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悦落。

ところで
人知れず堕ちゆくのは
一種の快楽さえ感じさせる

そうしなければ

昇る陽の眩さを
沈む陽の儚きを
花々の麗しさを
樹々の雄大さを
鳥の唄の慰めを
大海原の懐かしさを
人の優しさの美しきを
胸打つ鼓動の有難きを

忘れてしまいそうで

奇跡を奇跡と感ぜられない気がして
それがただ尚も 怖くて怖くて
仕様がないのです

なので 今日も 私は
その“奇跡”に救われたいが為
心の最奥の扉に
油で溶かした灰色を
乾いては塗り
乾いては塗り
幾度も重ねてゆくのです

一切の彩りがそこから
溢れ出てしまわぬように

ひと匙の油断があろうものなら
その綻びから 心は鮮やかに彩られ
代わりに森羅万象の全てが
輝きを失い朽ち果てるのです

残されるのは
無機質 惨憺たる世界と
恥知らずの私
くらいのものでしょうから


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