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【掌編小説】それぞれの同窓会 2/3

第二章 田口 俊介

「シュン君?」
俺に声をかけてきたのは、マコちゃんだった。

俺が「久しぶりじゃん、元気にしてたか?」と聞くと、マコちゃんは「うん、何とかね」と答えた。

同窓会の案内が届いたとき、俺が何よりも気になったことは、マコちゃんのことだった。噂で、マコちゃんが仕事で体調を崩し、実家で療養していると聞いたからだ。だから、マコちゃんの笑顔を見て、俺は心から嬉しかったし、何よりもホッとした。

「ヒロシとシュン君を探していたんだ」とマコちゃんが言うので、会場を見回すと、ヒロシの姿を見つけた。俺は「おーいヒロシ、こっちだ」と声をかけた。

俺とヒロシとマコちゃんの3人は、お互いの近況について話し始めた。

ヒロシは地元の区役所に勤めているらしい。大した趣味はなさそうだけど、休日に奥さんと買い物に行くなんて素敵な夫婦だよな。ヒロシは昔から派手さはないけど、真面目で堅実なタイプだった。ヒロシは今も変わらず、昔のままのように感じた。

マコちゃんは母親の介護か・・・。俺みたいな我が儘な人間に、親の介護なんて無理だろうな。それに比べてマコちゃんは、昔から誰よりも優しかったから、なんとかやれているんだろう。やっぱり、マコちゃんも昔のままで、変わっていないように思えた。

ヒロシとマコちゃんの話を聞きているうちに、俺の心の中に抱えている葛藤が蘇ってきた。それは「家族と過ごす時間が少ない」ということだ。

俺は自他ともに認める仕事人間で、何よりも仕事を優先してきた。俺の実家は決して裕福ではなく、お金がなくて諦めたものは数えきれない。だからこそ、大人になったら、誰よりも働いて、たくさんお金を稼いで、少なくとも人並みの贅沢はできるようになりたいと思った。

そして、その気持ちは、結婚と娘の誕生を経て、更に大きくなった。

そんな俺の気持ちを理解してくれて、黙って家事、育児、パートに奔走してくれている嫁には、本当に頭が上がらない。

来年は娘の大学受験がある。娘は「東京の大学で日本の文学史の研究をしたい」と言って、毎日遅くまで受験勉強を頑張っている。本音では「文学史なんて、何の役に立つんだ?」と思っているが、それでも娘には夢を叶えてほしい。

嫁と娘の生活と夢を守るために、俺はこれからも頑張り続けなければならない。

そんな俺にも夢がある。
仕事をリタイアしたら、嫁と一緒に旅行を楽しみながら、のんびりと暮らすことだ。年に数回、いや、一回でもいい。嫁と二人で海外旅行、それが無理なら国内の温泉でもいい。今まで仕事ばかりで、何もしてあげられなかった嫁に、楽しい時間と思い出をプレゼントしたいんだ。
そして、将来は孫を甘やかせてばかりいる迷惑なおじいちゃんになりたい・・・まぁ、そんなことを言ったら、嫁と娘に怒られそうだけどな。

だから、今はどうしても仕事を頑張らないといけない。特別な才能もない不器用な俺は、他の人の何倍もがむしゃらに働くしかないのだ。

同総会が終わりに近づいたころ、二次会の誘いを受けたので、俺も参加することにした。別に二次会を楽しみにしているわけじゃない。一人の営業マンとして、人脈を広げるためにも、多くの人と接点を持ちたいと思ったからだ。

二次会には行かないヒロシとマコちゃんと別れたあと、スマホを確認すると、嫁からLINEが入っていた。

「楽しむのはいいけど、飲み過ぎには注意。健康が一番だからね。」

二次会のカラオケで、俺は何度歌っても上手くならない福山雅治の「家族になろうよ」を熱唱した。

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