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いっそ、口にチャックがあれば。

誰かの話に、被さるように口が開き、感情や想いより前に音が漏れる。
その音を聞いて、口が止まって、言葉が詰まって、
口先が、戻れなくなった意味を行き場もなく繋げる。
蝉の鳴き声が、聞こえる。

上がった口角が、
どこに戻っていいのか分からなくて、ただ頬の中央に張り付いて戻らない。

自分がどんな顔をしていて、
相手がどんな顔をしていて、

それを見るのが怖くて、まぶたを伏せる。

見つめた足元の先に、
どうして、受け取れなかった 優しさ が落ちる。

あぁ、どうしよう。
あぁ、ごめんなさい。

肩に力が入る。
首の後ろの空気が詰まる。
足の指に、力が入る。

目線の先に言葉を探して、
盗み見る横顔に答えを探した。

一体何をやっているんだろう。

どうしようもなく、何か自分にできることがあればと思うのに、
貰ったものを少しでも返せたらと思うのに、
心に、失礼でない程度に手を添えれたらと思うのに、
もっとごめんねと、ありがとうを、目を見て言えればと思うのに、

口を突くのは
暑いね、と、疲れたね、と
大して面白くもない返事と、当たり障りのない正しさ達で。

そういうもの達に囲まれている私は、
今日もあぁ、自分の身を守ってしまったと、思う。
いつかの夏休みと、同じように。

一体何をやっているんだろう。

いっそ、口にチャックがあればいいのに。
私は空気になりたいし、
言葉を失ってしまえれば、と思った。
それとも、発した声が相手に届かなければ、と。

弱々しい語尾と
少し曲がった眉毛と
固くなる頬が
私に問いかける。

お前は一体何をしたいのか、と。

分かってる、分かってる。
ちょっとだけ。放っておいてくれ。

うまくできないことも、ある。
悔しいし、悲しいし、申し訳ない、みたいな分かりやすい感情でしか表現できないほどには、歯がゆく感じている。
それに、うまく出来ない時だってあっていいんだって、
もっと力抜いていこうぜ、ってことも多分、分かっている。
というか、大人になったら、なんとなく上手く笑ってやっていけるんだと思っていたんだ。

でも、それでも、私は頑張りたい。
きっと時間がかかるのだし、
きっとうまくはできないのだし、
きっと自分が悲しくなることも、
疲れて途方にくれることもあるのだろう。

それでも、私はあなたと一緒にいたいのだし、
そうやって伝えていきたいのだし、

もうちょっと、もうちょっとだけ、頑張る時間を、貰えないでしょうか。

結果は保証出来ないけれど
伝えたい優しさを伝えることができるか、自信はないけれど、
それでも、もうちょっともがいたり、してみたいと思うのです。

もし、口にチャックがあったなら。
きっと伝えられない想いがあるのだろうし、
耳に届けられていない言葉の温度もある。
触れることが怖かった手も、
見ることができない目も。

私は本当に自分勝手ですが、
もうちょっと、諦めたくないと思います。

こんなことさえも、やっぱりどうして
私の口のチャックは何かをはさみこんで動かないけれど
別れ際に振り返って、
離れていく優しい背中達に祈ったりしているのです。

優しさをありがとう、もう少し頑張らせて下さい、と。

私に優しさをくれる全ての人たちへ。
夏が、来ました。

▼このnoteはcotree advent noteのマガジンに参加させていただいています!
優しさに包まれたい時に是非、なマガジンです〜。


▼表紙使用の写真は全てNicon new fm2(フィルムカメラ)で撮影しています。(写真のお仕事依頼はもしあれば飛び上がって喜びます、ます!)


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