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知らないのがいいよ 裏

先に↓こちらを読んでいただけると分かりやすいと思います。。。
というか読まないと分からないと思います。すみません、、つたない文章ですが読んでいただけると嬉しいです。

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「知らないのがいいよ」

そう言うと彼は昔のように戸惑った顔をした
それを見て数秒してからやっと気づいた
そうかまた私はやってしまった

出会った頃の彼にはこんな顔をさせていなかったはずなのに
彼にこんな顔をしてほしいわけではないのに
小さなLEDライトたちに照らされ少し影が出来たその顔を眺めながら
反省した


彼と初めて話したのは大学の期末試験最終日だった
朝ニュースでがくんと気温が下がると言われていて本当に寒かったのを覚えている
だからということではないけれどさっさと試験を終えて途中退出可能な時間になったのを確認した私は試験室をあとにした
雪でも降るかな などと考えてボーっと歩いていると
大学の敷地外に出かかったあたりで 誰かが後ろから息を切らして走ってきた
そして目の前でこちらを向いて立ち止まり 膝に手をついて大きな肩を上下させていた
それが彼だった
それまでは同じ学科の一人としての認識
それくらい接点がないから初めは驚いた
しかしきっと来年の実習関連の話だろうとすぐ冷静になった
だが彼から放たれた言葉は予想しないもので
そういえばキリストの誕生日が近づいていることを思い出した
今年は実家にも帰らないつもりだったし
なんといっても彼の優しそうな顔に惹かれ
自分に向けられた初めての手を拒むことに罪悪感を覚え
試験が終わったという解放感と試験によって疲れた頭が
好奇心を優先させた

キリストの誕生日 ではなくて その前日をお祝いするこの国は面白いと思う
そんな今日は彼との約束の日でなんだかんだ楽しみにしている自分がいた
初めはぎくしゃくしていたけれど 周りの雰囲気に良い意味で飲まれて
緊張がほどけていった
すると彼が笑顔で幸せだよと言った
もちろん自分も幸せだったからそのままの気持ちを伝えた
でも私の少ない言葉だけでは不安なのだろうか
彼は少し悩んでいた 何か言った方がいいだろうか
しかしこういうときは下手にいろいろ言うと逆に不安にさせる気がする
だから何か思うことがあるなら何も考えずに彼に聞いて欲しい
遠慮をしないで一人で考えず私に何か言ってほしい
だから言った

「考えすぎだよ」

そうすると彼は笑顔になった
違う意味で取られたような気がするが
満面の笑みで違う話を始めた彼を止めるほど大事なことか分からなかった
そう 相手に遠慮しないでほしいのに自分はそうもいかないのだ
私も完全にこの夜に酔っていた

そうやって少しずつ私たちの行動範囲は広がった
いろいろなところに連れて行ってもらった
私もついてきてもらった
だけどなんだか彼の様子が少しおかしいと思うことが増えた
顔が曇るのだ
私が話した後に特に悲しそうな顔をするのだ
それでも思い出したように違う話をしてその場を盛り上げようとしてくれる彼を見たら勘違いかと思った
だから何も聞かずに気にせずに 彼の心の広さに甘えた

私の少ない言葉で笑顔になる彼をこれからも信じていたかった

だけどダメだった 勘違いではなかった

何がいけなかったのか
思い当る節はいくらでもある
そういくらでもあるのだ
それなのに今まで知らないふりをしてきていた
私が一番ひどいと思っている知らないふりをするということを自分がやっていた
彼なら許してくれると勝手に思っていた
そんなわけない 彼は神でも仏でも何でもない
私と同じ人間だ ただの人間で他人なんだ

こうやって失うまで何をすれば良いか分からない人がいるということに疑問を持っていた過去の私を殴りたい

考えすぎて哲学みたいなことばかり言って
相手の気持ちを考えずに言いたいことだけ言って
だから友達も少ないのだ

そんなこと考えてももう彼には会えない
彼に会ってくだらない話を聞けない
彼の笑顔が見れない

もう会えないんだから

そうして大学も卒業して 彼を見かけることさえなくなった

でも時々ふと彼の顔を思い出しては 今度会ったらもっと面白い話をしよう
今度はもっとうまく話をしよう ちゃんと言葉をつなげよう そんなことを決意して
それで友達と話すときも話し方を意識するようになって
昔より口下手は治ったかな これなら彼とももう一度
なんて考えて 
だけど今までで一番仲良くなった同僚にはもう忘れて新たな恋をしようと言われて
それから数年たって やっと自分の中で踏ん切りがつき始めた

踏ん切りがついても一人で迎えてしまったクリスマスの前日
そんなにうまくいかないよねなんて自分を嘲笑いながら
もうあんなに求めてしまう人には会えないかもしれないと
このまま独りで生きていくのだろうと
目に浮かぶ涙を寒さのせいにしながら
会社で同僚と別れてから 浮かれた街の中を早歩きで抜けようとしていた

するとすごい勢いでこちらに近づく人影が視界に入った
そちらの方を向くと

彼だった

驚いた

髪型もワックスなんかつけて大人っぽくなって
それでも変わらないあの笑顔にほっとして
泣きそうなのをこらえながらずっと彼に会った時のためだけに練習していた通りに
話しかけた

練習の甲斐があって話はずっと続いた
昔より何百倍も楽しかった
彼も楽しそうだった
嬉しかった
本当にこれからの人生でもこんなに嬉しいことはないだろうと思えるくらいだった

くだらない話を続けていたらふと彼が私に聞きたいことがあるといった
そして私に聞いた
彼の質問は昔のことだった 私がやってしまったと後悔していたことだった
だからここでちゃんと謝ろうと思った

そして本当に浮かれていた
彼に会えたうれしさと
今日という特別な日と
うまく喋れた自分に

彼に甘えたくなった

そして言った
あふれる気持ちを抑えられなくて
ずっと我慢していたのだけれど

彼が全部受け止めてくれると期待した
それと同時に彼にしか見せていなかった自分がいることを思い出した


「知らないのがいいよ」









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続です


最後まで読んでくださりありがとうございます...!<(_ _)>