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シン・長田を彩るプレイヤー~アートを紐解いていく抽象画家~(前編)

今回のインタビューは長田の海辺の静かな町にアトリエを構えるCBA(シーバ)さんです。
グラフィックデザイナーを経て、現在は抽象画家として活躍されています。まちにひっそりとたたずむアトリエの中は、落ちついた音楽が流れ、たくさんの抽象画に囲まれた空間でした。
アートの世界を覗いてみましょう。

画家になるなんて…

-記者-
本日はよろしくお願いします!

もともとデザイナーをされていたとのことですが、デザイナーを目指したきっかけはありますか?

-CBAさん-
単純やけど、子供の頃から文字より絵を描く方が負担に感じなかったから、不得意じゃないことを仕事にできればと思ってデザインの仕事を始めました。

-記者-
デザイナーをしながらもずっと画家になることを考えておられたんですか?

-CBAさん-
いや、画家になるなんて大変やし、とんでもないことやと、幼少期も成人してからも思ってました。

ただ僕はデザインに対してずっと自分とのズレを感じていました。商業的なデザインのお仕事は商品の拡散と浸透力を求められる故、美術的な良さが失われていくケースが多々あります。それが精神的に耐えられなくなって。

そういう悩みをある友人に話していたら「世の中でいうところのデザイナーの考え方ではないし、デザイナーを続けてたら蝕まれていくよ。だから、やめて画家になったら?」って言われたんです。

「そんなこと今より大変になるし嫌です」と言ってたんですけど。実際生活は大変だけど、切り替えた事に悔いはなかったかな…と思っています。

抽象画との出会い

―記者―
抽象画にはもともと興味があったんですか?

-CBAさん-
僕もデザイナーのときは、モンドリアンの絵を観て「あーこれが抽象画なんや」くらいにしか思ってなかったんです。でも、感覚的にしびれるものってあるじゃないですか。自分の感情に働きかけてくるようなデザインとかビジュアルって、やっぱりあるんです。

だから抽象画に対して何となく興味は持ってたけど、もっと納得したいなと言うことで。抽象画の起源に触れてみたんですよ。それがまさに、抽象画を言語化したカンディンスキー*。

カンディンスキーの本を読んでみて、デザインをやってきた僕がここに行くのは当然のことかなと、腑に落ちました。「デザインの先に、またはデザインの根源にはこの抽象画があるな」と。
(※ワシリー・カンディンスキー(1866~1944)/ロシア出身の画家・美術理論家)

-記者-
カンディンスキーの本を読んで、抽象画になぜ惹かれるのかが明確になったんですね。

-CBAさん-
そうですね、言語と彼の作品の魅力に引っ張られるようにどんどん惹かれていきました。

抽象画から距離を置いてる人たちっていると思うんです。日本人なんか特にそう。抽象画をどう解釈したらいいのか分かりませんっていう人、すごく多いんですよね。

そういう人の為にも一度カンディンスキーに戻って整理をしたんです。その中で、抽象画に対する理解とか楽しみ方とか、もっと伝わるんじゃないかなって思って。自分が実際に指し示すことができたらなという思いで、今抽象画家をしています

自分なりに、今の時代の人たちにも伝わりやすいように、音楽や料理に置き換えて説明することがあります。

抽象画は○○と同じ?

-記者-
抽象画を音楽や料理に置き換えるというのはどういうことでしょうか?

-CBAさん-
抽象画と、音楽と料理は脳の同じ部分を使って作ってるなと思っていて。要するに何かと何かの配合でできるわけです。

音楽も、ヒップホップに例えたらすごくわかりやすいんですよ。リズムトラックがあって、ベース音が入って、そしてピアノやギターみたいな中音が入ってきて。そこで一つのワングルーヴができるわけなんです。そのパターンを変えたり、ラップや歌を乗せたりして作り上げる。その整合感を攻め合うことがヒップホップのトラック作りなんです。

料理でもどこの素材、出汁、お酒を使ってどう加熱するかという配合で、味というものの整合感が決まります。その結果のバランスを考察しながら新しいアレンジを考案しますよね。

同じように、抽象画も何かと何かの配合で全体の整合感が決まってきます。カンディスキーは抽象画においてそういうことを世界で初めて活字にした方なんです。

-記者-
確かに料理に例えると、抽象画について少しわかったような気がします!すごく想像しやすかったです。

-CBAさん-
それはやっぱり料理した経験があるからだと思います。同じような感覚でとらえられるセンサーに放り投げることで理解してもらうようにしています。

抽象画を楽しむ


-記者-
作品のすごさは感覚ではわかるのですが、どういう風に整合感があるのかの解釈が少し難しくて。ご説明いただけますか?

-CBAさん-
簡単に言うと形やバランスを整える事が整合感を出す方法です。黄金比って聞いたことありますか? 螺旋を組むように絵が動いていってるように僕は作ってます。そうすることで落ち着きが出るんです。

それが乱暴なエッセンスで構成されていても、そうすることで整列しているかのように見せる一つのテクニックというか…表面だけ見たら、くちゃくちゃなものが置かれてるように見えるけど、そこで整合感を出せば、バシッと見えてくるということを伝えたい。

-記者-
制作するときは、少しずつ黄金比に寄せていくんでしょうか?

-CBAさん-
黄金比に寄せすぎてもいけないんですよ。あまりにも綺麗になりすぎるとドキドキしない。中国雑技団じゃないけど、こけるこける!っていうぐらいのスリリングな所に持っていかないと吸引力や独創性は生まれてこないんです。

-記者-
バランスが大事なんですね!
他にも、抽象画を楽しんでもらうための工夫は何かされていますか?

-CBAさん-
抽象画をどういうふうに楽しめばいいかを解説するトークショーをして、抽象画に少しでも近づいてもらえるようにしてますね。

-記者-
どういう楽しみ方を紹介してるんですか?

-CBAさん-
例えば、インテリアの写真と絵を実際に合成して見せたりしてます。部屋に飾ったときに生活と共存できるような配合を提案し、納得した物を選んで貰っています。

アーティストとしての葛藤

-記者-
CBAさんが作品を制作されるときは、何かひとつのテーマに沿って描かれてるんですか?

-CBAさん-
僕の中では、テーマよりも閃きの方が上位にありますね。閃き、つまり自分のなかで腑に落ちる何かを一番大事にしてる。なぜかというと、他者意識を念頭に置いてしまうと制作意欲が止まってしまうんですよ、僕。展示会などのタイトルもテーマも展示する作品を見て最後に決める方です。

-記者-
自分がつくりたいものを優先させたいという気持ちと、一方で収入を得るためには相手の要望に応える必要もあるという、その葛藤はありますか。

-CBAさん-
そうですね。でも、いろんな作家さんとかに聞くと同じような感じみたいですね。そういうことを心労していることがアーティストらしくて、アーティストとして健康なことじゃないかと。

以前は抽象画に対して少しハードルを感じていましたが、お話を伺って抽象画との距離が縮まったような気がします。
インテリアとしてなじむ抽象画、CBAさんのアトリエに飾られた抽象画たちは“展示物“というよりは空間になじんでるように見えました。
次回は長田との関わり方を聞いていきたいと思います!
(編集:Hanana・みっちゃん)