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自然の中でメンタルを整え、クリエイティビティを解き放つ

森林浴でメンタルを整え、活性度を上げる


森林浴
とは、森林に入って清浄な空気を呼吸し、その香気を浴びて心身の健康を図ることと定義されますが、これは日本発の言葉で、1982年、時の林野庁長官 秋山智英氏が「温泉浴」「海水浴」「日光浴」などになぞらえて考案した言葉です*。

私たちの会社(WINフロンティア)でも、森林セラピー®︎*の効果を、ウェアラブルセンサを使って測定する取り組みを10年近く行っており、森の中を歩くことで自律神経のバランスが整い、心身に良い影響があることが確かめられていますが、ここでは、森林浴の心理的効果を調べた京都大学の研究をご紹介します。

この研究では、498人の日本人(平均年齢56.2歳)を対象に、森林浴を行う日と日常の1日における、参加者の敵意、抑うつ、退屈、親しみ、幸福感、活気などを質問紙で調査し、分析しました。(森林の平均滞在時間は2時間20分、平均歩行距離は5.7kmでした)。

結果は、森林浴を行った日は、日常の1日と比べて、敵対、抑うつが減少し、活気が向上する効果がみられました。特に、注目すべきは、運動をした日や自分の好きな活動をした日よりも、森林浴をした日の方が、上述の心理的効果が高かったのです。また、森林における滞在時間は効果に影響を与えませんでした。つまり、少し森林を歩くだけでも効果が見込めることがわかったのです。さらに、森林浴は、普段からストレスが高い人により効果的であることもわかりました。

自然環境はクリエイティビティを高める


私たちは普段、様々なデジタル機器に囲まれて生活しており、都市部に暮らしている人は特に、自然環境に接する時間はとても限られています。しかし、人類の進化の過程から、私たちは自然に接すると心身に様々な良い影響があることが多くの研究で明らかになっています。そして、それは創造性(クリエイティビティ)にも当てはまるようです。

アメリカのカンザス大学心理学部のルース・アン・アッチリー博士らは、56人の成人(平均年齢28歳)を対象に、自然環境の中にいると創造性(クリエイティビティ)が向上するか、実験を行いました。

実験の参加者は4日間、アメリカの大自然の中でデジタル機器を一切使わずに過ごすように指示されました。参加者は2つのグループに分けられ、1つのグループは、大自然で過ごすに、創造性(クリエイティビティ)を測定するテスト(3つの単語から連想される1単語を回答するテスト)を受け、もう1つのグループは、大自然での4日目の朝に同じテストを受けました。

テストのスコアを分析した結果、大自然での4日目の朝にテストを受けたグループの方が、大自然で過ごす前にテストを受けたグループよりも、創造性のスコアが50%も高いことが明らかになりました。これは、大自然で過ごすことで、私たちの注意資源が回復し詳しくは、「自然による注意資源の回復」をご覧ください、1つの対象ではなく、いろいろな対象に注意を向けることができるようになり、発想力が高まったためと考えられます。

この研究のユニークなところは、自然から戻った後ではなく、自然環境にどっぷり浸かった状態で創造性のスコアが上がることを明らかにしたことです。自然の中で社員研修を行う事例などもありますが、自然の中でクリエイティビティを磨く研修や新規事業のブレストなどを行うのはとても有効かもしれません。

屋内の観葉植物でも効果あり


窓から自然が見えることや、屋内に観葉植物を置くことは、ストレスの低減に有効であることが様々な研究で明らかになっていますが、台湾の国立中興大学園芸学部のチャン・チェンイェン博士らは、窓の有無窓から見える景色が自然か街か、そして、観葉植物の有無に関して、最もストレスや不安が低減されるのはどのパターンかを調べたところ、「窓有り」「窓からの景色が自然」、そして、「観葉植物有り」の時が、最もリラックスしており(脳波のα波の値が最も高く、交感神経活動が最も低い)、かつ、不安の度合いが最も低いことがわかりました。つまり、自然の見える窓があることに加え、観葉植物をオフィスに配置することで、リラックス効果をさらに増強できることが明らかになりました。

また、観葉植物はリラックス効果だけでなく、クリエイティビティを高める効果もあるようです。日本の文京学院大学人間学部の研究では、観葉植物を1.5メートル前方に置いた場合と、1.5メートル側方に置いた場合、そして、観葉植物を置かなかった場合で、創造性を要するタスクのパフォーマンスに違いがあるかを調査しました。

結果は、観葉植物を1.5メートル前方に置いたグループの男性は、創造性を要するタスクのパフォーマンスが、他のグループよりも有意に高いことが明らかになりました。観葉植物や窓から見える自然などは、創造性に必要な刺激をもたらし、アイデアを促進すると研究者らは考えています。また、前方に置かれる方が側方に置かれるよりも、完全に視界に入るため、より効果が高かったと考えられています。また、女性では差が出なかった理由として、女性は男性よりもタスクに集中する度合いが高く、あまり観葉植物を見ていなかったことが挙げられています。

以上をまとめると、直接自然に接することはストレスの低減とクリエイティビティの向上の両面から有効ですが、時間的に難しい場合は、オフィスに観葉植物を置くことで、類似の効果を得ることができるということですね。

参考文献:
*“森林浴の効果を科学する:千葉大学の宮崎良文教授”. 公益財団法人ニッポンドットコム (2018年4月23日).
*「森林セラピー」とは、医学的エビデンスを基礎とした森林の快適性増進効果・癒し効果等を、健康維持・増進等に活かしていくという、新たな取り組みの総称で、特定非営利活動法人 森林セラピーソサエティの登録商標です。
特定非営利活動法人 森林セラピーソサエティのHP: https://www.fo-society.jp
・Morita, E., Fukuda, S., Nagano, J., Hamajima, N., Yamamoto, H., Iwai, Y., ... & Shirakawa, T. J. P. H. (2007). Psychological effects of forest environments on healthy adults: Shinrin-yoku (forest-air bathing, walking) as a possible method of stress reduction. Public health, 121(1), 54-63.
・Atchley, R. A., Strayer, D. L., & Atchley, P. (2012). Creativity in the wild: Improving creative reasoning through immersion in natural settings. PloS one, 7(12), e51474.
・Chang, C. Y., & Chen, P. K. (2005). Human response to window views and indoor plants in the workplace. HortScience, 40(5), 1354-1359.
・Shibata, S., & Suzuki, N. (2002). Effects of the foliage plant on task performance and mood. Journal of environmental psychology, 22(3), 265-272.

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