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業務委託という働き方改革

前職でも現職でも、他社の話を聞く限りでも、SES(システムエンジニアリングサービス)を含む業務委託という形式で、社内で不足するリソースを確保する会社はかなり増えているように思える。

独立した専門家(弁護士、会計士、コンサル等)に依頼して、完全に対等なお付き合いしているタイプの業務委託は当然問題ないが「危ういな」と思うのは、社内にエンジニアやデザイナーなどを常駐させるタイプの業務委託である。

いわゆる偽装請負になりうる問題である。リスクをはらむ業務委託の形式は、大きく分けると2パターンある。

①会社間の業務委託契約による、常駐受託者がいる
②会社(自社)‐ 個人間の業務委託契約による、常駐受託者がいる

常駐していなければ、実質的に指揮命令がしづらく、裁量が与えられていると判断しやすいので、あまり問題にならない。常駐していることにより、現場から見ても、他の従業員との区別がつきづらく、従業員のような取扱いがされやすくなる。そして、彼らの事を「業務委託社員」という謎の肩書で呼ぶようなことが発生する。

仮に、指揮命令をしてしまっているなら、①の場合は「派遣」になるため派遣法等に基づいた対応が(主に派遣元の方で)必要だし、②の場合は「雇用」になるため、労基法等に基づく対応が必要になる。

請負の形式を取って成果物に応じた報酬を支払うのであればまだしも、準委任の形式を取り、時間給で報酬を支払う場合は、ますます派遣や雇用のにおいが漂う。

そういう形態なら法務としては派遣や雇用にしてくれと思うのだが、企業にとっては派遣や雇用に比べて、保険料の負担はないし、労働者に対する責任も圧倒的に低い上、契約も切りやすい。だから「業務委託」の形式は会社に好まれる。更に、昨今では一般的にも広まってきた「働き方」である以上、それっぽい業務委託契約を一概にNOとも言えない。

法務が啓蒙する事

法務としては、違法のラインを外していけるようヒアリングしつつ、啓蒙していくしかない。色々なガイドラインも出てきてはいるが「●●する(しない)のが適切だが、××をもって直ちに偽装請負と言えるものではない」みたいな奥歯にものが挟まったような注意事項が羅列されているものばかりなので、明確な線引きは難しい。最終的には社内で決めるしかない。

主に、以下のような啓蒙をすることが考えられる。

1. 指揮命令はしない
委託者には指揮命令権はありません。受託者の裁量のもとに、自由な方法で作業をさせるようにしてください。

2.勤怠管理はしない
いつ来ていつ帰るかは、基本的に常駐受託者の判断に任せてください。

3.常駐受託者の希望と反する契約形態にしない
アルバイトや社員で募集したにも関わらず、自社都合で一方的に業務委託として契約してはいけません。

実際のリスク

ガイドラインを決めたところで、1番大事な「指揮命令をしない」というところについては、なかなか形式的に判断できるものではなく、何をもって「指揮命令をしている」というのかは非常に難しい問題である。「これを作ってくれ」は業務の発注になるのでOK。だが、「これを、こういう手順で作ってくれ」「これを、このツールを使って作ってくれ」等は怪しいが、どこからが指揮命令なのかは、なかなか判別しがたい。これをこと細かに指導するというのは、なかなか骨が折れる作業である。そこまで頑張る価値はあるのだろうか。

主な罰則は以下の通り。

1.労働者派遣法 第二十四条の二
労働者派遣の役務の提供を受ける者は、派遣元事業主以外の労働者派遣事業を行う事業主から、労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。
⇒労働契約の申込みみなし(第四十条の六)、是正勧告・公表(第四十九条の二)
2.職業安定法 第四十四条
何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。
⇒一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する(第六十四条)
3.その他
労働基準法上の雇用が必要になり、保険料や残業代の遡及支払いが必要になることもあり得る。税務上の問題もあり得る。

こんな「働き方」が珍しくない昨今、これが発覚して実際に上記のような罰則を受けることは、どれだけあるのだろうか。

不当な扱いをされた業務受託者が、労基等に駆け込んで、労基の調査によって、違法行為が発覚する事があり得る。不満を持った従業員や元従業員からの通報で、過剰な残業や残業代未払いが発覚するということもよく聞く。

偽装請負であろうがなかろうが、これらの契約において、双方が契約を十分に理解し、納得していて、会社側が不当な取り扱いをせずに、正当な対価を払っていれば(それが難しいんだろうけど)、大きな問題にはならないだろう。

だから法務としては、ガイドラインを作成し啓蒙したり、業務委託契約の内容をしっかりチェックしたりすることで、社内の意識を上げていけば良い。ゴリゴリにチェックして、強引に適正化を促しても、実を結ぶとは思えない(隠されるようになる方が危ない)。

個人で働く業務受託者へ

改めて伝えておきたいのは、個人との業務委託契約(常駐)は、一般的に極めて会社側に有利であり、業務を受託する側は「個人事業主」として自己に責任がのしかかる。契約内容にもよるが、中途解約も柔軟にできるような内容になっていることも多い。

雇用や派遣になると規制が色々入ってくるので、あまりに不利な労働契約はいが、業務委託先は取引先であり対等な立場であるという前提に立つものであるため、契約書も会社に有利に作られていることが一般的なので要注意である。すべて丸のみにせず、時には契約交渉をすることも必要だろう。

転職活動における応募先の会社から「業務委託契約で良ければ…」と来たときは、雇用との根本的違いを理解の上、受諾してもらいたい。確かに柔軟な働き方ではあるのだが、極めて不安定であり、誰も守ってくれない。

自身が何らかの専門家として、フリーランスとして優秀であり、報酬も通常の雇用より明らかに稼げるように設定できる立場(お願いされる立場)であれば、何ら問題ない。更に、副業をしたかったり、契約期間きっかりで契約終了したかったり、会社に所属しないで生きていく独立志向が強ければ、むしろ望ましい働き方である。それはきっと、自身にあった働き方になるだろう。明らかにそういう人の方が強いし、そういう人に私もなりたい。

最後に

弊害は前述の通りであるが、合わなければ契約終了、相性が良ければ契約継続というのは、合理的で健全で自由な契約形態ではあるため、今後もますます広がっていくと見込まれる。この辺りをしっかり整備していくことが、真の働き方改革を実現することになるのではなかろうか。

余談

知人が転職したときの話だが、有給消化による入社日の遅れを解消するために、転職先からの申し出で、有給消化中の期間に、転職先と業務委託契約を締結したらしい。明らかな脱法行為に見えるが、巧みな手法だと感心した。
※私は有給を半分以上放棄したので私の話ではない。

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IT企業の法務兼内部監査室。 同じ会社の中で、カスタマーサポートのSV(5年)→ 内部監査室(1年半)→ 法務(3年)と経験。2019年10月に転職し、今は法務と内部監査の兼務。 IT法務周りの記事を思うがままに書きたいなーと思ってます。