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起業家を取り巻く不確実な環境

 起業家を取り巻く環境は、不確実なことだらけです。インド出身の経営学者サラス・サラスバシー博士は、起業家を取り巻く不確実な環境の特徴をいくつか指摘しています。その1つが、将来生じるビジネスの結果を確率論的に予測することが困難であるという点です(これを「ナイトの不確実性」といいます)。起業家が事業ネタを複数考えたとして、どれが最も成功する確率が高いかを統計的に予測できれば良いのですが、そのような予測自体が困難だということです。したがって、起業家の「野生の勘」や「嗅覚」のようなものが重要になってきます。

 起業家を取り巻く不確実な環境の2つ目の特徴は、目標の曖昧性です。起業の目標が自身の強烈な原体験に基づいていて、一切ブレない場合は、あまり当てはまらないかもしれませんが、多くの起業家(私自身も含め)は、商品やサービスのプロトタイプを作ってみて、潜在顧客の反応を見た結果、ビジネス領域を変更(ピボット)することがしばしばあります。それが続くと、「一体自分は何を達成したかったのか?」と自問自答することになります。このような時は、起業家は状況に応じて、目標自体を柔軟に見直していく必要があります。これらは起業家に限らず、会社で新規事業を担当する人などにも、共通に当てはまることだと思います。
 このように不確実なことだらけの環境に長時間晒されていると、人間は間違いなくストレスを感じますので、メンタルをいかにマネジメントするかがとても重要になってきます。

タイプAの行動特性とは?

 起業家は上述の通り、不確実な環境下で多くのストレスを感じますが、そのような外部要因に加え、自分自身の行動特性もまた、ストレスを助長しているかもしれません。アメリカの循環器内科医であるM.フリードマンとR.H.ローゼンマンは、狭心症や心筋梗塞といった心臓疾患の患者に特徴的な行動パターンとして、「タイプA」という行動特性を見つけました。タイプAの特徴としては、時間的切迫感や焦燥感がある達成意欲や競争心が高い短気で敵意や攻撃性をもつ、などが挙げられます。(これに対して、競争心が低い、くつろいだおおらかな対人関係を有する、などの特徴を有する行動特性をタイプBといいます。)

 タイプAには、経営者やスポーツマン、営業職などが多いといわれており、起業家の行動特性としても、非常に当てはまるのではないかと思われます。(ただし、起業家の行動と性格の特性を調べた日本のある研究では、起業家のタイプは、タイプAとタイプBで半々ぐらいでしたので、タイプBの起業家というのも普通にいると思われます。) 
 タイプAかBかはさておき、起業家は時間的な切迫感を感じたり、競合する商品やサービスを提供する会社に対して敵対心を持ったりすることはしばしばあります。このようなタイプAの行動特性は長期的にみると、心身の健康に良くないことが研究で明らかになってきています。

タイプAの行動特性と血圧の上昇

 タイプAのいくつかの行動特性が、長期的な血圧の上昇に関連しているという研究があります。米ノースウェスタン大学医学部の研究者らは、米国4大都市圏の18~30歳の黒人および白人成人3308人を対象に,タイプAの特性のうち、(1)時間的切迫感/焦燥感、(2)達成意欲/競争心、(3)敵意/攻撃性が、血圧に与える長期的な影響を、15年間、追跡調査しました。
 その結果、(1)時間的切迫感/焦燥感と(3)敵意/攻撃性が、15年後の血圧の上昇に関連していることがわかりました。これらの関連性は、一般に血圧に影響を与えると考えられている、飲酒、運動習慣、BMIなどの影響を除いても、変わりませんでした。一方、(2)達成意欲/競争心は血圧の上昇には関連していませんでした。

 常に時間に追われながら仕事をしている人や、他人に対して、すぐに攻撃的な態度をとってしまう人は、血圧の上昇によって、血管を痛めていると自覚をした方が良さそうです。新しい事業を立ち上げたり、未知のプロジェクトを主導することは、時間的余裕を失ったり、人に対して攻撃的になったりしやすい環境です。仕事の合間に、時間的な余裕を取り戻すことはとても大事です。そのための一つの方法として、自分の中の基準枠を超えた広大さを知覚すること、例えば、雄大な自然の風景を見て、畏敬の念を感じることなどはとても有効です。これについては、また別の記事で書きたいと思います。

参考文献:
・Sarasvathy, S. D.(2008)Effectuation: Elements of Entrepreneurial Expertise, Edward Elgar Publishing.
・Yan, L. L., Liu, K., Matthews, K. A., Daviglus, M. L., Ferguson, T. F., & Kiefe, C. I. (2003). Psychosocial factors and risk of hypertension: the Coronary Artery Risk Development in Young Adults (CARDIA) study. Jama, 290(16), 2138-2148

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