見出し画像

クリエイティビティを高める「ブレスト」のひと工夫

リトルCを増やす「ブレスト」


ブレスト」をご存知でしょうか。ビジネスパーソンなら聞いたこと、やったことがあるかと思いますが、これは「ブレインストーミング」の略で、1938年にアメリカのある広告代理店の創設者であるアレックス・オズボーン氏によって考案されたアイデアの発想技法です。設定したテーマ(課題)に対して、グループで新しいアイデアを一定の時間内にどんどん出して行くのが通例です。

私は、ビジネスパーソンとしてのスタートを切ったソニーでは、商品企画の部署に配属されましたので、そこで数々の「ブレスト」を経験しました。そのテーマは、「10年後や20年後のビジネス」だったり、「あるテクノロジーが実用化された場合に、考えられるビジネス」だったり、様々です。

この「ブレスト」のメリットは、1人でアイデアを考えるよりも、他人のアイデアも聞くことで、拡散的思考が刺激され、1人では思いつかなかったようなアイデアに出会えたり、グループメンバーの共通認識が形成され、距離感が近くなることで結束力が高まったりと様々です。(デメリットとしては、声の大きな人やおしゃべりな人の発言が多くなってしまったり、役職の高い人がメンバーに入っていると、他のメンバーが気兼ねしてしまうことなどが指摘されています。)

日々の小さなクリエイティビティ(リトルC)を増やすという観点からも、この「ブレスト」はとても有効です。ビジネスシーンでの会議のような形態をとらなくても、ちょっとした雑談やランチ、飲み会の最中に、即席の「ブレスト」に発展することもよくありますし、そこで得たちょっとしたアイデアが後に重要な意味を持つこともあり得ます。

「ブレスト」では、他人のアイデアを批判しない、というのが大原則ですが、さらにクリエイティビティを高める「ブレスト」のちょっとした工夫について、海外のエイビデンスを紹介します。


「恥ずかしい経験」のシェアでアイスブレイク!


「ブレスト」のクリエイティブ効果を高める1つ目の工夫は、アイスブレイクにあります。

アメリカのノースウェスタン大学ケロッグスクール・オブ・マネジメントのリー・トンプソン博士らが、面白い実験を行いました。実験では、様々な業種・企業のマネジャー93人を3人のチームに振り分け、「ブレスト」を実際に実施してもらいました。ただし、その前に、半分のグループには、過去6ヶ月以内の「恥ずかしい経験」を、残りの半分には「誇りに感じた経験」を、チーム内で1人ずつ語ってもらいました。

「恥ずかしい経験」を話すグループのメンバーは、初めのうちは不安そうな表情を見せていましたが、順番に話すうちに、やがて、にぎやかな笑い声が聞こえてくるようになりました。一方、「誇りを感じた経験」を話すグループでは、笑いが起こることはめったになく、メンバーは皆、儀礼的にうなずくだけでした。

その後、参加者は全員、「段ボールのユニークな活用法」について、10分間、可能な限りアイデアを考えるという課題に取り組みました。

結果は、「恥ずかしい経験」を話したグループは、「誇りを感じた経験」を話したグループに比べて、26%も多くのアイデアを生み出し、そのアイデアのカテゴリー数は15%も多い(つまり、アイデアの柔軟性が高い)ことがわかりました。

私も、この「恥ずかしい経験」を順番に話すというのを、飲み会でやったことがありますが、効果は抜群で、初対面同士でも一気に心理的距離が縮まり、その後、面白いビジネスのアイデアについて、話がとても盛り上がりました。

「恥ずかしい経験」を話すことは、一種の自己開示に繋がり、相手の警戒感も緩み、相手も自己開示しやすくなる効果があると考えられます。ただし、何でもかんでも「恥ずかしい経験」を他人に話すのは抵抗があるでしょうし、いきなり振られても話すのが難しいかもしれませんので、普段から「人に話しても良い恥ずかしい経験」をストックしておくといいかもしれません。ちなみに、私の「人に話しても良い恥ずかしい経験」を1つご紹介します。

子供と遊びに行った某横浜の動物園の駐車場で、車のドアを半日開けっ放しで気づかずに放置。戻ると最後の一台だったので、広い駐車場にポツンとドアの開いた車が止まっている状態でした。何も取られず、日本の安全神話を確信した次第ですが、かなり恥ずかしい経験でした。笑

このように「人に話しても良い恥ずかしい経験」のストックを考えること自体、リトルCかもしれません。


ハッピーミュージックで拡散的思考を後押し


「恥ずかしい経験」のシェアで、良い雰囲気ができた後、「ブレスト」のクリエイティブ効果を高める2つ目の工夫は、音楽です。

音楽とクリエイティビティの関係については、様々な研究が行われていますが、オランダのラドバウド大学行動科学研究所のシモーネ・M・リッター博士らは興味深い実験を行っています。

実験では、155人の参加者を分類し、それぞれ(1)ハッピーな音楽(ポジティブ&高覚醒)、(2)落ち着いた音楽(ポジティブ&低覚醒)、(3)悲しい音楽(ネガティブ&低覚醒)、(4)不安な音楽(ネガティブ&高覚醒)を聴きながら、2種類の創造性テストを受けてもらいました。

創造性テストには、ある物(レンガなど)の使い方のアイデアを可能な限り挙げるという拡散的思考のテストと、3つの単語から共通して連想される1つの単語を回答するという収束的思考のテストが使われました。

結果は、ハッピーな音楽(ポジティブ&高覚醒)を聞いたグループのみ、拡散的思考のテストのスコアが他のグループよりも有意に高いことが明らかになりました。ちなみに、このハッピーな音楽は、有名な「ヴィヴァルディの四季」でした。一方、出したアイデアを絞り込んでいく収束的思考については、音楽によるプラスの効果は見られませんでした

この実験から、「ブレスト」のクリエイティブ効果をキープするためには、明るくアップテンポな音楽をかけると良いことがわかりました。

以上をまとめると、「ブレスト」は、仕事のアイデアを生み出すだけでなく、私たちのウェルビーイングを高めてくれる日々の小さなクリエイティビティ(リトルC)にもとても有効で、その効果を高めるために、最初のアイスブレイクとして、「恥ずかしい経験」をシェアすること、そして、明るくアップテンポな音楽で、メンバーの感情をポジティブかつ高覚醒にキープし、拡散的思考を促進することがとても大事だということになります。

参考文献:
・Thompson, L., Wilson, E. R., & Lucas, B. (2017). Research: For better brainstorming, tell an embarrassing story. Harvard Business Review.
・Ritter, S. M., & Ferguson, S. (2017). Happy creativity: Listening to happy music facilitates divergent thinking. PloS one, 12(9), e0182210.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?