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かくかくしかじか

「かくかくしかじか」東村アキコ 集英社 全5巻 

『美食探偵 明智五郎』『東京タラレバ娘』『海月姫』『偽装不倫』等、数々のヒット作を量産し、現在も続々とTVドラマ化もされている人気漫画家、東村アキコの自伝漫画が『かくかくしかじか』です。

宮崎県で生まれ育った作者が美大受験を志し、プロの漫画家となるまでの道程を描いた女性漫画家版「まんが道」といえるかもしれません。

そして、ここ数年の間に読んだ漫画の中では出色の作品で、東村アキコ作品の最高傑作ではないだろうかと個人的に思っています。

実はこの作品にはもう一人の主人公がいて、作者が美大受験のために高校時代に通っていた絵画教室の先生である日高健三氏その人です。

かなり強烈な個性をもった方で、その指導はスパルタの一言に尽きます。

教室の中では竹刀を持ち歩き、氏の厳格な指導方法・ルールのもと、皆、黙々とキャンバスに向かい、笑い声やおしゃべりなど立てることのできない、異様な空気が漂っていたとのことでした。

その容赦ない指導は、時には怒声が飛びかい、10歳に満たない子供から年金暮らしであろうお年寄りにまで、教室に通う老若男女問わず、一貫していたようでした。

氏は美大に行くことが出来なかったそうですが、その指導力は確かで、教室からは作者をはじめとして、数多く美大生を輩出しています。

また、氏の作品も後日、ネットで写真を確認したのですが、素晴らしく、ナマで一度、見てみたくなりました。

物語は作者と日高氏の出会いで始まり、別れで終わるのですが、読了後、なんともいえない余韻を残し、淚がじんわりと出てきたことを覚えています。

人生において、人と人とのかけがえのない結びつきというものは、どれだけあるのでしょうか?

親と子、男と女、友と友、様々な交わりがあると思うのですが、この師弟の交わりは作者の人生にとって、何事にも代えがたい関係ではなかったのではないかと、第三者の目からみても思えてなりませんでした。

師の教えは漫画の世界においても、作者の中で生きており、絵を描いている時は、その声がいつも聞こえてくるそうです。

氏の晩年、最期に残した言葉は読者の私にとっても忘れられない言葉となりました。

よろしければ、是非、一度、本書を手に取り、確認いただければと思います。

本書には記されておりませんでしたが、死を前にし、もうこれまでと思った日高氏は、寝床を離れ、正座、合掌し、そのままお亡くなりになられたそうです。

ある人は「覚悟の人だ」と語っておりました。

私も本当にそう思います。

ああ、書評を書いていたら、また、涙が出てきてしまいました。


『自分が強くならないと人に優しくできない』 小野田寛郎(元陸軍少尉)








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