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サボー・イシュトヴァーン『25 Fireman's Street』ハンガリー、破壊されるマンションが見たカオス的走馬灯

傑作。サボー・イシュトヴァーン長編四作目。前年に撮った短編『A Dream of a House』の続編のような立ち位置にある。ある夏の暑い夜、取り壊しの決まったペストの古びたアパートに暮らす人々は、不確かな未来に直面しながら呪われた過去を落ち着きなく回想する。激動の戦間期、矢十字党の時代、スターリン時代、住民たちが経験した様々な記憶を"意識の流れ"のように連続的に紡いでいく。それはまるで死にゆくアパートの見た走馬灯のようでもある。カメラに語りかけるように非線形な記憶が並べられていくのは、前作『Lovefilm』と似たような構成だが、主人公二人の記憶を扱っていた同作に比べると、視点人物が広がったことでよりマクロに、よりカオスになっている。あるパーティのシーンではカメラが部屋中を動き回り、様々な大人たちがフレームインしては、マリアが結婚する相手について色々と文句を言い合ってフレームアウトするという、まさしく同時代のヤンチョー・ミクローシュを彷彿とさせる5分近い夢幻的な長回しまであった。マリアを演じているのがテレーチク・マリにとても似ているポーランドの女優ルツィナ・ヴィンニツカなのが芸術点高め。というか精神世界に全ての時間が融合していく感じはヤンチョーそのもの。水没した部屋を泳ぐ夢、かつて愛した二人の男の顔が半分ずつ重なって一つの顔になり語りかけるシーン、振り返るとユーゲント教育現場になっているシーン、アパート前に塹壕を掘るシーン、カーテンを開けると木屑にまみれた大量の赤ちゃんが部屋の中にいるシーンなど、きっちりハンガリーや他の東欧諸国のニューウェーブの系譜にある映像でハンガリー近代史を縦横無尽に駆け巡る。奇妙な偶然としてヴォイチェフ・イエジー・ハス『砂時計』と同じ年に公開されているのも興味深い。内容そのものが似ているわけではないんだが、精神世界と現実世界が魔的融合している状態はどこか似ている。面白すぎるが到底理解したとは言えない気がする。やはり『コンフィデンス』以前のサボーは狂ってて面白い。この時期のサボーはニューウェーブ世代の中で一番狂ってるんじゃないか。

・作品データ

原題:Tűzoltó utca 25.
上映時間:97分
監督:Szabó István
製作:1973年(ハンガリー)

・評価:80点

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