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紙の契約書・電子契約のサインと印鑑のホントのところ


 本日、日本経済新聞にこんな記事が出ました。
「契約書のハンコ不要」、政府が見解 対面作業削減狙う 」

以下、記事から一部引用します。

「政府は19日、民間企業や官民の取引の契約書で押印は必ずしも必要ないとの見解を初めて示した。押印でなくてもメールの履歴などで契約を証明できると周知する。押印のための出社や対面で作業を減らし、テレワークを推進する狙いがある。…」

 このような記事の元となったのは、内閣府・法務省・経済産業省が令和2年6月19日に公表した「押印についてのQ&A」です。 

 こちらにも法的な論点が丁寧に説明されていますし、全部で5頁ほどの量なので、ご興味ある方はぜひお読みください。

ここではよりわかりやすく解説をしてみます。

 そもそも契約というのは、お互いの意思が合致すれば成立します。これは口約束でも、書面があっても変わりません。例えば、コンビニでおにぎりを買う時も売買契約を締結しているのですが、わざわざ契約書にサインや押印を求められることはありませんよね。

 また、契約書まではなくても、メールやメッセージのやりとりなどの記録を残しておくことで、お互いの意思が合致した形跡を残すことは可能です。交渉のやり取りを、電話や対面での会話では終わらさず、事後に打ち合わせメールなどを送って記録に残すことで、証拠化しておくことはできます。

 これによって、少なくとも契約が成立したことは証明できます。

 個人事業者や中小企業でもよく使われる注文書と注文請書などのやり取りすることにも、同じ意義があります。

 ただ、一歩進んでちゃんとした契約書を準備できれば、①契約が成立したことはもちろん、②契約の具体的な内容(特に契約条件やトラブルになった場合の解決方法など)を直接証明する証拠になります。

 ここに契約書の大きな意義があるのです。

 では、本人がその契約書の内容で合意したことを、どのように確認するのでしょうか??

 ここで意味をもつのが、署名と押印です。

 個人であれば署名や押印、会社の場合は記名と押印のセットがあることによって、その本人や会社がその契約書に書かれている内容で合意したものと推認することができるのです。

 これについては、民事訴訟法に以下の規定があります。

第228条第4項 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

 本人の「署名」(記名ではありません)か、あるいは「押印」があれば、基本的にその人が作成したものと推定されることになるわけです(会社であれば記名+押印が多いでしょうが、その場合には押印にのみ推定機能が働きます)。

 「又は」となっている通り、もともと署名か、押印か、どちらかがあれば推定はされていたわけです。

 ただ、契約書に署名があっても、「私はサインしていない」と言われる不安があります。対面で契約書にサインし合えば、それを後で否定することは現実的には難しいのですが、郵送でやりとりする場合には、実際誰がサインしたかはわかりません。

 かといって、問題になる都度、筆跡鑑定するというわけにもいかないのです。そのようなことから、万が一の保険のため、何でも押印を求める取引慣行がありました。会社としてもそれを求めて内部としても処理し、弁護士としてもリスクマネイジメントの観点からそう助言してきました。 

 これに対して、電子契約の場合、電子署名及び認証業務に関する法律に以下の規定があります。

第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

 この規定から、電子契約においても、「電子ファイルにおける①電子署名+②電子証明書(インターネット上の身分証明書)+③署名時刻を裏付けるタイムスタンプ」があれば、上記電子署名法によって、紙の契約書における署名と同じように、本人がサインしたものと推定されることになります。

 これらの条件さえ満たしておけば、サインのみで電子契約の場合も十分に本人が合意したと推定することができます。証拠としても必要十分となるわけです。不安であれば、念のため、契約に至る事前のやりとりも同じメールやチャットなどで記録を残しておけばよりリスクは避けられるでしょう。

 このようなケースでは、「テレワークをしながら、印鑑もらうために出社する」なんてことも特に必要ないのです。

 ただ、もちろん、例えば、銀行等の金融機関から融資を受ける場合には印鑑が求められますし、契約内容によってはより厳格な本人による押印の確認手段として、印鑑登録証明書も求められます。他にも高額になる不動産取引の場合にも印鑑登録証明書が求められます。また法務局で登記を移転する手続きを行う場合など、添付書類として印鑑登録証明書を求められることも多いです。

 印鑑を重視してきた日本で、このような取り扱いがどこまで浸透するは見守る必要があるでしょう。ただ、一律に何でもかんでも署名と押印をセットで求める必要なく、その発想は徐々に広がっていくようには思います。

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