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テイクアウト飲みの日々。|パリッコの「つつまし酒」#59

あの有名店もテイクアウト販売を開始

 地元、石神井公園にある有名ラーメン店「麺処 井の庄」が、このご時世の影響もあり、麺類のテイクアウト販売を始めたという情報を耳にしました。何年か前までは妻とよく行っていたんですが、子供ができたり、僕の食がどんどん細くなっていったりした関係で、そういえばしばらく食べていなかったな。あの味が家で気軽に味わえるなんて最高じゃないか。久々に食べたい! というわけで、駅前に買い物に出たついでに、その日のお昼ご飯として、看板メニューの「辛辛魚つけ麺」2食入り1800円のセットを買って帰りました。
 内容は、冷凍のスープと麺、香味油、辛魚粉。スープを湯せんで解凍しつつ、凍ったままの麺を鍋でゆで、その間に好みで薬味を用意し、器に盛りつける。それだけで、家のテーブルの上に存在していることに強烈な違和感があるほど、本格的なつけ麺が完成しました。

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過剰なほどにうまい

 がっしりぷりぷりとした大盛り麺の迫力がすごい。つけ汁を一口味見してみると、魚粉の溶けた濃厚な口当たりと、これでもかと主張してくる旨味。そうそう、この味だった! たまらず麺を浸してすすりこむ。うますぎる!
 今日は休日。こんな美食を前にしてお酒を飲まないわけにはいきません。「辛辛魚」というくらいで、食べ進むほどに口のなかが痺れてくる辛さ。タカラ焼酎ハイボールの炭酸との相乗効果で、謎のハイテンション。ゴロリとしたチャーシューや太切りメンマは、パッケージの大きさの関係かお店で食べるほど巨大ではないものの、やっぱりちゃんと美味しくて大満足。
 久々の味を思う存分堪能し、あらためて思いました。テイクアウトってありがたいもんだなぁ、と。

この機械だからこそ出会えた絶品イタリアン

 営業自粛や時間の短縮を強いられる飲食店業界。当然、テイクアウトを始めているお店も多く、一度、地元のお店でそういうものを買ってきて晩酌をしてみたいと思っていました。ただ、どこがテイクアウト営業をしていて、販売時間がいつなのかがいまいち把握できていなくて、実行にいたっていなかった。そこで何気なくネットで検索してみたところ、なんと石神井エリア限定ではありますが、ドンピシャの「TAKE OUT FOOD MAP」なるサイトを発見!

 使いやすいインターフェースと温かみのあるイラストマップ。各店舗のメニュー写真も美しい。一体どんな企業がこんな素早い仕事を? と思ったらなんとこのサイト、石神井在住の写真家、佐藤朗さんが中心となり、個人レベルで制作されたそう。なんとありがたいことでしょうか。
 ずらりと並んだリストを眺めてみると、地元ながらけっこう行ったことのないお店もありますね。というわけでまたやってきた休日。未訪店のなかでも気になった「久保田商店」の「ラザニアセット」(1300円)をテイクアウトし、優雅にベランダランチ飲みと洒落こむことにしました。

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小粋なパーティー感

 手前のラザニアとサラダが久保田商店のラザニアセット。奥のチキンティッカとスパイシー玉子は、同じ商店街にある大好きなインド料理店「リアル」でも道端でテイクアウト販売をしているのを見かけ、思わず買ってしまったもの。2品合わせて550円とリーズナブルでした。

 久保田商店は「野菜イタリアン」を謳っているだけあり、まずサラダからして感動的にうまい! 甘みやシャキシャキ感はもちろんのこと、苦味や青くささといった、自然本来の生命力を感じるような野菜が、何種類入ってるか数えきれないくらいたっぷり。しかも、緑色のつくしみたいなのとか、黄色や真っ白のニンジン? みたいなのとか、今まで食べたことのないような野菜が盛り沢山。ニンニクの効いた自家製ドレッシングもたまらなく美味しいし、夏蜜柑的な柑橘類が合わさるのがまた粋です。ラザニアもチーズとクリームソース、さらにこちらにも野菜がたっぷりで、大変なごちそう。せっかくなので棚から引っぱりだしてきた、グラスがわりの「メイソンジャー」に注いだいつものチューハイが、まるでスパークリングワインですよ。久保田商店、落ち着いたら必ずお店にも行ってみよう。
 これにリアルのチキンと玉子ひとつずつを夫婦でシェアし(子供は珍しすぎて食べなかったのでいつもどおりのご飯)、大満腹になれたので、むしろこんなにリーズナブルでいいんだろうか? と申し訳なくなるほどでした。

懐かしき酒場の空気にふいに触れ

 こうなってしまうと勢いが止まらず、その日の夜も調子に乗って、「TAKE OUT FOOD MAP」からチョイスしてのテイクアウト晩酌をすることにしました。選んだのは、地元の好きなお店のひとつ、やきとん「那辺屋(なべや)」の「やきとん5本」(600円)、「焼き鳥5本」(700円)、「厚切りハムカツ」(350円)。予約の電話をしたら「最短10分で焼きあがります」とのことで、自転車で取りにいき、大急ぎで家に戻ります。皿に並べた串焼きはまだ熱々。さっそくビールを用意して食べてみると、しばらくごぶさただった本格的なやきとんの味、お店の味が、なつかしくも美味しすぎる。いや~、このご時世に本当にありがたいもんですね、テイクアウト。

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厚切りハムカツにはソースをたっぷりかけて

 ところで今回テイクアウトをしてみてもうひとつ、予期はしてなかったんだけど、とても印象的だった出来事があります。
 それは、那辺屋に商品を受け取りに行ったときのこと。当然引き渡しはお店になるわけですが、「居酒屋の店内に入る」という行為自体が、そもそもかなり久しぶりなんですよね。小さな店内にならぶテーブルと椅子。壁一面のメニュー短冊。ふいに目にしたそんな光景に、たまらなく、それはもうたまらなく、またいつか酒場で飲める日々が恋しくなりましたとさ。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。著書に『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)など。Twitter @paricco


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