い知見を、”よりよい世界にするため” 議論し続けること。

「だが考えてみよう。(略)
核兵器への抵抗感も、時が経つにつれ、だんだん弱くなっていくかもしれない。それに、例えば日本がどこかの国に攻め入れられて、犠牲者が出たとする。そうなればこれからは核武装して自力で日本を守ろうという意見が盛り上がっても不思議ではない。」
「わしも核兵器を持つことには反対だ。だが、今の当たり前は未来の当たり前ではない。いやな問題ほど、君たちにも目をそむけずに考えてほしい

出典同

3日目
たとえ世界中の世論が支持していても、たとえノーベル平和賞を受賞していても、国内では投獄されたり行動を規制されたりするジャーナリストが大勢います。ここには記者としての作者の想いが書かれていました。
日本は大丈夫だろうか?もうこんなことは起きないと言い切れるだろうか?

「いずれにしても、記者に銃を向けるような国は、それよりずっと前に自分の国民に銃を向けているわけだ。だから、記者を殺すような国に未来はない、とわしは思っている」

出典同

4日目
小国と大国をくらべたとき、小国は国を維持する努力をしていること。
日本にいると外国語がなぜ身につかないのか?
それは、いままでは自国だけでもそれほど困らず過ごせていたから。
経済力も人口も斜陽になっていくだろうこれからはそう言い切れません。
英語が小学校から必須になっている今、”外国語を勉強すること”の根本を念頭に置きたいと思います。

「外国語を勉強するということは、その国の言葉だけでなく、考え方や文化を知ることであり、それと比較して自分の国を理解することでもある。そうすれば話し合いや商売の場面で、自分の国の理屈を無理に押し付けたりしないだろう。大きな国の会社や政府は、それができないために失敗することも多い。いざという時に理にかなった良い判断ができなくなるんだよ。

出典同

それから意外なことに ”なぜ学校の勉強が必要なのか” が書かれていました。
ここは一番印象に残っています。

「君たちが学校で学んでいることも大事だ」

「でも、学校ではカイゾクさんが話してくれるようなことは教えてくれないよ。数学とか歴史とか、私の将来に関係あると思えないし」

「一見自分と関係のないような分野の学問でも、取り組んでみれば面白く、役に立つこともある。学校で知識を増やしたりものを考える習慣をつけておけば、君たちをだまそうとする人の言葉にも、立ち止まっておかしいかもしれないと考えることができるようになる。知識を増やすということは、だまされないように武装するということなんだ」

出典同

5日目。
アフリカのなぜ?を考えます。
豊かな土壌で資源があり、人口も増えているアフリカがなぜいつまでも貧困のままなのか?
植民地・奴隷・独立後の分断(定規で引いたような人工的な国境線)・いまだに経済大国に搾取され続けているしくみ…。これはすでに知っていることでありながら、私はこのような考えでした。

そもそも遠い国のことで、大金も現地に行って協力もできない私になにができるのか?
小さな募金やフェアトレードの商品を選ぶくらいでなにも変わらないのではないか?

「じゃあさ、私がやってた募金活動ってあんまり意味なかったのかな?さっきのフェアトレードとかも。(略)私たちがちょっとお金を送ったくらいじゃ変わらないよね?」

差別やいじめ、不正をなくすことに効果的なのは、関心を持つことだ。

「君たちは今日新しい知識を身に付け、どうしたら解決できるかを自分たちで考えた。そういった一人一人の小さな意識の変化も、まとまれば大きな流れを生んでいけるだろう」

出典同

6日目。
(地政学らしい)大国にはさまれた国の立場のこと。
今の社会の争いごとは、問題が解決されていない限り関連する歴史は蒸し返され続けること。自分たちの行動・言動に対して感情的になる国もあることを忘れてはならない。日本は強国であり・加害者側だったという下駄をはいていることを忘れてはならない。

「今日は終戦記念日だが、なぜ敗戦ではなく終戦というのか、考えたことがあるかい?」

出典同

7日目。最後の日。
地球儀からみた世界と考え方。
未来のこと。
カイゾクのような大人から心強い言葉を聞くと、未来は良い方向に変えられるかもしれないと希望が持てます!

「いろいろ悪いニュースが出ているものの、世界はどんどん良くなっている。長く生きてきたわしが言うのだから間違いない。人間は思ったよりもしっかりした生き物だ。これからも世の中は良くなるだろう。幸運を祈るよ

出典同

そしてカイゾクからの試験が発表。ドキドキしました。
私も一緒に考えて自分の答えを考えました。

エピローグで
大樹と杏それぞれの答えを知ります。
最後のカイゾクの告白で、彼がどういう思いで二人に接していたのかを知ります。これでようやく何をしている人なのかわかるのですが、言っていることは本当なのか。正体は本当は何なのかはっきりしないです。
(二人はスパイだと軽く疑っていました)

…カイゾクは実在する人物がモデルなのだろうか。
世界的な大企業を一代で築いた社長?
世界をまたにかける諜報機関のスパイ?
本当の海賊?
それともヒトではない幽霊だったりして…
ここは読者が想いをはせる部分で私も時々考えています。

多くのことを教えてくれた人への恩返しは、他の別の人に多くのことを返すこと。他者へのバトン。
これも教わりました。
さて、私はカイゾクの楽しいレッスンの恩を誰に返そうか…?

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