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『「コロナ禍の解消には戦争」 新潟県燕市の教育長が発言』の記事を読んで考えたこと。


”「コロナ禍の解消には戦争」 新潟県燕市の教育長が発言“ 朝日新聞DIGITAL 2020/9/1
https://www.asahi.com/sp/articles/ASN91771BN91UOHB00W.html

記事で取り上げられた発言

(...)今のコロナ禍を短時間で解消する方法は、どこかで大きな戦争が発生することではないだろうか。中国とアメリカが自国以外の地域で戦争を始めれば、お金は動く。
コロナ騒動などそっちのけでミサイルの発射の瞬間が繰り返し放送されるだろう。きっと経済が上向くきっかけになるのではないか。クリミアでもいい。紛争とか戦争が始まれば武器という商品で経済は回復するだろう。罪のない人間との命との交換である。他に何かいい策があるだろうか。愚かな人間であり続ける限り、注目の矛先を変えることでしか事態を乗り越えられないかもしれない。


燕市ホームページより謝罪文
http://www.city.tsubame.niigata.jp/school/031001163.html

戦争は儲かるのか

米国が戦争をする理由として軍産複合体を例にとった説明をよく見かける。
武器や弾薬を供給する産業へ利益をもたらすため、定期的に戦争を起こすことで、兵器の需要を爆発させるのだ。このような言葉の一人歩きもあり、戦争は富を生むと考える人は少なくないのではないだろうか。
結論から言えば防衛産業は儲からない。

1.装備を買う相手が限定される。

政治情勢はもちろんのこと、メンテナンスや運用のための人員、設備を用意できる集団は多くはない。例えばぼくたちの国で言えば、2015年、武器輸出三原則の撤廃および防衛装備移転三原則の制定に応じて、オーストラリアと共同で「そうりゅう」をベースにした潜水艦の開発ついて意見がまとまった。
兵器の研究開発費は膨大なものである一方、出来上がった製品の買い手は、国家に限定されるのだ。そうりゅう型潜水艦の価格は一隻あたり528億円(2010年予算)である。非原子力の潜水艦で言えば最新鋭かつ世界最高の性能とも期待されるこれは、諸外国へ販売するとなると前述以上の金額を設定せざるおえない。果たして一隻500億円を超える兵器を買う余裕と必要性のある国はどれくらいあるのだろうか。


2.専門技術者や設備の問題

潜水艦の建造に関わる専門技術者は希少である。防衛省認定の資格の維持には三ヶ月間潜水艦建造に携わらなければならず、このような特殊技術者の活用のために、わざわざ利益性の低い潜水艦建造に付き合わされているという防衛装備企業の実情が浮かび上がる。
また、技術者の少なさは諸外国からの発注に対して充分に対応できるのかという問題も想定され、生産拠点の増設や技術の養成も行う必要がある。

3.兵器市場そのものの縮小

冷戦末期には3000億ドル以上もあった兵器の市場は、2000年代には半分の1500億ドルにも激減している。そもそも、防衛予算は先進国においてもGDPの数%程度であり、その多くは人件費が占める。こと潜水艦で言えば三菱、川崎ともに祖業であるという矜恃と国家への貢献意識によって支えられているとも言える。

新潟県燕市教育長の発言から思うこと

大前提として、今回の記事の見出しには問題がある。元の朝日新聞記事の見出しをそのまま転用したためのものであるため生じたものだ。
全文を読めば教育長は戦争を否定しており、これによる経済効果を期待する旨の発言は皮肉として言及していることがわかる。
彼の発言を歪めて報道した朝日新聞については今更語るに値しないが、その上で、これを皮肉として利用するには、やはり戦争は儲かるという、戦争の功罪について時代遅れの認識を抱いている点については否定されるべきだろう。そもそも来し方、戦争が儲かる事などあり得ないのである。例えば他国を侵略し、資源を奪取し、人を奴隷としていた時代においても、近代においても戦争の出費によって国家が零落する例は枚挙にいとまがない。

戦争は経済刺激にはならない。

なぜならば、これはある一地域での大量消費を別の一地域での大量生産によって補填するという、歪な形での富の平準化を以て、実際に旨味を知ったものがそう主張しているだけなのだ。実際に戦争が起こった際には全く逆のことが起こるのは火を見るより明らかだろう。兵器の自動化と専門化が進んだ現代において徴兵による貢献の強制は現実味に欠けるとしても、税金や国債の発行によって大量消費のツケは我々市民の生活にのしかかる。仮に勝てたとしても、敗戦した相手国も同様に疲弊しているならば、どれほどの賠償金が支払われるのだろうか。
教育長の発言の根底には朝鮮特需のような他国を戦地にとした戦争によって起こった特需景気の記憶があるのかもしれない。しかしながら、戦争特需に頼り切った経済成長は、特定の一国へ依存した歪な経済を生みかねない(戦前の日本の最大の貿易相手国は中国であったが、朝鮮戦争以降、中国市場は閉ざされ、国交正常化までアメリカとアメリカが援助する東南アジア諸国への輸出依存に定着した)

新型コロナウィルスの混乱により米中関係が緊張する中、安易に戦争を期待する意識は間違いなく現状をより悪化させる火種になりかねない。教育長の発言そのものは戦争という手段を否定するものであるものの、その認識には不安を覚えざるをえない。

(kobo)

タイトル画像
https://pixabay.com/ja/users/skeeze-272447

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