ベクトルの割り算2〜外積の場合〜

前回の記事の続編になる。

上の記事で私は『ベクトル単純積』という演算を『ベクトルの積』とすることを提案した。
ベクトル単純積というのは、
(a, b)かける(c, d)=(ac, bd)
というベクトルを得る計算であり、内積はその計算で得たベクトルの各成分の和をとったものとして定義される。

上記の提案のメリットは、ベクトルでも割り算ができるということだ。
内積をベクトルの積演算として定義すると、
(ac+bd)÷(a, b)
というような計算は定義しようがないが、ベクトル単純積がベクトルの積演算ならば、上の式を移項して
(ac, bd)÷(a, b)=(c, d)
という計算を容易に定義することができる。

さて、ここまでが前回の内容だけれど、こうなってくると、『もうひとつ』が欲しいのではないだろうか。

ベクトルの積演算には、内積の他にもう一つの計算があるとされている。
『外積(クロス積)』だ。

では、ベクトル単純積のように、外積も逆演算可能な形で定義することができるだろうか?『単純外積』とでもいうべきものだ。

やってみるとすると、このようなもののはずだ。

二次元のベクトル単純外積は、以下のような演算である。

(a, b)カケル(c, d)= (ad, bc)
(『カケル』は仮に置いた演算子)

ベクトル単純積は(ac, bd)なので、使ってない方の組み合わせということになる。
いわゆる外積は、上の『単純外積ベクトル』の各成分の差、ということになる。厳密にいうなら、“各成分の差の大きさを持つ両ベクトルに直交するベクトル”になるが。
計算だと
ad-bc
ということになる。

ここでちょっとした問題があって、ベクトル単純積から求まる外積は、かける順番を変えると符号が逆になる。
(a, b)カケル(c, d)=(ad, bc)
(c, d)カケル(a, b)=(bc, ad)
それぞれから求まる外積は
ad - bc
bc - ad
というわけだ。
この性質は、既知の外積においても知られているもので、右手系と左手系の問題だ。
つまりこれは外積という計算が持つ特徴であり、単純外積で新たに発生した問題ではない。

あまり綺麗ではないが、割り算のことも考えておく必要があるだろう。割り算は、上の式を移項して
『各成分で割り算をした後、x成分とy成分を入れ替える』
というような演算になる。
(ad, bc)/(a, b)=(ad/a, bc/b)= (c, d)
(bc, ad)/(c, d) =(bc/c, ad/d)= (a, b)
ということだ。
……ちょっとズルをした。外積の場合だとかける順番によって得られるベクトルが違うため、『右からかけるか、左からかけるか』、『右から割るか、左から割るか』ということも答えに影響してくることになる。
左からかけたベクトルで割る場合には、『各成分を割って、xとyを入れ替える』という計算になり、
右からかけたベクトルで割る場合には『xとyを入れ替えた後、各成分を割る』という計算になるようだ。

それはそれとして、2次元のベクトルの演算の答えが3次元のベクトルになるのは嬉しくない。
それならば、3次元のベクトルで計算をするべきだ。

三次元のベクトル(a1, a2, a3)と、(b1, b2, b3)をカケルことを考えよう。

最初に計算した2成分の計算は(a1, a2, 0)と(b1, b2, 0)
の掛け算として考えられて、
(a1, a2, 0)カケル(b1, b2, 0)=(a1b2, a2b1, 0)
という計算になる。
単純外積から外積を求めると、
(a1b2, a2b1, 0)→(0, 0, a1b2-a2b1)
だ。
こう見ると法則性がわかりやすくて、成分の無い方向に、各成分の差の大きさを持ったベクトルが得られる、ということになる。

上記を踏まえて、2次元の成分だけでなく、3次元の成分全てを含むベクトルの『単純外積』を考えると、以下のような演算になる。

3次元のベクトル単純外積は、2つの3次元ベクトルから、3つの3次元ベクトルを得る演算である。
すなわち
(a1, a2, a3)カケル(b1, b2, b3)=
(a1b2, a2b1, 0)
(0, a2b3, a3b2)
(a1b3, 0, a3b1)

外積は、3つのベクトルそれぞれの成分の差を成分とする3次元ベクトルとなる
(a1, a2, a3)×(b1, b2, b3)
=(a2b3-a3b2, a3b1-a1b3, a1b2-a2b1)

これで、よく知られた外積とも一致する形で、割り算が可能な『ベクトルの積』を定義することができた。

第一回で内積に当たる『ベクトル単純積』
(a, b)かける(c, d)=(ac, bd)
を定義した。

第二回の今回で外積に当たる『ベクトル単純外積』
(a1, a2, a3)カケル(b1, b2, b3)=
(a1b2, a2b1, 0)
(0, a2b3, a3b2)
(a1b3, 0, a3b1)

を定義した。

……ここまで見れば、「おや?」と思う人がいるのではないかと思う。
次回が最終回で、『ベクトルの本当の積』『ベクトルの完全な積』の話をしたいと思う。

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