ショートストーリー ココナッツカレー

バイト終わりの身体に鞭打って帰宅。
乱暴に家の鍵を差し込んだ。
グゥッと腹がなると、空腹を意識してしまう。
ついでにこの香り。
お隣から香っているカレーの匂い。
子どものはしゃぐ声が一緒に聞こえて、微笑ましくなる。

ドアを締めても子ども声は、薄い壁越しでは少し漏れていた。
だからといって、腹を立てることもない。
なぜなら、はしゃぐ気持ちも分かるからだ。
だって俺の夕飯もカレー。
しかも、バイト先のコンビニの新作弁当ココナッツカレー。
疲れた身体に反して、台所に一歩近づく度に気持ちは昂ぶる。

バイト先で温めておいた弁当は、甘くてスパイシーな香りを隙間から溢れさせて、食べられるのを待っているみたいだった。
蓋を開ければ、甘い香りが漂う。
お隣のような家庭のカレーの匂いも良いが、例えコンビニ弁当でも南国風のカレーも良い。

甘い香りがスパイスと相まって、一日の疲れを癒やしてくれる。
柔らかいチキンに染み込んだスパイスは食欲を掻き立て、飲むようにカレーを胃袋へ流し込む。
ルーの一滴まで名残惜しくて、プラスチックスプーンを弁当箱の底で何度も擦った。
ごちそうさまと手を合わせて、ココナッツの香りの余韻に浸る。

お隣の楽しげな声は、まだ聞こえる。
きっと今夜のカレーは大層美味しかったのだろう。
考えに耽る間にも、口内に残るカレーの香りが薄くなる。
そのことすら惜しくなる新発売のココナッツカレーと家庭のカレーは、違った美味しさであるのは間違いない。
しかし、どちらかを選べる場面が今もう一度くるとしたら、俺は迷わずココナッツカレーを選ぶだろう。

蒸し暑い空気と混じり合うココナッツカレーは、完璧な夏のカレーだった。

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