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美をつくし―大阪市立美術館コレクション:1 /サントリー美術館

 大阪・天王寺公園にある大阪市立美術館は、全国規模の巡回展の会場や、美術団体の展示の貸し会場として、市民に長く親しまれてきた。近隣にあべのハルカス美術館ができてからはお株を奪われた感もあるが、関西にお住まいであれば、まだまだ足を運ばれる機会が多いのではと思う。
 大阪市美は、館蔵品もすごい。また、その館蔵品をベースとした独自企画がすごい。単館開催の展示を観に、何度訪ねたか。その折に、2階の館蔵品展示を観て、どれほど度肝を抜かれたか……公立美術館としては、間違いなく全国でも最上位クラスに入る内容であろう。

裏手にある庭園・慶沢園より美術館を望む

 ——そんな大阪市美は昨秋から、大規模改修工事のための休館期間に入った。
 2025年春までというから、かなり長期のお休みとなる。このタイミングを利用して、館蔵の名品を各地でお目にかけようというのが本企画。
 展覧会名の「美(み)をつくし」は大阪市美の美術館だよりの名前であり、大阪市のマークにもなっている水上の目印「みおつくし(澪標)」にちなんでいる。そこに「美を尽くす=美の宝庫」たる美術館像を重ねた、ウィットに富んだネーミングといえよう。
 サントリーの社是は「水と生きる」、サントリー美術館のシンボルマークはそれにちなんで「み」を図案化したものであることも、偶然ではあろうがよい巡り合わせと思われた。

 展覧会名とは別に、サントリー展のリーフレットには大きく「なにコレ」というキャッチコピーが出ていた。これまた、すぐれたコピーといえよう。
 「なにわのアートコレクション」略して「なにコレ」であり、また同時に、「なにコレ!?」と思わず目を丸くしてしまうような、一見ヘンテコで好奇心のそそられるような造形が多数含まれているからこその「なにコレ」でもあるのだ。
 東洋古美術と日本近代美術という割合に地味めな分野だけれども、東京でも観られないような、目をみはる楽しいものがたくさん出ているよ……とまあそういったことが、端的に集約されているコピーなのである。

 「なにコレ!?」の代表例は、なんといってもこれであろう。
 《青銅鍍金銀 仙人》(中国・後漢〈1-2世紀〉 山口コレクション)。

 「あら、びっくり!」のポーズ……ではなく、もとは複数人いて、みんなで両手を掲げて上のうつわを支えていたらしい。部品の一部なのである。
 それにしても、なんとも愛嬌があるではないか。展示室では、数少ない撮影可の作品とされていて、誰もがにやけながらシャッターを切っていたのが印象的だった。

 こんなのもある。
 《木彫根付 蛸壺》(江戸時代・18世紀 カザールコレクション)。

 根付はおもしろ造形の宝庫であり、小さきものを愛でる愉しみや超絶技巧への感嘆をも満たしてくれる。
 本作をはじめとする根付全般も、やはり撮影可であった。SNSで拡散され、来館者増に一役買ったことだろう。

 ——さて。
 上記2作品の説明に、寄贈者の名前がそれぞれ入っていたのにお気づきだろうか。
 《青銅鍍金銀 仙人》は「山口コレクション」、《木彫根付 蛸壺》は「カザールコレクション」であった。
 商都・大阪の公立美術館であるこの館には、当地にゆかりのあった篤志の実業家兼コレクターたちから、じつに多くの寄贈・寄託を受けてきた。
 個性あるコレクションがほうぼうから集まることで、質に量、そして多様性を兼ね備えた、ここにしかないコレクションが築き上げられた。山口コレクションは石仏をはじめとする中国美術の蒐集品、カザールコレクションは印籠や根付、酒杯など近世工芸の小品の一大コレクションである。
 大阪市美は昭和11年(1936)、日本で3番めの公立美術館として開館しているが、この土地は、美術館建設のために住友家から寄贈されたもの。その成立からして「市民みんなの美術館」だったのだ。 
 豊かで強固な文化的土壌をもつ大阪という都市が、心底うらやましくなってくる。(つづく



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