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大英博物館 北斎 ―国内の肉筆画の名品とともに―:1 /サントリー美術館

 日本美術きっての人気者・葛飾北斎。
 サントリー美術館の北斎展は、開館前の時点でも大行列。後ろからひっきりなしに人が来て、また列が伸びていく。
 会期の終盤ということを加味しても、やはり役者が違う。

 本展では、北斎の生涯と作風・作画領域の変遷をほぼ時系列で追いながら、大英博物館の北斎コレクションを築いたウィリアム・アンダーソンらの顕彰にも気を払っている。
 最晩年の肉筆画は大英博にはあまり所蔵されていなかったのかと思われるが、国内の所蔵先から名品を借用することで補填。70年にわたる画業の全貌をカバーすることに成功していた。

 同時に、多くの人がいだく北斎像とのブレがない範疇での、適度なメリハリのつけ方がなされていた。
 6章構成の第1章を「画壇への登場から還暦」とした点からもわかるように、有名作品の多くを生みだした晩年の30年間に比重が置かれる。とくに第6章「神の領域―肉筆画の名品―」はその名に恥じぬ神品ぞろいで、圧巻の一言。
 全体をとおして、構成の美しさが光った展示だった。

 構成の面でもうひとつ触れるとすれば、よく知られた作品や主要なテーマが各所にバランスよく散りばめられ、来場者を飽きさせない配慮がみられたことだろうか。
 会場に入ると、「赤富士」こと《冨嶽三十六景 凱風快晴》が、ばばんと登場。超有名作品で、摺りもコンディションも最高。素人玄人問わず、誰が見たって、これからはじまる展示に期待感が高まるものだ。
 その右手奥に、金箔を散らした極彩色・豪華絢爛な肉筆画《為朝図》。最初の撮影可能作品である。さらに進むと、第3章の行燈ケースに同じく《冨嶽》の「三役」から《山下白雨》と《神奈川沖浪裏》が。《浪裏》も、撮影可だ。
 本展の撮影可の作品はこれら《為朝図》《浪裏》の2点にかぎられており、「あとは鑑賞に集中してね」という恰好。
 いたずらにばらけさせるよりは、こうしてある程度固めてくれたほうが、混乱を招くことなしに撮影欲を満たしてもらえそうなものだ。《浪裏》には、撮影を希望する人の行列が自然形成されていた。
 その後も、奇景をみせ、花鳥をみせ、『小倉百人一首』など古典由来の作をみせ、作家の周辺にスポットを当て、そして円熟の肉筆画へ……
 バラエティと変化に富んだ画業が秩序立てて整理され、無理なく入っていけるようなつくりとされていた。(つづく)


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