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教養としてのロック名曲ベスト100【第5回】96位のナンバーは? by 川崎大助

「サボタージュ」ビースティ・ボーイズ(1994年1月/Grand Royal/米)

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Genre: Rap Rock
Sabotage - Beastie Boys (Jan. 94) Grand Royal, US
(Michael Diamond, Adam Horovitz, Adam Yauch) Produced by Bestie Boys and Mario Caldato. Jr.
(RS 480 / NME 56) 21 + 445 = 466

のちのアカデミー賞受賞者となるスパイク・ジョーンズの監督による抱腹絶倒のMV(70年代刑事ドラマのパロディだ)とともに、世界中の「一部で」絶大なる人気を博した。米ビルボードHOT100で1位とか、そういうんじゃない(実際、そこにはランクインすらしなかった)。最高位は同モダン・ロック・トラックスで18位、全英なら19位だった――のだがしかし、たとえば「X世代」と呼ばれていたジェネレーションには、受けに受けた。

なかでも、オルタナティヴ・ロック・ファン、DJやラッパー、エクストリーム・スポーツ・ファン、その周辺で写真や動画を撮ったりデザインしたり絵を描いたり……といったライフスタイルの若者たちに、ほとんどテーマ・ソングのように熱く支持された1曲がこれだ。

「サボタージュ(Sabotage)」とは、なにかの妨害を目的とした行為を指す。この曲では、主人公が「妨害」されている。とにかく抑圧される側にいる。だから彼は「お前らみんなよっく聞け、それはサボタージュなんだよ!」などと言い、怒りざまにキーッと叫ぶ。子供声でこれをシャウトするのは、ひずんだギターをかき鳴らすアドロックだ。叫びの瞬間、たとえばライヴであれば、会場内が一気に「バースト」する。つまり、盛り上がる。聴き手の感情レベルを一気にピークへ持っていけるナンバーとして、彼らの新しい代表曲となった。

特筆すべきことは、これがメンバー自身の演奏によるラップ・ロックだった、ということだ。アドロックのギターだけじゃない。うなるベースはMCA、大音量でタメの効いた8ビートを叩き出すドラムスはマイクD――つまり彼らが原点回帰して、そもそものハードコア・パンク・バンドだった時代のスタイルを復活させた上で、「ヒップホップ通過後」の強靭なビート感覚と合体させたハイブリッド・ナンバーが、この曲だった。

86年、異色の白人「ワルガキ」ラッパー3人組として派手にアルバム・デビューした彼らは、しかし、同路線でのアホアホなスター街道は進まず、ヒップホップ音楽の可能性を探究する求道者となる。その過程で、初期の彼ら最大のヒット曲「ファイト・フォー・ユア・ライト」(86年)はステージで演奏される機会が激減する。僕が「学生寮の乱痴気騒ぎ」と呼ぶあのハチャメチャさが、本人たちの成長していく内面とどんどん乖離していったのだろう。だがそこで、地味に老成していく「わけがない」ところにこそ、彼らの真骨頂があった。

この「新代表曲」に続く第4作アルバム『イル・コミュニケーション』のほうは、特大級のヒットとなった。第1作以来、彼ら二度目の全米1位。トリプル・プラチナムも記録した。

(次回は95位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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