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ミゲル・ゴメス『Grand Tour』結婚を前に逃げる男と追う女の"新婚旅行"

2024年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。2025年アカデミー国際長編映画賞ポルトガル代表。ミゲル・ゴメス長編六作目。サマセット・モーム『The Gentleman In The Parlour』に登場する人物のエピソードに着想を得た一作。原題"グランドツアー"は白人が東南アジア/東アジア地域を周遊する旅のことを指すらしい。同作はモーム自身がこの地域を旅した記録をまとめたもので、本作品もモームの旅と同じ2020年1月4日から始まり、同じくらいの日程で同じ地域を旅するという企画だったらしい。しかし、コロナによって主要スタッフはポルトガルに引き上げることになり、撮影できなかった場所での撮影はリモート監督で行ったとのこと。物語は1918年のラングーンで始まる。この地にいた英国外交官エドワード・アボットの下に、7年間婚約していたモリー・シングルトンがやって来るというのだ。長らく会っておらず顔も忘れた彼女の到着に怖気付いたエドワードは、迎えに行ったその足でシンガポールへと逃げ、そこから様々な手段を使ってバンコク、サイゴン、大阪、上海、重慶とアジア周遊ツアーを開始する。場所を移るごとに体力ゲージが減っていき、徐々に衰弱していく彼を、毎度絶妙なタイミングでモリーが追いかけていく(そして彼女も動揺に衰弱していく)。映画はエドワード視点とモリー視点の二部構成となっており、基本的には双方でほぼ同じ旅程で似たようなことを繰り返しているだけなのだが、単純な答え合わせにならず、ワクワクする冒険を一緒にしている気にもなってくる。それはエドワードがスパイであるという示唆も関連してくるだろう。予測不能な幸運や巡り合わせによって、あと少しで間に合わない追いかけっこが運命付けられているのだ。

俳優たちが登場するのは全てセットで撮影されたシーンであり、残りは現地で撮影された現代の風景を背景にナレーションによって紡がれる。東南アジアの人形劇や影絵など伝統的な側面に加えて、カラオケが新たな文化のような形で登場し(フィリピンには標的にフランク・シナトラ"My Way"を歌わせてから殺す通称"マイウェイ・ギャング"が存在するらしい)、本筋の物語との間に存在する過去と現在という対比を奇妙に混ぜ合わせている。これはそのまま特にモリーが憧れるオリエンタリズムの現在的な探求とも言えるだろう。しかし、作中の人物は東洋の気候やらなんやらに疲弊して徐々に衰弱していくことからも分かる通り、東洋は彼らの思い描くものでもなければ思い通りになるものでもないのだ。このへんはオリエンタリズムの限界、或いは植民地主義の間接的な批判の文脈も含まれているのだろう。上手いと見るかズルいと見るかは人によると思うが、そこらへんの感覚は実に器用で興味深い。

・作品データ

原題:Grand Tour
上映時間:129分
監督:Miguel Gomes
製作:2024年(ポルトガル他)

・評価:80点

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