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恋アス2話の天文シーンを元天文部のオタクが考察する

TVアニメ「恋する小惑星(恋アス)」の星空シーンや天文に関わるシーンを検証・解説する記事の第2弾です。まだ観ていない方にはネタバレとなる可能性があります。ご注意ください。

1話についてはこちら。沢山の方にご覧いただけて、大変嬉しいです。

1話の放送から数日経っても、様々な側面から活発な考察活動が続いていて、作品の盛り上がりを感じます。また、ビクセンさん星ナビさん、産総研さん、国土地理院さんなど名だたる公式アカウントからも言及がありましたね! ビクセンさん・星ナビさんからは、なんと考察の答え合わせをしていただけました。とてもありがたいです。

はじめに・おことわり

筆者は中学・高校・大学で8年間天文部に在籍し、現在も趣味として天体観望を行っています。一方で、地質・気象など地学の他分野については中学の授業レベルの知識しかなく、言及できません。ご了承ください。

ご紹介するアニメ中の表現が、現実と異なる場合もあり得ます。本記事の目的は考察を楽しんで頂くことで、アニメの間違いをあげつらうことではありませんのでご注意願います。また、本記事の考察内容に間違いを発見された場合は、コメント欄やTwitter(@kn1cht)までお知らせください。

新入生歓迎バーベキュー

まずはこのシーンの日時を確認しておきます。石集めが終わった後、夕方の星空全景が映るシーンを使いましょう。

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© Quro・芳文社/星咲高校地学部

画面中央付近に星が集まったような部分があります。これはプレアデス星団(すばる、M45)です。肉眼でも見える非常に有名な散開星団ですね。

すばるは、この後火星に望遠鏡を向けたシーンでも近くに登場するので、左に見える明るい天体は火星だと分かります。この場面をもとに2017年4月の火星の位置を調べれば、BBQの当日は4月22日ごろと推測できます(惑星の位置から日時を割り出す方法は省略します。前回の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください!)。

※ちなみに、前話のラスト(4月12~15日ごろ)で遠藤先生が「(BBQのため)来週末空けとくように」と発言したことからも、翌週末の4月22日がBBQ当日だと判断できます。

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© Quro・芳文社/星咲高校地学部(星座線・時間を追記)

時間帯は、星の高さの変化から判断して観望会の準備を始めたのが18時過ぎ、望遠鏡の準備ができたのが18時30分ごろでしょう。

「えっと…望遠鏡の使い方は…」

天体観望と聞けば、ほとんどの人が天体望遠鏡を思い浮かべることでしょう。個人で所有して持ち運ぶタイプから、天文台のドームに鎮座している巨大なタイプまで様々な望遠鏡があります。

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© Quro・芳文社/星咲高校地学部

ここで使われているのは、1話で部室に置かれていた「ビクセン ポルタ II A80Mf」です。「ポルタ II」は、架台といわれる望遠鏡を載せる部分のシリーズ名です。操作が簡単なので、入門者向けに最適です。

その後の「A80Mf」とは、鏡筒(レンズなどが入った望遠鏡の本体)の型番です。レンズの屈折を利用した、「屈折望遠鏡」と呼ばれる種類です(鏡の反射を利用した「反射望遠鏡」もあります)。「80」は対物レンズの口径が80 mmであること、「M」はマルチコーティングされたレンズであること、「f」は入門向けのfシリーズを示しています。

口径は、望遠鏡の性能を決める最も重要な数字です。口径が大きければ大きいほど光を集める性能が高く、天体をより鮮明に拡大できます。80 mmは初心者向けのサイズですが、それでも惑星の模様などを観察して楽しめます。

「導入はちょっとコツがいるものね~」

アニメ本編でも少し解説されていますが、天体導入は「①ファインダーで大まかに鏡筒を天体に向け、②鏡筒を覗きながら位置を正確に合わせる」という2段階を踏みます。ファインダーとは、望遠鏡そのものより倍率が低い(6倍など)サブの望遠鏡で、広い範囲が見えるようになっています。

モンロー先輩の動作を注意して見ていると、ファインダーの周りのねじを触っているのに気づきます。これは、鏡筒とファインダーの向きを正確に一致させる「ファインダー合わせ」という作業です。この作業を行うことで、ファインダーの十字線を使って目当ての天体を導入できます。

「導入や追尾を自動でしてくれる装置もあるけど…」

機械・電気の技術が進歩したことで、望遠鏡の導入・追尾が自動化されるようになってきました。自動で天体を導入することを「自動導入」、追尾することを「自動追尾」といいます(そのままですね……)。

自動追尾は、モーターを用いて一定速度で鏡筒を回転させる技術が必要です。自動導入はそれに加えて、現在の位置と時刻から目的の天体の位置を正確に割り出すソフトウェアも必要となります。従って、自動導入ができる装置の方が高価です。

イノ先輩が「20万…40万…望遠鏡の台だけで…?」と驚いていた通り、自動追尾・導入を行うにはそれなりに高価な架台が必要です。架台はただ望遠鏡を載せているだけでなく、天体導入の作業を担う大事な部品なのです。

ちなみに、モンロー先輩が持ってきた天文雑誌は1話でも出てきた「星ナビ」です。表紙から、2017年5月号なのが分かります(2話時点での最新号ですね)。

「段々見える星が増えてきたねー」

星座紹介です。ふたご座・うしかい座・しし座・北斗七星(おおぐま座)・おとめ座・かに座が登場します。

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このシーンの時間帯の全天(Stellarium 0.19.3より)

かに座が見られなくて桜先輩が悲しんでいましたが、ふたご座としし座の間にある星座です。中央にプレセペ星団(M44)という散開星団があるので、双眼鏡で見ると楽しい星座です(桜先輩に教えてあげたい……!

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かに座(2017年1月・筆者撮影)

「縞模様と点が見える!」「周りの点はガリレオ衛星よ」

ガリレオ衛星とは、その名の通りガリレオ=ガリレイが発見した4つの木星の衛星です。79個見つかっている木星の衛星の中でもひときわ大きいので、四大衛星とも呼ばれます。

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© Quro・芳文社/星咲高校地学部

しかし、四大衛星なのにアニメ本編では3つしか見えていません。これは、衛星それぞれが公転していて、木星に隠れて見えない時期があるからです。この公転の動きはかなり速く、たった数時間でかなり配置が変わってしまいます。
(1月11日追記:当初「自転」としていましたが、もちろん公転です。失礼致しました。)

2017年4月22日のガリレオ衛星の動きを見てみましょう。ちょうど19時ごろ、ガリレオ衛星の一つ「エウロパ」が木星の向こうに隠れてしまいました。桜先輩が望遠鏡を覗いた時には、上から「ガニメデ」「イオ」「カリスト」の3つが見えていたことになります。アニメでは望遠鏡の視野も正確に描かれていることが分かりますね。

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Stellarium 0.19.3より

「今日はね…こと座流星群が極大」「ほんと? 流れ星見えるかな!」

4月22日は、4月こと座流星群の極大日でした。こと座は夏の星座ですが(「あれがデネブアルタイルベガ」のベガがある星座ですね)、22時頃からは東の空から昇ってきます。出現数は1時間に5~10個程度と決して多くないですが、ずっと見ていればこの群の流星に出会えるかもしれません。

なお、本編では「こと座流星群」と呼ばれていますが「4月こと座流星群」が正式名称です。これは、国際天文学連合(IAU)の2009年の総会において決定された公式名称である「April Lyrids」を和訳したものです。

「それとベスタがふたご座近くにいる」

4月22日は、小惑星ベスタの東矩の日でもありました。「矩」とは外惑星の位置を表す用語の1つで、地球から見た時に惑星と太陽の角度が90度になることを指します。「東矩」の場合は太陽から東に90度離れていて、夕方太陽が沈むころ、南の空高くに昇ることになります。

残念ながら、この時のベスタは約8等星で、双眼鏡がないと探せません。

「こと座流星群ね。例年出現数は少なめらしいから、見られたのはラッキーかも」

極大時期に流星が流れても、それが必ず流星群に属する群流星であるとは限りません。流星群に属さない「散在流星」や他の流星群の群流星も流れることがあるからです。

流星群には、それぞれ「輻射点」という流星が(見かけ上)でてくる点が決まっており、その位置が名称の由来となっています。流星の流れた位置と方向を覚えておき、軌跡を逆にたどった先に輻射点があれば、その流星群の流星だと確定します。

アニメで描かれた流星についても確認しておきます。星座を結んでみると、りゅう座の中を北東から北に流れています。4月こと座流星群の輻射点は画面右側、こと座とヘルクレス座の境界あたりです。流星の流れたルートを逆にたどれば、ちゃんと4月こと座流星群の輻射点にたどり着きます。これで、この流星が確かに群流星であることが確認できました。

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© Quro・芳文社/星咲高校地学部(星座線・輻射点を追記)

「そういえば今日、満月だった」

場面は飛んで、KiraKira第1号を発行して温泉に来た地学部一行のシーンです。2017年4月の満月は11日に終わっているので、翌月の5月11日だと思われます。

(1月12日追記)満月の大きさとパースから月の仰角を求めると、「時刻はおよそ20:30頃」とのことです。さいたま清河寺温泉は25時まで営業しているとのことなので、問題ないですね。

「恋する小惑星」を検証してみた 第2話でHIROPONさんが指摘されている通り、真面目に月を描写しようとするととても小さくなります。月が綺麗だと思ってスマホで撮ろうとしても、全然良く映らないのは月が思いの外小さいからです。

まとめ・おわりに

望遠鏡も登場し、天体観望の描写も盛り上がってきました。相変わらずあおの天体や天文イベントに詳しい様子が分かりますが、モンロー先輩もそれに劣らず知識が豊富ですね。「星ナビ」に付箋が付いていたので、よほどしっかり読み込んでいるのだと思います。

本文の正しさの確認及び天体位置推定に関して慶應義塾大学 宇宙科学総合研究会(LYNCS)のmin氏にご協力頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。


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