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米、球児。そしてハイブリッドなゲームデザイン。


こんにちは、こぶちです!

さて、「天穂のサクナヒメ」。話題になっていますね!

かくいう私も早速買ってみてプレイしてますが、ドハマりしています! しかしこのクオリティを2名で造り上げたというのですから、すごいですね! 開発期間5年もかかっているということなので、その粘り強さ…白米の比じゃないです。

そして稲作の成果によって主人公の成長が変化し、アクションゲーム部分の攻略に変化を与えるというゲームシステムも秀逸だと感じました。

何を隠そうこの私、このいわゆる「シミュレーション×アクションRPG的」なハイブリッド型ゲームが個人的に大好きでして。
(※今後何度もこのハイブリッドなゲームという表現が出てきますが、私が勝手にそう呼んでいるだけです。一般的に通用する表現ではありませんのでご注意ください!)

有名どころでいえば無双のEmpireシリーズとか、ペルソナとか、あとルーンファクトリーシリーズとか。

また意外と思うかもしれませんがパワプロのサクセスとかも実はその部類だと言えますね。野球は広義で言えば立派なアクションゲームですから!

…何はともあれ、ハイブリッド型のゲームが面白いのは間違いありません。個人的にはもっといろんなジャンルで増えてほしいと思っているタイプのゲームです。そこで、今回サクナヒメのブームを機にあらためてその魅力を、ゲームデザイナーとしての作り手の視点で記事にしてみました。なのでやや作り手に向けたメッセージが強いかもしれませんが、どなたでも興味を抱いた方はぜひ、最後まで読んで頂ければと思います!

ハイブリッド型ゲームは、作るだけで大変…

魅力を伝えるといいながら冒頭からネガティブ発言…と。しかしこれは称賛の意味も込めております。

なぜならシミュレーションとアクション…この性質が大きく異なる2つの遊びをくっつけて成立させるということは、それだけですごいことだからです。このタイプのゲームみなさんならいくつ思い浮かびますか?おそらく両手の指で数えるほどではないでしょうか。それだけに完成させたクリエイターの方型にはほんと、経緯を表したいです。

もちろんゲームを2つ分作るぐらい大変、と言い表すこともできますが、正直それ以上でしょう。なぜなら、ハイブリッドなゲームは組む難易度が圧倒的に高いからです。遊びが異なれば、必要なスキルセットも異なります。

昔、アクトレイザーというゲームがありました。

わりとハイブリッドなゲームの先駆けだと思っていますが、このゲームも土地を開拓していくシミュレーションパートと、スクロール型のアクションゲームパートがあります。シミュレーションパートで人口を増やすことでHPが増え、アクションパートが攻略しやすくなるというつくりがあったりしました。
ですがこちらはアクション部分がかなり癖が強く遊びづらいものだったので…評価はされつつも惜しいゲームという感じにです。ただやはり当時の開発力でこれを作ろうとした心意気は素晴らしいですね。やはりそれだけで難易度が高いことだったのだろうと察します。

これはあくまで私の分析ですが、シミュレーションゲームが好きだったり、つくることにむいている人は、わりと帰納型マインドの人だと思います。どういうことかというと、テーマに基づいたあらゆる事象を組み込み、かけあわせてみて起きる化学反応をゲームの体験として提供しようと考えるタイプの人ですね。攻略法の正解を明確にイメージして組むというよりは、実験しながら作るような感じです。この作り方はゲーム開発中もある意味ゲームをプレイしているような感覚で、試行錯誤は要するものの、とてもワクワクする工程ではあると思います。

一方でアクションゲームが好きな人は、仮説型マインドの人がむいていると思います。とりあえず組んでみて、プレイしてみて手触りが気になれば、原因をつきとめてつぶし、それをひたすら繰り返す。どちらかというと自分の中で思い描く正解のイメージがあって、そこに持っていくためのブラッシュアップを繰り返しゴールを目指していくタイプですね。

このように同じゲームであってもかなり組み上げ方の性質が異なるので、実際にひとつのゲームの中でシンクロさせていこうとすると、かなりジレンマが起きやすいでしょう。

いわゆるオーソドックスなRPG(JRPGと呼ばれたりするタイプ)は、成長することと一定の壁を乗り越えることに対する手段が同じといえます。例えばレベル上げのためにザコ戦でバトルすることと、ゲームを先に進めるためにボス戦でバトルすることは、根っこの部分でやっていることは同じバトルですから、ゲームサイクルとしてはどちらも同じ軸の上にのっており、自然に設計しやすいです。
車でいえば、前に進むために必要なタイヤの回転(=ゲームサイクル)が、ひとつのエンジン(=バトル)からつながって動いている形。これなら自然に車(=ゲーム)が前に進んでいきますね。

ですがハイブリッドゲームは、例えるならばこのタイヤの両輪がそれぞれ別々のエンジン(シミュレーションとアクション)にそれぞれで独立してつながって回転しているようなものです。同じ回転数で回らなければ言うまでもなく車(=ゲーム)は暴走迷走してしまいます。きちんと前に進むようにするためにはそれぞれの連結部分が重要になりますし、同期して動くように繊細にチューニングしていかなくてはなりません。
あらためて天穂のサクナヒメがどれだけよくできているかわかりますね。

しかしそれでもなお、この手のゲームを作りたいという情熱は常にゲームクリエイターを突き動かします。そうに違いない。少なくとも私は今日もツンツンと突き続けられているッ…!

…ということで、ではそのハイブリッド型のゲームの魅力とは一体何なのかを分析して述べていきたいと思います。

魅力1.違う味を交互に楽しめて飽きにくい

どんなにおいしい料理でも、ずっと同じものを口に入れ続けていると飽きてきてしまうものです。また、勉強法で言われたりするのが違う教科を交互にやると脳にとって学習効果が高いという話もあります。

ゲームもプレイヤーに工夫を求める性質のものなので、ずっと同じことをぐるぐるとやり続けていると脳みそが疲弊してきてしまいます。なので適度に異なる工夫を求められるサイクルがあると、それだけで異なる刺激が生まれ継続して遊びやすくなるメリットがあると思います。

ただし注意が必要で、ただ体験が異なれば楽しいというものでもありません。
好みがあまりにも異なる遊びを一緒にしてしまうと、どちらのユーザーからも不満を買ってしまい、どっちつかずゲームになってしまいます。甘さと塩気が合う!と言い出してあらゆるスイーツに塩をふりかけているようなものです。

また作り手のスキルや制作期間の不足により、どうしてもどちらかのゲームのクオリティがイマイチになってしまったりするリスクもあります。ようは中途半端、ってやつですね。やはりひとつのゲームシステムに注力したゲームに比べて、同じ労力を割けないことがほとんだだと思うので、一本勝負のゲームに比べてクオリティが到達しない可能性がでてきます。
なので、世の中でうまくいっているケースとして多いのが個々のゲームとして既に実績があり成功しているものを流用してドッキングさせるケースですね。パフォーマンスもコストもおさえられる、特に実績がある大手がなせる業ですね。無双Empiresはもともと無双シリーズのエンジンを使って戦部分を再現していますし、パワプロのサクセスに至っては野球部分はゲーム内にあるものを採用し、サクセス部分はあの「ときメモ」のノウハウが活きてますから、どちらも実績のあるゲームの結婚ですよ。もうサラブレッドなわけですよ。

とくに私、このパワプロのサクセスモードはハマりすぎてかつて大学時代に一時期毎日日課のように選手を育てていました。(詳しく知らない方は下記リンクをどうぞ。ほどよく内容がわかるようにまとまっています!)

あまりにハマり過ぎて、そんなことしてる暇あったら学校行って自分を育てろよ、といった心の声をガン無視し続けて遊びほうけておりました。(そんな無為な日々が今ゲーム開発という仕事に還元され報われているというサクセスストーリーを歩んでいる…と自分に必死で言い聞かせて今日まで生きています。間違ってなどいない…間違ってなど…うあぁぁ)

…ただここまで言っておいてあれですが、もし個人制作でハイブリッドなゲームに挑みたいって思った場合は、あまり個のゲームのクオリティで背伸びをせず、きちんとサイクルとしてつながりのある部分を丁寧に作るべきだと思います。パワプロのサクセスも今となってはコンテンツてんこもりですが、最初はそこまで要素が多かったわけではありませんでした。完成させてみて、これはまだまだ改善できるな、と思えば改良してまたリリースする、でもいいと思うんですよね。やはりゲームは完成してナンボですからね、はい。

魅力2.テーマに忠実な追体験が味わえる

ハイブリッド型ゲームのもうひとつの良さは、テーマに忠実な体験を表現しやすいところだと思います。まさにシミュレーションであることの強みの部分です。

またパワプロの話になっちゃいますが、あれは本来野球を追体験するゲームですが、サクセスモードはあくまで高校球児を育成をするゲームです。つまりプレイヤーに体験させたいテーマが少し異なります。
高校球児は野球もしますがそれだけではないですよね? それ以外の時間、例えば練習であったり部員との交流であったり恋愛であったり…限られた学生生活の期間をどう過ごすかという追体験ができることが、より育成ゲーム部分に面白さを生み出しています。
逆にサクセスモード内では大会でプレイするときも、最後の打順だけ遊ばせるとか、野球部分も意図的におさえられている。なぜならそれが主題ではないからです。

コナミには当時既に「ときめきメモリアル」という、学生の日常生活や交流をゲーム性としてうまく落とし込んだ伝説的なゲームが既にありました。なのでサクセスモードはその「ときメモ」のノウハウを高校球児の成長体験を再現することに応用し、見事うまくいきました。

こちらもやはり落とし穴の一つ目と一緒で、その体験自体がそもそもゲームとして面白くないと、どんなにテーマを如実に再現していたとしても続けてもらえない可能性があります。だって現実ってそのまま体験するとたいていつまらないものじゃないですか…どんなハッピーな人生を送った人であってもですよ。
さらにシミュレーションゲームは頭を使わなければならない側面が強いので、結構遊ぶ人を選びます。なのでとっつきやすさや気持ちよさを感じられるものがより多くの人に届くのではないでしょうか。

さて、ここまででハイブリッド型ゲームの魅力についてお伝えしましたが、この点をふまえたうえで、こういったハイブリッドなゲームを作りたい!と思ったら何を心掛けるべきでしょうか!?
こちらも私から2つの重要ポイントを示そうかと思います。

要点1.成長はトライ&エラーが大事!

突然ですが、成長って…本来終わりのないものですよね。(いや、あるよという人もいるかもしれませんがそれを認めてしまうと闇落ちしそうなので一旦フタします)

先ほどの通常のRPGの話で言うと、プレイしながら敵との手ごたえを確かめながらゴールに向かって成功確率の高まりを感じられるゲームに比べ、育成とゴール達成が分離しているゲームは、どこかで明確な区切りがある方が、結果としてうまくいったかどうかを確かめることができる。

パワプロもサクナヒメも、一区切りにかかる時間が程よいんですね。1日1回は結果が出るまでプレイしきれる程良い感じ。また一通りの流れをすぐ復習できるので、次のプレイに対して修正をかけやすく、次はもっとよりよい結果を出そう!というモチベーション維持もしやすいです。
ペルソナも全体でみると長いんですが、日常パートは1週間だったり1ダンジョンの踏破までの期間で区切ったりと規則性がある程度はあるので、プレイしていく過程でだんだんとプレイの指針がみえてくるようになるのです。

要点2.お披露目で達成を体感させよ!

結局、成長だけして満足する人はいないわけです。というか、何かしらの手段で確かめない限り、本当の意味で成長というのは実感できないのではないでしょうか。ようは勉強と一緒ですね。勉強して満足する高尚な人はもちろん世の中にはいますが、どちらかというとテストを受けて良い点をとれて初めて嬉しさを実感する、という人が大半ではないでしょうか。
ゲームの中では成長を数値で可視化できますが、やはりそこはゲーム…プレイで体感してナンボなんですよ。なのでどこかしらでその集大成を感じさせてあげるステージを用意してあげたほうが、プレイヤーとしてはいっそう価値を感じられるはずです。
パワプロでいえばペナントレースだったり、ペルソナでいえばダンジョン攻略であったり、自分の磨き上げたリソースを最終的に活用する場面があります。また育成パートではアクション部分をがつりやらない分、後でやってみたらどうなるだろうというドキドキワクワク感もあったりするので、うまくいったときによりいっそうのカタルシスを生むのです。

また、逆のメリットもあって、成長がいまいちだったとしても自分がプレイで介入して目的を達成することで、それまでの努力をむしろ報われたことにできちゃいます。いわゆる結果オーライ。これはゲームのバランス設計にもよるのですが、うまく調整することでシミュレーションゲーム部分が下手な人であっても、達成感に変えることができちゃいます。ただしこれも結局もろはの剣なので、やりすぎると結局育てようが育てまいが変わらない、となってしまいます。結局のところやはりといいますが、両輪のバランスが常に問われるわけですね。

まとめ

さて、あらためてまとめると

ハイブリッド型のゲーム(シミュレーション×アクションRPG)の魅力は
 1.交互に違う遊びがあって飽きにくい
 2.テーマに忠実な追体験が味わえる

そしてその面白さのカギを握る重要ポイントは
1.トライ&エラーがしやすい作りであること
2.お披露目で達成感を体感できるかどうか

でした!

シミュレーション×アクションRPGなハイブリッドゲーム。そんなゲームを作るには、とても険しく長い道のりを歩まなくてはなりませんが、もしその頂きに到達することができたのなら、他のゲームでは提供できないほどの大きな達成感が待っています。私もそういう体験ができるゲームをいつか作りたいですし、色々なクリエイターの方が、稲作に限らずあらゆるジャンルで、トライしていってほしいです。そんなゲームをもっともっと遊びたいので、クリエイターのみなさんご協力お願いします!それではまた!



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