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すべてが糧

関東/大学院修士課程理系/編集(子ども・教育)志望


本選考が迫る12月、私は3年日記を始めた。きっかけは、就活の息抜きに訪れた美容室で、「家庭画報2024年1月号」に掲載されていた芦田愛菜さんと五木寛之さんの対談を読んだことだった。

対談の中で、芦田さんが「土砂降りの日にイヤホンで音楽を聴きながら電車に乗っているとき、曲と曲の間で傘を忘れないよう気遣う優しい車内アナウンスが聞こえ、いいなと思った。そうした心に響いた出来事を3年日記に書き留めている」といったことを話していた。私はハッと、この半年間の就活ばかりで余裕のない自分に気が付いた。そして、少しでも心に余裕ができたら、今の頑張りが未来の自分の励ましになったらと思い、3年日記を始めることにした。

そんな理由で始めた日記だったが、就活時のものを読み返すと、焦ったり一喜一憂したりしている内容ばかりで、全く余裕がある様子はない。ただ、講談社の面接があった日の日記にだけは、必ず「おつかれ!」と爽やかな調子で書いてあった。こう書いたのはきっと、講談社の面接では、これまでに出会ったあらゆる物事を糧にしてやり切ることができた満足感があったからだ。

例えば冒頭で紹介した対談は、面接の会話を弾ませるきっかけになった。最終面接の序盤、私は緊張のあまり、事前に準備した言葉をできるだけ淀みなく話すことだけで精一杯になっていた。だが、エントリーシートの最近見た作品欄に記載した、この対談の詳細について聞かれ、芦田さんの3年日記の話や、五木さんの読書に関する印象的な問いについて話すうちに、緊張が和らいでいった。そして、以降の質問では自然な会話の調子を取り戻すことができた。自分が体験した感動をありのままの言葉で伝えることで、自分のペースを取り戻すことができたのだ。

こうした、これまでに見たもの、聞いたもの、選んだもの、好きだったものに支えられていると感じた場面は、選考中に何度もあった。その度に、それらが自分の糧になっていく心強さを感じた。

エントリーシートが書けないときや面接が不安なとき、木下龍也さんが就活の進路に悩む理系院生の方へ送った短歌を思い出し、自分を奮い立たせていました。
スーツが似合わないとずっと思っていたので、少しでも堂々と面接に挑めるよう、お気に入りの金ボタン付きのボトムスを着ていました。


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