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〔小説〕猫便り~綴り屋 雫~ 番外編 2

番外編 エピソード2 女子高生の未来が焼き上がった日。

【牧野瑠衣(マキノルイ) 16歳】

目の前をしっぽが長いトラ猫が横切った。
(あの猫はしっぽが団子みたいだったな...)

いつか話を聞いてくれた三毛猫を思い出す。
学校に行かず、ただただ1日を過ごしていた時に突然現れ私の呟きを聞いてくれた。その翌日からだったか、よそよそしくなっていた母と以前のように笑い合えるようになったのだった。

あれから見かけることはないが、音符マークの首輪をしていたので勝手に『おんちゃん』と呼んでいる。音と恩...おじさんのだじゃれ?のような気がして口には出したことないけど。

[夜勤に行ってきます。明日は何が食べれるかな♪]

クッキー柄のメモ帳に母からメッセージが残されていた。

[何が食べれるかな♪]
母から作ってね!と言われてるようで嬉しくなる。

あの日から、休みの日にはお菓子作りをするようになった。高校生になれば、小学生の頃と違ってレシピを見ながら1人で色々作れるようになっていた。

ガトーショコラ、フォンダンショコラ、チーズケーキにシフォンケーキ...

「今日はクッキーだな。」

以前作ったが、今日は一工夫してみることにする。
2色作って柄を出してみようか...
ココアパウダーを取り出すと、

ピコン

とスマートフォンがメッセージの通知を知らせた。
覗き込むと、学校の友人からだ。

[ガトーショコラ求む!]

先週だったか、ナッツを加えたガトーショコラ焼いて半分学校に持っていったのだった。大袈裟な社交辞令で絶賛されたと思っていたが、どうやら本音だったらしい。

[残念。クッキーなら在庫あります。]

1人笑いすぎて涙目になりながら返信する。
いつものグループメッセージではなく、個人に送ってきたのでその本音度が伝わってくる。

[クッキーも歓迎!]

と、返ってきたところで2連続の通知音がなった。
今度はグループメッセージだ。

[材料費出すからこの間のガトーショコラワンホールいける?お母さんの誕生日にあげたいんだけど。]

瑠衣が返信する前に
[自分で作れよ!]
と、数人から突っ込みが入った。

[だって美味しかったんだもーん。]

まだ当人が加わってないのに盛り上がっていた。
自分が作ったお菓子をこんなに喜んでくれるのは嬉しい。
自宅で食べるものまで最近はラッピングするようになった。以前母が仕事から帰って、お菓子と小さな手紙を付けた贈り物を見つけるとご褒美を貰ったようだと嬉しそうに言ってくれたのをきっかけにラッピングしてみることにしたのだった。

SNSに流れてくる色々なラッピング方法を真似して、次々レパートリーを増やしている。
もちろん、友人達に持っていくときも同様だ。

渡したときの笑顔、開いたときの笑顔、食べたときの笑顔、食べ終わったときのもうちょっと食べたい顔。それを見ると瑠衣は時間や手間をかけて良かったと、嬉しくなるのだ。

ふと、学校から進路希望調査を渡されていたことを思い出した。瑠衣の高校では毎年希望の確認で提出するらしい。

専門学校...

ずっと何を書いたら良いのか分からず、白紙だったが頭にはじめてそこに書きたい言葉が浮かんだ。

ピーッピーッピーッ

クッキーが焼けた知らせだ。
今夜、相談してみよう。母は、娘がはじめて未来サキについて語ったらどんな顔をするだろうか。学校にも行かず、人とかかわらずとも生きていけると思っていた頃は自分がやりたいことを見つけるとは想像もつかなかった。

ピコン

[私たちもクッキー歓迎!]

知らない間にクッキーを求めたことを白状していたようで、便乗者が増えていた。
元々そのつもりだったので量は十分ある。

[ご注文、承りました。お代はジュース1本で。
みんな、ありがとう。]

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