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企業のパーパスと社員のクリエイティビティ

「パーパス」とは?


最近、企業に関連する用語として、「パーパス」という言葉を耳にした事がある人も多いのではないでしょうか。これは英語の「Purpose」をカタカナ表記したもので、文字通りの意味は「目的」になりますが、経営学の文脈では、その会社の「存在理由」というニュアンスになります。つまり、企業は「何のために存在するのか」ということですね。

企業は自社のパーパスを言葉にして対外的に示すことで、世間一般、そして、株主、顧客、取引先などのいわゆるステークホルダー、さらにはそこで働く社員からの支持を獲得できるというメリットがあります。また、優秀な人材を惹きつけるためにも有用でしょう。

「人はパンのみに生きるにあらず」という言葉(『新約聖書』に出てくるイエス・キリストの言葉)があります。これは、「人間が生きていくためには、物質的満足だけでなく精神的満足、充実も大切である」という意味ですが、日々膨大な時間を仕事に費やしている社員にとって、「何のために働いているのか?」という問いはとても重要です。そして、ミレニアム世代(1981年から1996年の間に生まれ、2000年代に社会人になった世代)ほど、その会社で何を達成できるか、そして、その組織の存在理由に共感できるかを重視していると言われています。*

フェイスブック(現メタ)の創業者、マーク・ザッカーバーグ氏はミレニアム世代の代表的な経営者ですが、2017年の母校ハーバード大学の卒業式での祝辞で、「僕たちの世代にとって大切な課題は、誰もが人生の中で、自らのパーパスを持てる世界を創り出すこと」だと述べています。

SONYのパーパスと社員に求めるクリエイティビティ


私は90年代後半、社会人生活をソニー(現ソニーグループ)でスタートしました。当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだったソニーですが、私が就職先に選んだ理由は、「グローバル」と「クリエイティビティ」というイメージ、そして、「テクノロジー×エンタメ」という事業内容に惹かれたからです。そして、ソニーに在籍した約10年間で、エレキ&エンタメのビジネスを通じて、クリエイティビティの大切さを学び、ベンチャーを起業する道に進みました。

一時期、業績が低迷したソニーですが、現在は再び好調を取り戻し、明確なパーパスを掲げています。そのソニーのパーパスは、以下の通りです。

   『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。』

私はこのパーパスをとても気に入っています。なぜなら、ソニーが最も大事にしていることをシンプルに力強く表現していると感じるからです。先日(2022年11月9日付)の日経新聞*で、ソニーグループ会長兼社長の吉田さんのインタビュー記事が掲載されていたので、引用します。

「逆風の経営環境下で最も重要なことは社員一人一人が自立してクリエイティビティ(創造性)を発揮することだ。

ソニーグループの経営におけるキーワードもクリエイティビティである。当社のパーパス(存在意義)は『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。』だ。このパーパスは社員の自立やクリエイティビティの基盤となる。

出典:日経新聞朝刊 2022年11月9日

ここでは、社員が自立してクリエイティビティ(創造性)を発揮することの重要性が述べられていますが、日々の小さなクリエイティビティの積み重ねが、私たちの幸福度(ウェルビーイング)を高めるのにとても効果的であることが多くの研究から明らかになっています(詳しくは、「日々の小さなクリエイティビティで幸福度アップ」をご覧ください)。私は、日々の小さなクリエイティビティはメンタル不調を回避する最大の予防策にもなり得ると考えています。

鎌倉にある面白法人カヤックのユニークな経営理念

 
鎌倉にとてもユニークなIT企業があります。その名も「面白法人カヤック」(正式には、株式会社カヤック)。私の実家も鎌倉なのでご縁があり、訪問させていただいた事がありますが、その経営理念がとても素晴らしいので紹介します。

  『つくる人を増やす』

とてもシンプルですが、ここに込められた意味がとても奥深いのです。カヤックさんのホームページから引用させていただくと、こういうことです*。

『「世の中を面白くしたり、みんなが面白く生きるために貢献する」ことがカヤックが存在する目的。それを実現するために「つくる人を増やす」という方法をとる。』

  • つくる側になることは、主体性をもつということ。

  • つくることは、自分を見つめること。

  • つくることは、誰かに与えること。

さらに、こうも言っています。

『アイデアいっぱいの人は深刻化しない。
人は行き詰まっている時、「もはや打つ手がない」と思っているものです。
そして打つ手がないと思うから、深刻になってしまうのです。
打つ手がないと思ったら、実現不可能でもよいから、まずはたくさんアイデアを出してみるのです。アイデアを出すということは、視点を変えるということでもあります。あるものを別の視点から見てみると、ひどく滑稽だったり、面白かったりします。そして、たくさんのアイデアを出していくうちに、心に余裕が生まれれば、必ず活路は見いだせます。』

どうでしょうか?

クリエイティビティがメンタル・マネジメントの鍵を握るということがとてもわかりやすく表現されていますよね。

参考文献:
*日経新聞朝刊. 2022.11.9
*斎藤三希子. (2021). パーパス・ブランディング. 宣伝会議.p.26-33
*株式会社カヤックホームページ https://www.kayac.com/vision/vision
・Acar, S., Tadik, H., Myers, D., Van der Sman, C., & Uysal, R. (2021). Creativity and Well‐being: A Meta‐analysis. The Journal of Creative Behavior, 55(3), 738-751.

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