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映画鑑賞のススメ~読書好きに観て欲しい映画5選~ その5

 「原作厨」という言葉をご存知だろうか。小説や漫画やアニメが映画などで実写化されることを極端に嫌う原作を至高の作品と考える人々を揶揄する言葉で筆者の感覚では『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』が公開された2012年頃に一般的にも広まった気がする。筆者にもそういう偏った価値観が無いわけではないが、より幅広い層に一つの作品が波及していくには、様々なメディア展開がおこなわれるのは現代では有効な手段である。筆者は原作厨な人々とそうでない人の断絶を少しでも解消し、スマホなどのポータブルなデバイスに娯楽の全てが押し込まれるこの時代に様々なメディアで多くの人が作品を楽しみ、あらゆるコンテンツ制作者がもっと幅広く認知されることを願っている。このシリーズでは、そうした願いのもと小説や漫画などの原作を映像化した魅力的な作品を前4回で年代、邦画、海外作品問わず20作品を紹介してきた。

 今回もさらに5作品を紹介していく。

21.『猟奇的な彼女』(My Sassy Girl、2001年)

https://youtu.be/N8LglYTU_Xc

 1998年にパソコン通信「ナウヌリ(nownuri)」に連載されたキム・ホシクのネット小説をクァク・ジェヨン監督が映画化。韓国ブームの火付け役的コンテンツとなり、のちに日本でも同名でドラマ化され草なぎ剛、田中麗奈が出演したほか、『猟奇的な彼女 in NY』としてハリウッドでもリメイクされた。

 今でこそK-POPや韓国映画は世界的に認知されるようになっているが、筆者にとってこの映画は韓国カルチャーを知る大きなきっかけとなったことは間違いない。主演したチョン・ジヒョンがとにかく素晴らしい。彼女に振り回されるチャ・テヒョンも良い。猟奇的という言葉が“Sassy”=「かわいらしい、いたずらじみた」という意味を持つ修飾語として広まるほどツンデレな女性像が一般的になった、そのくらいエネルギーのあった作品。

 原作は2000年1月に書籍化され10万部を超えるベストセラーとなっている。2004年に公開された『僕の彼女を紹介します』はこの主人公の過去を描いたような作品となっており、こちらもヒットした。

22.『ランブルフィッシュ』(Rumble Fish、1983年)

https://youtu.be/7voEoWRKbAE

 米小説家S・E・ヒントンの同名原作をフランシス・フォード・コッポラが映画化。コッポラは同年に彼の『アウトサイダー』も映画化しており、それに続くタッグとなった。不良のマット・ディロン演じるラスティが憧れの兄、ミッキー・ローク演じるモーターサイクルボーイの失踪、帰還しての変質に戸惑う青春物語。

 とにかくミッキー・ロークが格好良い。さらに彼ら兄弟の父親を演じた若きデニス・ホッパーもすでに貫禄があって最高だ。本編はモノクロなのだが最後にコッポラの仕掛けがあり、度肝を抜かれた。ぜひ本編を観て確認して欲しい。

 S・E・ヒントンは、出身地であるオクラホマ州タルサを舞台にした処女作『アウトサイダー』(The Outsiders, 1967年)を16歳で書き上げ、18歳でデビューするという早熟の天才。ヤングアダルト(YA)という青春小説を新たな文学のジャンルとして開拓したパイオニアである。

23.『砂漠でサーモン・フィッシング』(Salmon Fishing in the Yemen、2011年)

https://youtu.be/HK5x_Q1pi3Q

 英小説家ポール・トーディの小説『イエメンで鮭釣りを』(2006年)を原作に『スラムドック$ミリオネア』でオスカーを受賞した脚本家サイモン・ボーファイが脚本を務め、ラッセ・ハルストレム監督がメガホンを取った。

 ユアン・マクレガー演じる英国の水産学者アルフレッド・“フレッド”・ジョーンズが、イエメンの大富豪の鮭釣りプロジェクト依頼を受けたエミリー・ブラント演じる投資会社のコンサルタントのハリエット・チェトウォド=タルボットから話を持ち掛けられ、砂漠の地で鮭を放流するという無理難題に挑む。初めジョーンズは不可能だと断るが、英国と中東の関係修復の為にこのプロジェクトに目を付けた英国の首相広報官により国家プロジェクトに進展しジョーンズも一大決心をしてイエメンへと乗り込む。

 ジョーンズとハリエットの恋模様とともに、中東でのテロリストとの遭遇など社会的問題も描かれており見応えのある作品でさすがラッセ・ハルストレムは外さないなと、筆者は舌を巻いた。

24.『きょうのできごと a day on the planet』(2004年)

https://youtu.be/rPt8O1pgxNU

(※YouTubeで何故か予告編が削除されていたので柴崎先生が『きょうのできごと』の10年後を書いた作品の話をアップしました。ご了承ください)

 大阪出身の小説家、柴崎友香の単行本デビュー作『きょうのできごと』(2000年、河出書房新社)を行定勲監督が映画化。第32回野間文芸新人賞を受賞した『寝ても覚めても』(2010年、河出書房新社)が昨年東出昌大主演で映画化され、同作は第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門にも出品されており、柴崎の作品は文字通り“映え文芸”なのかもしれない。

 今作は、京都の大学院に進学する柏原収史演じる正道の引越祝いに集まった田中麗奈演じる恋人の真紀、伊藤歩演じる親友のけいとと共に訪れた妻夫木聡演じる中沢がそれぞれの過去を回想しながら、その日一日に起こった出来事を描く。壁に挟まれて出れなくなった男を救出するレスキュー隊や浜辺に打ち上げられた鯨の実況中継などが並行的に推移していく。

 それぞれの関西弁のテンポもさることながら、淡々と三つのストーリーが展開されるところも、行定監督作品の醍醐味が出ている。筆者の印象としては、終盤で登場する池脇千鶴演じるちよが恋人の松尾敏伸演じるかわちとの動物園デートでぶち切れて去る場面がハイライト。

25.『シングルマン』(A Single Man、2009年)

https://youtu.be/BcmcJi8dxrk

 ファッションデザイナーとして世界的に有名なトム・フォードの映画監督デビュー作。英小説家クリストファー・イシャーウッドの2001年の同名原作をコリン・ファース主演で映画化した。

 クリストファー・イシャーウッド自身ゲイであり、1986年に亡くなるまで30歳年下の画家ドン・バチャーディを生涯のパートナーとしていた。二人を追ったドキュメンタリー映画『Chris & Don. A Love Story』も2007年にリリースされている。

 今作はゲイの大学教授ジョージ・ファルコナー(コリン・ファース)が恋人の事故死を受け、自殺を決意した一日を描く。教え子であるケニー・ポッター(ニコラス・ホルト)がジョージを心配し接近する二人の関係がどうなるのか、はたまたジュリアン・ムーア演じるジョージの親友シャーロットとの最後の晩餐で縮まった二人の距離にも目が離せない。

 今作を観ると、改めてトム・フォードのセンスと教養を感じさせるし、何よりもどんな業界であれ世界でトップを取る人間はやはり共通するセオリーみたいなものがあるのではないかと考えさせられた。

 いかがだっただろうか。小説を書く人間としては、やはりその作品が映像化されることによって世界観が限定されてしまうのではないかと危ぶむ気持ちも多少あることは否めない。しかし、ここに紹介する作品はやはり多くの人間が一つの作品にそれぞれの矜持を持って全力で取り組み、結果、相乗効果で名作が生まれるということを証明してくれた好例だと筆者は考えている。今後もそういう作品は生まれ続けるだろうし、まだまだ紹介しきれていない作品はゴマンとあるので引き続き紹介していきたい。

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