私はヒモになりたい①

『走れメロス、走れ私』

 あなたは大型の書店に入り、「ビジネス書」というコーナーに行ったことがあるだろうか。そこにはビジネス・パーソンに向けた様々な本が並んでいる(マンは古臭くてノンノン。パーソンだよ、パァーソン!)。さらに細かく見ると、「実用書」として分けられている一角がある。

 そこに置かれているのは、いわゆるHowTo本というやつだ。ここには、「(クソ馬鹿のお前でも理解できるくらい)日本一わかりやすい〇〇」とか、「(これを読めばアホほど無能なお前でも)超一流になれる〇〇」とか、「(超高学歴、超エリートの俺様が教えてやる)~~式〇〇」とか、そんなタイトルの本が並んでいる。

 知ったふうな口で説明をしているが、恥ずかしながら私はHowTo本をほぼ読んだことがない。「んなもんネットですぐ見つかんだろ、ググれカス笑」「そんな情報に金払っちゃって、情弱ワロタwww」などと下劣なことを思っていたわけじゃないが、いやホントはちょっぴし思ってたのかしらん、どうなのかしらん。ここはどこ?、私は誰? えっ玉座? じゃあキング? っていうか神? ……という具合に、まぁ読んでこなかったのである。

 が、私には切実な夢があった。長い年月にわたって募る想い、悲痛なほどの願い、悩ましく眠れない夜をいくつ越えただろうか。ある日、ふと気づく。「そうか、こんな時のためにHowTo本はあったのか! ぜひとも知りたい、ぜひとも読みたい! モンチッチにクリソツな私にでもわかるように教えてくれ給う!」

 メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。私はHowTo本を読まなんだ自身に激怒した。必ず、賢智的確な本を読まなければならぬと決意した。
 メロスは友情のために刑場へと走る。私はてめぇのために書店へと走る。 「いや、まだ陽は沈まぬ。」メロスはただただ駆ける。「クソッ、まだ緑にならぬ。」私はだらだら信号に引っかかる。
 刑場に着き、事なきを得たメロス。マッパになっていたことに気づいた勇者は、ひどく赤面した。書店に着き、本を探す私。妙な視線を向けられていたことに気づいたキモメンは、ひどく赤面した。股間のチャックが全開だった……。

『ハーバード式 最高のヒモ”になる方法』

 何はともあれ、書店に着いた私は、HowTo本コーナーを物色した。さて、目的の本はというと…………ない。おかしい、本自体はあふれんばかりに並んでいるのに、一冊も見当たらない。

 私が欲し、購入せんとしていた本というのは、ずばり「ヒモになる方法」を懇切丁寧に、手取り足取り伝授してくれる本である。説明するまでもないが、「ヒモ」とは、女性から金銭や宿をご援助いただき、この施しを糧にして生きている男のことである。言葉として一つ確立されているように、これは古来より根強く残るライフスタイル、あるいは職業と言っても差し支えないだろう。

 しかし、この指南書が一向に見つからない。「アレッ、おっかしいな~、(私は小首を傾げ、人差し指を唇に当てる)……アッそうか! 児童書のほうか~英才教育系なのか~」と思って探してみたが、なぜか児童書の棚にもない。

 と言うと、「えっそんなメジャーなモノなら、痛切に希求する人の多いテーマでしょうし、いっぱいあるでしょう?」と思われるかもしれない。ところがどっこい、まるでないのである。

 「出版不況」という話は聞く。きっと出版社の方々にも事情というものがあるのだろう。であれば、何も知らない部外者が責め立てることはできない。しかし、しかしである。一冊もないというのは、いくらなんでもであろう。私はてっきり、

『知識ゼロから始める ハッピー「ヒモ」ライフ』(発売即重版!)〈KADOKAWA〉
『人生の勝ち組の9割は「ヒモ」』(早くも10万部突破!)〈大和書房〉
『ビジネスに役立つ 教養としての「ヒモ」入門』(出口治明さん絶賛!)〈ダイヤモンド社〉
『ズボラなあなたでも、メキメキ「ヒモ」になれる方法99』(Amazonビジネス書ランキング1位)〈ソフトバンク・クリエイティブ〉
『どん底にいた私が、日本一の「ヒモ」になるまで』(「金スマ」で紹介され、「人生が変わりました!」との声続々!)〈宝島社〉

 みたいな感じの中から選ぶのかと思っていた。そのうえで、

『ハーバード式 最強の‟ヒモ”術』(マーク・ザッカーバーグも実証済み!)〈サンマーク出版〉

 あたりを私なら買うのかな、と。なんだかんだで学歴コンプをむき出しにして買っちゃうのかな、それでモンチッチみたいな表情で熟読するのかな、と。そう思っていましたよ、私は。だのに、だのに、ないとは…………。
 なぜハーバード大学は研究していないのだ!「Harvard」のロゴ入りパーカーを着ている奴は、卒業生でもないのに何を考えておるのだ!

「完全感覚Dreamer」

 本がないなら、もう私が自力で考えるしかない。前置きが長くなったが、かような経緯で私は筆を取った次第である。本にして数多の需要に応えることは叶わないが、こうして徒然なるままにnoteに綴ることはできる。良い時代になったものだ。すなわち、私自身で、「ヒモになる」ためのプロセスを考察していくことにしよう。

 しかし、そこには幾多の壁が立ちはだかっているのも事実だ。まず、私は元々は知りたい側の人間であることからして当然ながら、「ヒモ」の経験がない。研究もしていないし、知り合いもいない。空手、徒手空拳の状態だ。

 おそらくだが、HowTo本は、豊富な経験者が実体験を織り交ぜながら薫陶を授ける、あるいは専門家が各々の知見でもって術を教える、このどちらかで出来ているのだろう。その点、私はあまりにも無力で、非力だ。

 ……良いではないか。先日、若松英輔さんの本『詩と出会う 詩と生きる』

www.amazon.co.jp/dp/4140817844 (リンクを貼ってあげるね!)

を読破した日のこと、夜に楽しく人と語らい、酒を飲み、したたかに酔っていた。この本には、「詩を書いてみなはれ」という優しい啓蒙の要素があって、もろに影響を受けやすい私は、帰宅後noteにポエミングしてみた。
 さて、翌日。すっかり素面になり、やおらnoteを見てみたら、私の投稿が表示された。

 ……………ビックリした。「むっちゃ当たり前のことを、それっぽく書いてはるだけやん」とも感じたが、それ以上に、「ものごっつわかりやすく『中原中也』にかぶれとるやんけ、こいつ……」と思った。平たく言えば、ドン引いた。

 最近、駅で<お酒の失敗じゃない。あなたの失敗です。>という大変に秀逸なコピーを掲載したポスターをよく見かけるが、秀逸過ぎてまっすぐ私に突き刺さり、胸が苦しくなる。暴力防止が目的なので、暴力は振るわない私には無関係なはずなのに、いやはや秀逸過ぎまっせ。

 みなさん、お酒はほどほどにしましょうね……じゃなかった。それでもよいのである。詩を書いたって、散文を書いたって、その出来の良し悪しがどうあれ、よいのである。お酒を抜きにすれば、若松さんだってそうおっしゃっているではないか。この酒についてのフレーズは、暴力防止についてであることをゆめゆめ忘れるな。

 というわけで、第一ハードルは乗り越えた。もはや"Dreamer"と言われてもよい。「脳内お花畑」と誹られようと、構わない。経験も知見もないなら、完全に「感覚」でいこう。

 そう、私は「完全感覚Dreamer」である。これは、ONE OK ROCKという10~20代に大人気のバンドの楽曲だ。
 学生時代、かわいい後輩から、「ぽんすけさん、ONE OK ROCKってバンドがむっちゃカッコいいんですよ。俺、大好きなんすよ」と言われたことがあった。「ほうほう、どんな曲があるのかね?」と尋ねたところ、教えてもらったのがこの曲だ。

「完全感覚Dreamer」……字面がたいへんアホっぽく、つんく的な3枚目センスを感じる。ハードロック系と聞いたので、それともイエモンのコミカルソング系の曲に近いのかな~? さっそくYouTubeで聴いてみた。

 ………………全然、違った。………………めっちゃオラついていた。………………怖かった。あっ、これマイルド・ヤンキーが好きなヤツだ……………。以降、私は一切聴いてはいない。
 ……………しかし、こと「ヒモ」に関して、私は「完全感覚Dreamer」である! 次回から、考察を深めていこう!

(つづく)

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