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知らないのがいいよ 続

↓ こちらの二つを先に読んでいただけると、嬉しいです。

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「知らないのがいいよ」

そんななんだかあまりポジティブには思えない言葉が聞こえてきた

ふと声がした方向にスマホから目だけを向けると人混みから少し外れた場所にいる恋人らしき二人をまとっている空気がなんだか暗い
今日はイヴでそこら中の歩く人々の顔は浮かれまくってるのにどうしたのかと思った
他人だけれど悲しい場面に遭遇するというのは結構気持ち的に辛いものだ
急に遊ぼうと連絡をよこしてこんな状況に遭遇させた友人に早く来てほしい気持ちと
こんな目が焼けるほどキラキラした日に暗くなってしまっている恋人たちの様子を見ていたい気持ちが交差した

二人とも黙りこくっていたが 先に彼女の方が口を開いた
内容はこういうものだった

知らないのがいいというのは欲を出さないようにするというのにもってこいだと思っていること
今までもずっとあまり知らないようにしてきたということ
知ってしまったらなるべく忘れるようにしていたということ
そして欲が出なくなったけれど毎日が全然楽しくなくなったということ
だけど彼と付き合い始めてから少し楽しかったこと
そして欲がどんどん出てきてしまったこと

そこで彼女はまた黙ってしまった

話の内容からして彼らは昔付き合っていたのだろうと思われた

それよりも不思議な考えをする人だと思った
そんなに楽しくないなら欲望のままに生きれば良いのにと思った
でもそうもいかないのだろう
そう考えると自分は結構思うままに生きてきてしまっている人間だなと思った
だけれど 小さいころ何か買おうとしたときに 母に本当に欲しいものなのかもう一度よく考えてから買いなさいと言われたことがあったのを思い出した
よくよく考えると結構衝動的であったり 明確な理由なんてなくて他人がただ羨ましいという気持ちだけで欲しくなったりで
最後には本当に自分の欲しいものではないなと結論を出していた気がする

だけど思春期に突入してから親の言うことがなんだかよく分からないけどムカついて
だんだんめんどくさくなってきて バイトもできるようになって 何でもとはいかなくても昔よりだいたいのものは手に入るようになって
数にとらわれて 今に至ったなあ なんて

そういえば最近は何を一番大切にしているかな 何に一番感動して 熱くなって 本気になって 嬉しくなって 苦しくなるくらい自分の一部になっているものはあるかなと 誰にも譲りたくない なんてものがあったかなと
頑張って考えた

彼女が考えていることはこういうことと同じだろうか 考えるのは苦手だ


そうしていたら彼の方少し黙ってから決心したような顔で言った

「そうだったんだね、話してくれてありがとう
続きはあるのかな」

彼女はとても驚いていた
目を大きく開いていた
どうしてそんなに驚いているのだろう
彼の質問はそんなに不思議だろうか
自分だったら理解できないことに対してはすぐ聞き返してしまうのに
大人というのはそういう生き物なのだろうか
聞いてはいけないのだろうか

それよりも彼の声がとても優しかった やっぱり大人だなと思った

すると彼女の方が話し始めた

「それで、あなたといると、欲が出てきて怖かったのだけれど、あなたと会えなくなってから眼球が一個失われたくらい、それくらい物が目に入らなくなって、それで真っ暗で、今までならそんなこともすぐ忘れられたはずなのに、できなくて、、、」

彼は優しそうにうなずいている
彼女は口下手なのだろうか つっかえつっかえだけれど頑張って続けようとしている

「それで、ぼーっとしていると、だいたいあなたのことを考えていて、あなたの笑顔をもう一度見たいと思っていて、それで少ししたら忘れられそうだと思ったのだけれど、やっぱりあなたに会いたいと思ってしまって、だから、今日会えたのは本当にうれしくて、、、」

彼女はほぼ涙目だった こんなに気持ちを伝えるのって大変なのだろうか
それとも彼への気持ちなのだろうか 愛する気持ちというのはそんなに辛いことなのだろうか

そして今度は彼が言った

「それじゃあ知らないのがいいと言ったのは、本心ではないということなのかな。たくさん聞いてごめんね。でももう、うやむやにしたくないんだ。」

別れた理由がなんとなく分かった気がした
そして彼女が返した

「違うの、本心なの、知らないのがいいというのは本心なの、だけど、それはそう思っているだけで、私にはできないということは分かっていて、こういう考え方をしているというのを知ってほしくて、つい言ってしまうの、ただあなたに、私を知って欲しくて、私を見てほしくて、、それでいつもあなたにだけ言ってしまうの、甘えてしまっていたの、、だけどいつも少ない言葉だったから、いやな気持ちにさせていたと思う、ごめんなさい、だけど今度からは、ちゃんと話すから、、、」


「だからこれからずっとあなたに一緒にいてほしいんです」


そう言って彼女は彼を真っ赤な目で見上げた 口なんてすごいへの字になっていて かわいいなんて思ってしまった

するとまた彼の方が話し始めた

「実はね、僕も別れてから、君のことを考えないようにしていたのだけれど、ずっと頭は考えていたんだ。君と話すときに今度は何を気を付けようとか、本まで買って、聞き上手になるためにはどうしたらいいのかとか勉強したんだよ。」

そうやって白い歯をみせて笑う彼はこの世で今一番輝いていると思った

「だから、今日会えて僕も本当に嬉しいし、君も同じことを考えていたと思うと、やっぱり君は素敵な人だと思い直せたよ。話下手だけど、真面目だし、丁寧だし、素直だし、かわいいし、何よりも考えられる人だ。君が知らないのがいいと言った時は、もうこのまま別れをまた告げるしかないかと思ったけれど、君から続きを勇気を出して話しかけてくれたから僕も返せた。
君を分かろうと思えた。本当にありがとう。君を思い続けていて良かったよ。」


「それで、僕もこれからずっと君にそばにいてほしいと思っています。」


そうやって照れあっている二人が今日一番まぶしかった


彼らの周りの空気は初めに比べてとても明るくなった
今日の日にとても合っていた
なれるならサンタクロースにでもなって ハート型のプレゼントを渡してあげたいと思った
まあなれないのは当たり前だから 心の中で盛大な拍手を送った

そして彼らは笑顔でこれからの予定を話し込んだあと
手を繋いで明るい木々の中に消えていった
チキンとか食べに行くのだろうか


結局24分も友人が待ち合わせに遅れたせいで全て拝見してしまった
地獄耳であった自分を褒めると同時にあの恋人たちに幸せが訪れるように祈った
他人の幸せをこんなに望んだのは久しぶりだ
嫉妬とか妬みとか羨みとか通り越しておめでとうと言いたくなる不思議な人たちだった
自分が理想としている恋人像にあてはまっていたのだろうか
まあそんなことはどうでもいい
こんなこと考えていたらきっと自然と笑顔になってしまっていたのだろう
遅れて到着した友人が申し訳なさそうに寄ってきてぎょっと目を見開いた
怒っていると思っていたのだろう
なのに正反対に幸せそうに笑っていてどうにかなったとでも思ったか
それで友人はとても心配そうにどうしたのかと聞いてきた
あんな素敵な二人と自分の感情を下手な言葉にしていいのだろうか
いや言葉では表現してはいけないだろう
それにこんな嬉しい気持ちは自分の心の中だけにしまっておきたい
だから満面の笑みで言ってやった
少し気持ち悪がられるのを覚悟で



「知らないのがいいよ」

最後まで読んでくださりありがとうございます...!<(_ _)>