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群馬県吾妻郡草津町の温泉裏通りのとりソースかつ丼

 群馬県で最も有名な温泉地である草津。人の流れがまだ少ないようだ。駅から急な坂を下り、中心地である草津のシンボルである湯畑へと足を運ぶ。

 夜のライトアップは湯畑の白い景色を七色に染め上げ、観光客の絶好の写真撮影スポットになっている。もくもくと立ち上がる湯気を足湯からぼんやり眺めながら体を芯から温める。

 草津にやってきたのは晩秋の11月頭、すでに栃木のロマンチック街道から草津へと抜ける山々は紅葉の時期を越えていた。寒々しく枯葉の茶色に染まった山にぽっかりと入るように存在する草津の街並み。

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 中心部は恐らく以前の活気よりも少ないであろうが、しっかりと多くの旅人がいた。

 彼ら、彼女たちは甘味屋に温泉まんじゅうなどの土産を買うために、または観光客向けの温泉施設や無料温泉に入るために、はたまた草津と言えば湯もみの実践ショーを見るために。それぞれの観光を楽しんでいるようだ。まあ、かくいう僕もその一人であるわけだが。

 さて、すっかり身体も湯に馴染んだようだ。次は温泉に体を沈める番だ。身体も草津の湯を求めている。だが、その前にもうオレンジと黒の境目が近づいている。胃袋が温泉の前にエンプティランプをともしている。草津、何を食えば草津か、思い立つまま、湯畑から逆に山の方へと繋がる坂道に点在する居酒屋通りへと足を運んだ。

 だが、流石に夕刻。湯畑近くの焼肉屋は行列。草津に来て魚系の居酒屋はなにか僕の気分に合わない。貸し切りのお店もあるようだ。有名な蕎麦屋さんはずらりと行列が。おうおう、流石観光地だな、美味しいと評判の店には相当並ぶようだ。

 居酒屋通りからぐるりと引き返し、再び湯畑へ。そう言えば近くに味のある裏通りがあったな、そっちに狙いを定めてみるか。そう思い、駅の方へと向かう坂道の一本裏通りに足を踏み入れる。

 思った通りだ。中華料理屋、居酒屋が4,5軒あった。こっちは地元の人が行きそうなお店が多いぞ。中華、居酒屋、焼肉…目を泳がせながら自分の心に問いかける。何がいい、草津、何がいい。裏通りの突き当りの階段を昇り、更に散策する。するとすぐに看板に灯る黒文字が目に入った。

 「とり彦」の店名とそのこじんまりとした佇まい、ここがいい。この観光地らしからぬ渋さに心を射抜かれた、ここにしよう。がらりと戸を開き、居場所を確保した。

 うん、店内はこじんまりとして一人席も4人掛けぐらいのテーブルもある小さめの店内。障子に木目。白い壁にあちらこちらに貼られる写真やカレンダー。昭和の香りが心地よい。

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 僕は入口近くの一人席に席を取り、メニューに目を向ける。鳥料理がメインだが、オムライスやラーメンなどの昔の食堂っぽいメニューがあるのも嬉しいポイントだ。メニューを一通り見て、気になったメニュー『とりソースカツ丼』と焼き鳥を女将さんに注文する。

 
 メニューが決まったところで店内をぐるりと見渡し、隣の席のご夫婦が瓶ビールで一杯やる風景に和む。がらりと戸が開き、徐々にお客さんが入ってくる。地元の人だけでなく、この店を偶然見つけた観光客も何組かいるようだ。

 4人の小上がりテーブルのお客さんは焼き鳥に、チャーシュー何人前だのやきとり丼だの結構頼むなあ。僕が言えた義理ではないのだが。

 合間にもお客さんがテイクアウトに訪れているのを見かけた。宿へ持ち帰り、テイクアウト。そういうのもありだったか。

 そんな思考を巡らせていると青い皿が供された。

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 焼き鳥だ。串式じゃなく、様々な部位の盛り合わせタイプでの提供か。黒い照りを輝かせたその姿は紛れもなくやきとりだ。軽く頭を下げ、やきとりに箸を延ばす。まずは平たい部位、これはつくねか。

 甘辛の妙のラインが効いてるタレが舌に染みる。いい深みだ。つくねはフワッとしてほぐれ、噛めば軟骨のコリコリと肉の柔らかさが小気味いい。
 
 次にねぎま。ネギもよく、しっかり鳥が美味い。表面の皮が香ばしくパリっと焼かれているのもやきとりだ。この一皿でここにしてよかった、そう思う会心の一品だ。

 焼き鳥をすべて堪能した後お重がすぐに運ばれてきた。丼じゃないのか、お重なのか、そこはちょっと残念だったが、丼でも、重でも蓋を開くときのワクワク感は何にも勝らぬときめきだ。

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 蓋を開ければソースの香りが鼻をくすぐり、小ぶりのチキンカツが3つ、ソースを纏い米の上に鎮座する。もうこれだけで美味いに決まってる。

ザクッとした衣とソース、ご飯、この取り合わせが外れな訳がないだろう。ザクっと一噛み、鳥柔らかい、でもトンカツよりもスイスイいってしまう。ソースとりかつ丼、これはいい。
 汁物は豚汁か。いいとこどりな気分だ。

 丼は米も美味くなきゃいけないわけだがしっかりと一粒一粒立っている炊き方でまたソースに負けていない。丼のバランスがしっかりとれている。

とり、とり、米、汁。すっかり重の隅までキレイにかきこみ、豚汁を飲み干す。いや、草津の裏路地の鳥定食、実に僕らしいじゃないですか。有名なお店に並んでもいいが、一人で地元の人が集う店で食べるものいいもんですよ。

会計を済ませて店から出ると寒さが身に染みる、足湯で温まった体も冷めてきている。

さて、このまま温泉にしゃれ込みますか。湯畑の湯気を目指し、僕はふらりと表通りに消えていく。草津良い夜、なんてか。


今回のお店
とり彦
住所 群馬県吾妻郡草津町草津148
定休日 火曜日
営業時間 11時30分~19時30分(休憩あり。夜の部は17時30分より)


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