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【ジャーナル】こうちアントレプレナーナイト 連続セミナー #6 高知のクラフトビール「TOSACO」これまでとこれから

「こうちアントレプレナーナイト」は、高知県内で活躍する先輩起業家を招き、起業までの道のりや苦労話、起業するにあたっての心得など、実体験をもとに紹介してもらう、対話形式のセミナーです。
また、参加者が考えているアイデアがある場合は発表し、ゲストと参加者が一緒に、そのアイデアを磨き上げる参加型のプログラムとしても機能させていきます。

第6回目の講師は、瀬戸口信弥さん(合同会社 高知カンパーニュブルワリー)。
『高知のクラフトビール「TOSACO」これまでとこれから』と題して、瀬戸口さんが起業に至るまで、どのようなことを行ったのか、そして起業後にどんな困難があり乗り越えていったのか、ということを中心にお話しいただきました。

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瀬戸口信弥さん(合同会社 高知カンパーニュブルワリー
1987年大阪府大阪市生まれ。
2010年に摂南大学工学部電気電子工学科卒業後、奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科に入学し、タンパク質光制御系開発のための基礎研究を行なう。
その後、電機メーカーに入社し、センサ開発に従事。就業中、高知県への移住と、ビール会社の起業を決意し、2016年から、株式会社石見麦酒にてインターンシップを受講。
株式会社石見麦酒インターンシップ修了後、合同会社高知カンパーニュブルワリーを設立。2018年1月、発泡酒醸造免許を取得し、3月に高知に本格移住。
県内唯一となるビール醸造所を開設し、同年4月にクラフトビール「TOSACO」を販売。

紆余曲折あったこれまで

「高知には縁もゆかりもありません」そう切り出した瀬戸口さん。
ご自身は大阪府出身、奥さんも兵庫県出身です。高知との接点は、奥さんのお兄さんの存在。お兄さんは高知大学出身で、会うときにはいつも高知に足を運んでいました。
そのとき、高知の良いところへよく連れていってくれ、何回も繰り返す内に、自然と高知に住みたい、と思うようになっていきました。
そんな瀬戸口さんが、クラフトビールの事業を高知で行うまでには、紆余曲折ありました。

大学は電気工学を専攻し、大学院はバイオサイエンスを学びました。「そのとき興味があったことを学んだだけ」と言いますが、今ではこのとき学んだことが活かされたり、知らないうちに役立っていたりしています。
卒業後は、インフラ系の商品を多く取り扱う、大阪のセンサーの会社に就職。当時、会社が新しい事業を始めたタイミングだったこともあり、体制が整っていない中での業務ばかりの日々。
3回ものリコールを受け、メンバーの一員だった瀬戸口さんにとって、苦しい毎日が続きました。若かったこともあり、会社の体制や業務に関することにイライラが募っていく中、「何がダメなんだろう?」と考えました。

自分がやりたいことは何か

その結果、出た答えは「1から100まで、自分で生み出す力がないから、振り回されている」ということ。
「自分でやれることは限られている」と頭では理解しながらも、自分を見つけていこうと色々と行動を起こしていくように。

最初に行ったのは家庭菜園。当時住んでいた地域で農園を借りました。
野菜を自分で育てて食べる、という一連の作業を通じて、自信が生まれました。小さなことですが、自分で生み出し、完結できることに喜びを感じたそうです。家庭菜園は楽しくて良かったのですが、2年ほど続けたときに「自分が作りたいものは何か?」と考えるようになりました。
有機農業をしていたこともあり、生活の規模で行うことの難しさを実感していたからです。

そもそも何がやりたいのか、そのとき頭に浮かんだのが『ビール』。若いときからお酒が大好きだったこともあり、その中でも特に好きなのがビールでした。
理屈ではなく、どうしてお酒が好きなのか、ということを精査していくと、自身の育った環境が影響していることに気づきます。
瀬戸口さんの家は、お酒をよく飲む家で、お酒の席になると皆が喜んで集まっていました。また奥さんの家もお酒が好きな家庭。
「お酒という存在が、人の幸せにつながる」というバックグラウンドがあったからこそ、ビールの事業をやりたいと思った、と原点の思いを振り返りました。

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ビールの販売を開始

その後、高知に移住しようと、大阪で行われていた移住の促進会に参加し、香美市のブースと出会いました。
ビール造りをしたいことを伝えると、担当者が地元の人と繋いでくれたり、アンケートを取ってくれたりしました。その甲斐もあり、高知県のビジネスプランコンテストで優秀賞を受賞。賞金も手にし、事業を始めることに。

しかし研修中に酒税法に関する、大きな法改正がありました。そのときは大変な事態になることが予想されたため、事業をやめることも頭をよぎりましたが、奥さんが背中を押してくれました。
地元のスーパーの社長が、紹介してくれた工場を自分で設え、オリジナルでビールを仕込んで、売り込みにも行きました。
免許も具体性もない状態で営業にいくことは容易ではありませんでしたが、色々なルートから売り先を確保し、酒造免許を取得。
ファーストロットの仕込みのときには、有名なクラフトビール会社の方が味を見てくれるという、ありがたい出来事も。無事、味へのOKサインが出たので、販売を開始しました。

知事への報告やお披露目会の実施、メディアへの露出もあり、生産量は増大。作っても追い付かず、眠れない日々が続いた瀬戸口さんは、遂に体がパンク。
そのとき、助けてくれたのが地域の人たちでした。周りの協力もあり、様々なことを乗り越えながら、瀬戸口さんの事業は今もなお、成長し続けています。

TOSACOについて

瀬戸口さんの作るクラフトビールの名前『TOSCO(とさこ)』は、土佐っ子が由来です。高知の中で生まれた素材を使って作られるビールも同じく、土佐で生まれた土佐っ子。
今後、高知を超えて全国、世界に出ていけるように英語表記で『TOSCO』と名付けた、と話してくれました。
「実際に作ってみると、クラフトビールの多様性を感じることが多い」と瀬戸口さんの作る『TOSACO』には、ビールの国際大会で銀賞を受賞した、高知県産のお米と仁淀川山椒を使った『米ホワイトエール』、ゆずがほのかに香る『ゆずペールエール』、ホップを大量に使用し、苦みが充実した『TOSA IPA』などのラインナップがあります。

上記以外にも、嶺北地域と佐川町のリンゴを使用したビールも製造しています。これは高知でリンゴが獲れることを知らない人が多いため、ビールを通じて知ってもらいたい、という想いから作られました。
また、天候や自然災害でリンゴが傷物になったとしても、ビールでなら加工商品として有効活用できるうえに、少しでもお金に変えることが出来る、というメリットも商品開発につながった理由です。

その他、新たに加わったものとして『和醸ケルシュ』という商品。
これはスタンダードなものと異なり、高知県の日本酒の酵母を使っています。
思った通りの設計思想に当てはめていく方法もありますが、素材の良さを受け入れて、引き立てる方法があることに気付かされた商品だ、と話します。

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