二代前からの阪神ファン

突然だが、私は阪神タイガースのファンである。
出身は北海道札幌市。日ハムが札幌に拠点を置いたのは私が高校生の時だった。北海道では、日ハムが来る前は、巨人ファンが大多数だったように思う。

さて、そんな私が阪神ファンになったのは、私の父方の祖父が熱狂的な阪神ファンだったからである。

祖父の話をしよう。

祖父は北海道生まれ北海道育ちで、その生涯のほとんどを教員として過ごした。そして教員時代は野球の審判の資格を持っており、学生野球の審判を実際にしたこともあったそうだ。もっとも、私にあまりその話をすることはなかったが。

祖父は寡黙な人だった。とは言っても、威圧感のあるタイプというのではなく、比較的のほほんとしているのだが、特に話すことがなければ取り立てて会話をしようとはしないタイプの人間だった。

しかし、そんな祖父もある時になると、かなり多弁になる。
それはプロ野球中継である。

プロ野球中継、特に阪神タイガースの中継の際には本当にテレビの実況者かというくらいに話し出す。特に誰に話しかけるでもない。言わば独り言のカテゴリに属するものかもしれない。だが、その頻度は独り言を超えており、ほとんど一種のラジオと化していた。テレビ上の選手たちの一挙手一投足にコメントするのだ。今で言えば、ゲーム実況に近いイメージかもしれない。
選手がバッターボックスに入り、データが出れば、「このバッターは得点圏が強いからなあ」、三振をすれば「ああ~やられたなあ。ダメだったか」、タイムリーを打てば「おお、やっぱりたいしたもんだな」と言い拍手。

我が家は二世帯住宅であった。しかし、フロア別に分けている二世帯ではなく、同じフロアで生活していた。だから、ある程度音が聞こえてくることがあった。その主たる音が、拍手だった。

私の父も祖父の影響で阪神ファンだった。我が家はケーブルテレビを契約していたため、地上波でなくても阪神の試合はすべて見ることができた。父は自分のお気に入りの番組がない時には基本的に阪神戦を居間のテレビで流しており、晩酌をしながらそれをよく眺めた。

だからこそ、拍手が隣の部屋から聞こえてきた瞬間は、何が原因なのかはすぐにわかった。タイムリーやホームランの瞬間はよく拍手が聞こえてきたのだ。
居間で私と父が「入れ!!入れ!!」とホームラン級の当たりに対し声を出し、無事にスタンドインすると、廊下を挟んだ隣の部屋から拍手が聞こえてくる。一緒に見ればいいのにとも思うが、それは大人の事情もそれぞれあるのだろう。祖父・父・孫の三世代が一軒家で、二台のテレビで阪神タイガースを応援している美しい瞬間であった。


話は変わるが、札幌ドームに阪神が来る機会がまれにあった。その際は、祖父と父と三人で行ったこともあるし、祖父と二人で行ったこともある。バックネット裏の高級な席で、いわゆる応援というよりは観戦をしたという思い出である。試合に勝ったかどうかは覚えていないが、おそらく勝ったという記憶である。とはいえ、現地で野球を見ても、それほど楽しいという思い出はなかった。バックネット裏は皆が静かだし、何よりも私は投手がどのようにストライクを取るのかという事に最も興味があったため、それがわからない現地観戦の良さをほとんど見出すことができなかったのである。

そんなこともあり、今東京にいて、阪神戦を現地で観戦することができる環境になっても、私は現地観戦というよりも、野球中継を見ていることが多い。
とはいえ、現地には行きたくなるもの。先日東京に来て十数年、初めてプロ野球観戦をして、内野席でユニフォームを着て、実際に応援を体験しその楽しさを理解することができた。(試合は負けてしまったが。)

先程から言っている祖父は2017年に長生きの末に亡くなった。しかし、未だにタイムリーやホームランがあると、祖父の拍手が聞こえてくる気がするのである。

いつも、なんとなく二人で観戦しているような気分になって、なんとも言えない幸せな気持ちになる。自分が祖父の立場なら、これ以上ない喜びだろうと思う。

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