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恋アス3話の天文シーンを元天文部のオタクが考察する

TVアニメ「恋する小惑星(恋アス)」の星空シーンや天文に関わるシーンを検証・解説する記事の第3弾です。まだ観ていない方にはネタバレとなる可能性があります。ご注意ください。

3話は天文要素少なめだったので執筆が楽でした。イノ先輩ありがとうございます。

はじめに・おことわり

筆者は中学・高校・大学で8年間天文部に在籍し、現在も趣味として天体観望を行っています。一方で、地質・気象など地学の他分野については中学の授業レベルの知識しかなく、言及できません。ご了承ください。

ご紹介するアニメ中の表現が、現実と異なる場合もあり得ます。本記事の目的は考察を楽しんで頂くことで、アニメの間違いをあげつらうことではありませんのでご注意願います。また、本記事の考察内容に間違いを発見された場合は、コメント欄やTwitter(@kn1cht)までお知らせください。

これまでの考察記事は以下からお読みいただけます。

「ジョンソン彗星…今月は5等級まで明るくなるみたい」

彗星は「ほうき星」とも呼ばれる、尾を引いた姿が特徴的な太陽系の天体です。肉眼で見える程に明るくなる彗星は壮大な眺めですが、めったに接近しません。とはいえ、アマチュアでも双眼鏡や望遠鏡で観測できる程度に明るくなる彗星は、それなりの頻度で現れます。

ジョンソン彗星(C/2015 V2)もその1つで、2017年6月12日に近日点通過(太陽に最も接近)して7等級まで明るくなりました。なお、検索すると表示されるWikipediaのジョンソン彗星(48P/Johnson)は、名前が同じだけで別の彗星です。発見者も、それぞれ別人のジョンソンさんです。

さて、天文に詳しい方は「5等級まで~」というセリフに違和感があったかもしれません。2017年5月ごろの時点で、ジョンソン彗星は7等級前後と予報されていたからです(『月刊天文ガイド』.Vol. 53,No. 6,2017年5月5日)。

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© Quro・芳文社/星咲高校地学部

あおが5等級と言った理由は、この場面で読んでいる『星空年鑑2017』の記述を見れば分かります。『星空年鑑』は、1年の天文イベントを紹介したムック本です。筆者が所有している2017年版を確認したところ、以下の記述が見つかりました。

そのため明るさは最も明るいときでも5等級前後と予想されており、観測には双眼鏡があったほうがよいだろう。 (「4月 天文カレンダーと天文現象」.『星空年鑑2017』.p. 45)
C/2015 V2 ジョンソン彗星が、5等級台の明るさでうしかい座の中を移動中なので、見逃さないようにしたい。 (「5月 天文カレンダーと天文現象」.『星空年鑑2017』.p. 50)
双眼鏡を向ければ、すぐに彗星とわかる5等級の光芒を簡単にとらえられるだろう。 (「6月 天文カレンダーと天文現象」.『星空年鑑2017』.p. 56)

これは別に嘘を書いているのではなく、ジョンソン彗星が当初の予想ほど明るくならなかったことによります。彗星は惑星や小惑星などと違い、太陽に近づくにつれ尾が伸びるなどして大きく見た目が変わります。その活動の様子も彗星により個性があるため、正確な明るさを事前に当てることは難しいのです。

「5等…てことは、望遠鏡でも見える!?」「うん、私の双眼鏡でも見られると思う」

続きです。「6等星までは肉眼で見えるんだから、双眼鏡もいらないのでは?」と思われた方がいるかもしれませんが、彗星の等級は恒星のそれとは別物です。彗星はコマと呼ばれるガスや塵で覆われ、淡い光が広がった見た目をしています。ですから、光が一点に集まっている恒星より遥かに見つけづらいのです(えびなみつる .『星を見に行く 新装版』.p. 409)。

「他にもパンスターズ彗星とか、タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星とか」

2017年の前半は、いくつかの彗星が相次いで明るくなりました。あおが挙げたパンスターズ彗星(C/2015 ER61)・タットル・ジャコビニ・クレサーク周期彗星(41P)は、両方とも4月に6等級まで増光しています。

彗星には発見者の名前が命名されることは、1話の考察記事で述べました。より正確には、「発見者の名前が、発見・報告の早い順に最大で3名まで付けられ」ることになっています(彗星 | 国立天文台(NAOJ) )。タットル・ジャコビニ・クレサーク周期彗星は、独立に3人の天文学者に発見されたためこの長い名前が付いているのですね。

前者のパンスターズ(PANSTARRS)彗星は、個人ではなくPan-STARRSというサーベイ観測プロジェクトによって発見されました。大学や研究機関によって行われる観測は大規模なもので、毎年大量の新天体を発見しています。「パンスターズ彗星」も1つではなく、数十個の彗星にこの名前が付いています。

ほしのゆめみ

あおが持っている『星空年鑑2017』ですが、この年の表紙には「planetarian」の登場キャラクターである「ほしのゆめみ」が掲載されています。planetarianはプラネタリウムを題材にしたゲーム作品で、2016年に「 planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜」「planetarian ~星の人~」がアニメ化されました。このアニメ化にもアストロアーツが全面協力しており、正確な星空が描写されました。

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残念ながらちょうど右下部分をあおが手で掴んでいるため隠れてしまっていますが、手を動かしたシーンを見ると、しっかりほしのゆめみの顔が写っていました。天文アニメ同士の夢のコラボですね。

真中アンタレス

テスト前日にアンタレスを見上げています。星空の位置関係から、2017年5月中旬ごろと思われます。

アンタレスは、さそり座で最も明るい恒星(α星)です。赤色をした星として有名で、同じく赤くて明るい天体である火星とよく対比されます。

アンタレスと火星は接近することがあり、赤い星同士の競演が楽しめます。ちょうど3話が放送された直後(1月18日未明)にも、5°未満まで接近して見える予定です。日の出前の南東の空低くに見えるので、早起きの方や徹夜の方は探してみてください。

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Stellarium 0.19.3より

「三日月って言うにはちょっと太すぎるよ~」「これだと月齢7くらい…」

一般的には細い月全般を「三日月」といいますが、正確な三日月の定義は「月齢が3のころの月」です。月齢とは、直前の新月からの経過日数を表す数字で、月齢3なら「新月から3日後」という意味になります。

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Stellarium 0.19.3より

月齢が3くらいになる、今月28日の月はこんな見た目です。一般的に想像する「三日月」よりかなり細いのではないでしょうか。ただし、こういったことを天文ファン以外のコミュニティで発言すると、鈴ちゃんが言っているとおり「めんどくさい人」と思われてしまうので注意が必要です。

まとめ・おわりに

予告を見て「今回は記事が短くて済むだろう」と思ったのですが、彗星関連で割と書くことがありましたね……。
別アニメの話題となってしまいますが、『星空年鑑2017』の表紙にも載った天文アニメ「 planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜」が、なんとYouTubeで全話無料配信中です。恋アスの感動冷めやらぬうちに、ぜひご覧ください!

本文の正しさの確認及び天体位置推定に関して慶應義塾大学 宇宙科学総合研究会(LYNCS)のmin氏にご協力頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。



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