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讃岐の誘惑:4

承前

 香川行のポイント、最後となる4つめは「瀬戸内海」である。
 大学4年生の夏、青春18きっぷを使って、東京から鹿児島の志布志まで20日間ほどかけて旅をした。そのとき、とくに多くの時間を割いてまわったのが瀬戸内海沿岸だった。しまなみ海道を自転車で渡ったときの、暖かく穏やかな多島海の光景は、いまも目に焼きついている。初めて香川の地を踏んだのもこのときだった。
 以来、瀬戸内は愛してやまないエリアとなり何度も旅をしているが、小豆島にはまだ訪れたことがなかった。

 潮目が変わったのは、映画『二十四の瞳』(1954年版)を観てからだ。
 視聴のきっかけは、『男はつらいよ  柴又より愛をこめて』がこの映画のあらすじを下敷きにしていると聞いたこと。ただしこちらの舞台は東京都の式根島で、じっさいに確かめてみると、いくつかの要素がオマージュ的に採り入れられている程度ではあったのだが、きっかけを途中から忘れてしまうほど、久しぶりにずしんときた映画であった。
 まず、映像が美しい。空が高く海が広い瀬戸内の雄大な自然、島の人々のつつましい暮らしが、丁寧にとらえられているのだ。日照りの強さ、強く吹きつける風、オリーブ、柑橘、醤油の醸造に使う巨大な樽や、島内にある四国八十八ケ所の祠を巡るお遍路さん……そんな島の風土・気候を感じさせるカットが随所にある。
 そしてなにより、話の筋が切ないのである。あんなにチビで幼かった島の子どもたちがいつのまにやら立派になり、世の不条理に巻き込まれていって……後半はもう、ずっと泣きはらしていた。時は過ぎても、小豆島の自然だけは残酷なくらいになにも変わらずそこにある、そのことが視覚的に明らかだということもまた、余計に泣かせる。

 視聴後、すぐに小豆島のことを調べはじめた。映画のなかの自然は、写真を見るかぎりはまだまだ健在のようである。高松港から1時間足らずとアクセスも悪くない。オリーブも柑橘類も大好物だ。もう、小豆島に渡らない選択肢はない。(つづく


※『男はつらいよ 柴又より愛をこめて』(第36作)の公開が1985年12月。リメイク版『二十四の瞳』の公開が1987年7月と近い。配給はどちらも松竹で、朝間義隆さんは前者では脚本、後者では監督。なんらかの因果関係がありそうだ。



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