『いのちの食卓』辰巳芳子
本書の著者は御年96歳の料理研究家、辰巳芳子先生。
私、このおばあちゃん、大好きなんですよね。
これまで数百冊単位で料理人や料理研究家のレシピ集や著作を読んできましたが、この辰巳芳子先生の書かれたものを上回るものに出合ったことがありません。
兎に角、生き様が半端ではありません。そして、とても恐いです。
料理本を読んでいて、襟を正し、正座して読まねばと思ったのは、今も昔も辰巳芳子先生だけですね。
その生き方が料理研究家というよりも、武士そのものであり、命をかけて料理と向き合っている姿勢がその料理、レシピ、著作の記述からビシビシ伝わりまくりです。
本書においても、辰巳先生の気骨の壮健さは満ち満ちており、老いて益々盛んとはこのことかと感じ入りました。
90歳を超えても、自宅で料理教室を続け、「崩食の時代をのりこえる」と家庭料理、伝統料理の大切さを世に伝え続けています。
本書は辰巳先生の考案してきた家庭料理のレシピだけでなく、料理の素材を作る生産者の紹介から、その素材への思い、そして、辰巳先生が提唱する「大豆100粒運動」への取り組みが綴られています。
「大豆100粒運動」とは食料自給率を高め、安心で安全な食品で食卓を満たしていこうという食育の一環で、日本の食料自給率が40%を切り、とくに大豆は輸入された遺伝子組み換えの大豆に頼り、このままでは日本の固有種がなくなってしまうと憂え、80歳を過ぎて辰巳先生が始めた運動となります。
辰巳先生は言います。
「私は、日本の輸入依存体質から解放されなければ、独立は果たせないと思っています。憲法問題を議論するのもいいけれど、やはりそういう具体的な立場から、日本の自由を奪い返さなければなりません」と。
初めて辰巳先生の著書を読んだ時から、感じたことですが、この方は現代の日本では稀となった国士ですね。
もうそれは、レシピの行間から滲みまくっています。
そして、その国士はこうも語ります
「料理をすることは、人を信じて、愛することです」
ここまで、乱れ、崩壊しまくった日本の食卓を目の当たりにしながらも、日本、そして日本人を今もなお、信じているのですね。
著書を読むたびに、その辰巳先生の思いに応えねばと思わずにはいられません。
我が家でも数年前より、大豆と麹を購入し、味噌を仕込むことを始めました。
本書、料理を通じた求道の書、啓蒙の書とも読めます。
多くの人が辰巳哲学を知り、辰巳先生がそのお母さまより受け継いだ日本の食文化の素晴らしさを伝承していくことを願ってやみません。
また、ふと思ったのですが、自分のライフワークである武術において、日々の鍛錬とは刀を振ったり、型稽古をするだけでなく、食こそがその稽古のできる身体を作る重要な礎であるということです。
それほどでもない料理の腕ですが、今後も武術同様、精進していきたいと思います。
「何を得るかじゃないのよ、何を捨てるか。何を捨てるかで残ったものの意味が決まる」(辰巳芳子)
人の世に熱あれ、人間(じんかん)に光りあれ。