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恋アス9話の天文シーンを元天文部のオタクが考察する

TVアニメ「恋する小惑星(恋アス)」の星空シーンや天文に関わるシーンを検証・解説する記事の第9弾です。まだ観ていない方にはネタバレとなる可能性があります。ご注意ください。

どのキャラクターにとっても、大きく話が動いた回でしたね。その分天文要素は脇役でしたが、それぞれ見ていきましょう。
また、OP・EDの映像が一部変わりましたので、その星空についても確認します。OP・EDは5話でも一度変わっているので、これで3種類登場したことになります

はじめに・おことわり

筆者は中学・高校・大学で8年間天文部に在籍し、現在も趣味として天体観望を行っています。一方で、地質・気象など地学の他分野については中学の授業レベルの知識しかなく、言及できません。ご了承ください。

ご紹介するアニメ中の表現が、現実と異なる場合もあり得ます。本記事の目的は考察を楽しんで頂くことで、アニメの間違いをあげつらうことではありませんのでご注意願います。また、本記事の考察内容に間違いを発見された場合は、コメント欄やTwitter(@kn1cht)までお知らせください。

これまでの考察記事は以下からお読みいただけます。

OP3

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© Quro・芳文社/星咲高校地学部

春→秋ときて、今度は夏の星空をバックにタイトルが出るようになりました。中央の三角形が夏の大三角ですね。こと座・はくちょう座・わし座を中心に、三角形の中には こぎつね座・や座、外側には いるか座やとかげ座なども描かれています。

桜先輩の惑星チョコ

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© Quro・芳文社/星咲高校地学部

Aパートの後半は、桜先輩が地学部員向けのチョコレートを作る話でした。完成品を見てみると、地球の絵柄が付いたものが含まれています(どうやって作ったんだろう……)。

惑星の形をしたチョコレートは、市販でもいくつか存在します。天文ファン界隈では、フランスのFOUCHER(フーシェ)が手掛けるOLYMPUS(オリンポス)が有名です。1粒1粒が惑星をイメージした見た目になっているほか、パッケージも毎年宇宙や惑星をモチーフにしたものになっています。

モンロー先輩の回想シーン

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© Quro・芳文社/星咲高校地学部

更に季節は進み、合格発表と卒業がやってきます。モンロー先輩の回想の中で、みらとあおが「星ナビ」を開いている様子も出てきました。これは、前回8話にも表紙が登場した「2017年10月号」です。
また、よく見ると、小惑星捜索の本『小惑星ハンター』も画面左に少し見えています。

「結構楽しかったわよね、部活」「うん…」

いよいよ卒業し、地学部を引退したモンロー先輩と桜先輩が帰宅するシーンです。向かっている方向にカシオペア座が、その反対側におおいぬ座が見えるので、2018年の3月ごろと考えると北西の方角に歩いていたことになります。

続いてベンチに座って会話するシーンでは、右斜め後ろにオリオン座とうさぎ座があります。これは南西の方角なので、ベンチは西を背にして設置されているのが分かります。この場面の元になったと考えられる本川越駅西口のベンチも、同じ方角なのがGoogleストリートビューで確認できます。

「天文好き同士の諍いか…おそらく…」

場面は変わって、あおの引っ越しのシーン。みさ姉が、みらあおのケンカの理由を「月ができた原因」だと(勝手に)解説しています。

月は地球にとって身近な衛星ですが、その形成の過程ははっきりしていません。最初に出てきた「ジャイアント・インパクト説」は、原始の地球と他の天体が衝突することで月ができたとする説です。次に出てきた「捕獲説」は、他の場所から来た天体が地球の引力で引き寄せられ、地球の周りを回る衛星となったとする説です。

月の成因の仮説の中では前者のジャイアント・インパクトが最有力で、近年のシミュレーションにより、その正確な過程も再現されてきています。

「低くて見えないけど、近くに水星もいるかも。先週なら一番見やすい時期だったんだけど……」「東方最大離角だよね」

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© Quro・芳文社/星咲高校地学部

引っ越しを終えたみらとあおが金星(あおの発言通り、水星は見えていません)を見ながら会話します。1話で電話越しに水星を見ていた頃からの、時間の移り変わりを感じさせるシーンでした。

みらの発言通り、2018年3月16日には水星が東方最大離角を迎えました。この前後の数日は、水星が西の夕空で高くのぼり、見つけやすくなります。

先週だと言っているので仮に3月23日だとすると、水星の高度は日没時点で12°くらいまで落ちてしまっていました。日没から30分くらい待たなければ水星が見やすい暗さにはならないので、それを住宅街で見つけるのは困難でしょう。

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2020年2月10日の東方最大離角を迎えた水星(筆者撮影)

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9話では、エンディング映像にも変化がありました。途中で映ったドームは、石垣島天文台の8m観測ドームです。内部には、口径105cmの「むりかぶし望遠鏡」が収められています。

その直後に現れる星空は、これまでとは異なり北極星(ポラリス)を中心とした北の空になっていました。短時間ですが、みらあおの頭上の北極星を中心に、東(画面右)から西(画面左)へ星空が回転する様子が見てとれます。

ケフェウス座からカシオペヤ座(桜先輩の左側に少し覗いている)にかけては、見事な天の川が描かれています。夏の天の川というと、夏の大三角からいて座・さそり座周辺に注目が集まりがちですが、北天にも天の川は続いているのです。写真に撮ると意外ときれいに写るので、ぜひチャレンジしてみてください。

まとめ・おわりに

いよいよストーリーは2年目に入っていきます。新たな生活を迎えたみらとあおが小惑星発見に向けどのような活動を展開するのか、期待したいところです。

アニメでは出なかったのですが、原作コミックにあった宇宙小ネタを最後に書いておきます。あおが「もしみらが自分のものを自由に持ち出したら…」と想像して悩むシーンです(引用したツイート3枚目)。

みらが「面白いね!」と言っている本『The Hitchhiker's Guide to the Galaxy(銀河ヒッチハイク・ガイド)』は、ダグラス・アダムスによる宇宙SF作品です。シリーズ中繰り返し登場する「人生、宇宙、すべての答えは42」という数字は各所でオマージュされ、例えばGoogleで「人生、宇宙、すべての答え」と検索すると電卓に42が表示されます。

恋アスでも何らかの形で42が登場するのかな……と思いながら3巻を眺めていたら、なんとこのコマが掲載されているのが42ページ目であることに気づいてしまいました。Quro先生が意図的にネタとして仕込んだのかどうかは分かりませんが、そうだとしたらすごいこだわりですね……。
(追記)Quro先生によると偶然の一致とのことです。それはそれでビックリですね。


本文の正しさの確認及び天体位置推定に関して慶應義塾大学 宇宙科学総合研究会(LYNCS)のmin氏にご協力頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。

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