音楽著作権ビジネス
グローバル基準のspotifyやApple Musicといったサブスクリプション型の音楽配信が中心となる今日において、著作権ビジネスの現状や課題とともに、音楽出版社としての可能性を検討します。大学4回生
日本の特徴
まず、日本では長らくフィジカルが売れるパッケージ大国として、栄えてきました。世界がデジタルに移行しているときも、レコード会社のパワーやアイドルのマーケティング戦略、レンタルショップの存在により、フィジカルに固執している状態が続きました。そのため音楽配信の整備が進まなかったこともあり、海賊版の音楽アプリが先行して広まってしまいます。
しかし、TuneCore Japanの登場や著名アーティストのサブスク解禁によって、ようやく日本でもspotify型の音楽配信が一般的になってきました。
・原盤権利者と演奏家
原盤権を持つレコード会社としては、製造・流通コストのかからない配信でもCDの料率を当てはめる方がアーティストに払う使用料は減ります。アーティスト側としては、原盤権を持つレコード会社に第三者使用を適用し、あらかじめ取り決めていた料率で分配されることを期待します。
原盤印税再分配のシステムを開発している方によると、まだまだ日本ではデジタル配信の面でもCDの料率で分配している状況があるそうです。それは古い業界慣習や大手がやっているならウチでもという「長いものには巻かれろ」観によるものだといえます。
・著作権管理者
音楽出版社の役割はMPA(日本音楽出版社協会)の著作権契約書の統一フォームによると以下の通りです。
著作権管理だけでなく、楽曲のプロモーションが音楽出版社の主体であります。
日本の出版社において強い影響力をもつのはテレビ局系の出版社です。主要な音楽メディアがCDからデジタル配信に移り、それに伴って収益モデルが購入から利用へと変わり、新譜だけのプロモーションだけでなく、それまでの楽曲を含めて広めていくことが大切になりました。もちろん今でもテレビ局系が強みとするタイアップによるプロモーションの影響は大きいですが、いかに永続的に楽曲を聴いてもらえるかが収益を得るのに重要になりました。spotifyなどのデジタル配信が中心の今日において、タイアップによるプロモーションだけで8割方の責務は終わりといった出版社のあり方では、時代に合わなくなってきたのです。
日本と海外のギャップ
日本と海外の音楽出版権の業界慣習の違いがこの記事にわかりやすく説明されています。
加えて、海外では分業体制のようなコーライティングで制作されるケースが多いそうです。日本では、良くも悪くも輪を重んじる文化と合わなかったのかもしれません。一概にどちらがいいとは言えませんが、色んな楽曲のつくりかたを覚えておく方が賢い気がします。
しかし、作家にロイヤリティがきちんと分配される海外のエコシステムは見習うべきです。かつての日本のレコード会社に多く属していた作家やプロデューサーが出ていったのもエコシステムが整備されていなかったからではないでしょうか。
日本と海外のギャップがもう一つあります。許諾権と報酬請求権の適用場面の違いです。ざっくり説明すると、海外よりも日本の方がインターネットラジオやweb castingで音楽を流すのにいちいち許諾が必要になってくるということです。それは必ずしも権利者にとって良いことではありません。海外(アメリカ)では、無断で音楽を流せる代わりに権利者に使用料を分配するエコシステムが整っているのです。日本のようにいちいち許諾が必要になってくると音楽の使用の機会が減る可能性があります。
世界共通の課題
今、世界共通の課題があります。原盤権者と著作権者の不均衡問題です。それが以下の書籍に詳しく書かれています。
この書籍では大きく分けて2つの角度の原盤権使用料、実演使用料、著作権使用料に関する不均衡問題あると説明されています。
1つ目は、原盤が地上波ラジオ、サイマル放送、Pandra型、Spotify型でそれぞれで利用されたときの使用料が大きく異なる点です。
2つ目は、著作権者と原盤権者の不均衡です。SpotifyやPandraといったサービスでは、著作権者が得る使用料は約3.5〜7.7%であるのに対し、原盤権者が得る使用料は約50%にもなります。
よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編より
これは原盤権者が直接、配信事業者と交渉して、使用率を設定できますが、著作権は、著作権管理事業者によって使用率が規定され、原則その規定により使用料が分配されることになっています。
今、世界では著作権使用料を巡る議論がなされています。
ただ単に、配信事業者と著作権者が争うという構造ではなく、原盤権者も含めて、配信事業者が得た100%の収益から、それぞれの権利者に分配される正当な料率を巡って議論されているのです。
そのような流れの中で、音楽出版社の果たす役割が再確認されつつあります。
こうした中、今年2月に米国の著作権使用料委員(Copyright Royalty Board)が新たに制定した、音楽ストリーミングサービスが支払う作曲家へのロイヤリティ分配率を今後5年で44%まで引き上げる決定がなされ、配信事業者との間で闘いが起きています。
音楽出版社は著作権管理事業者を通さない配信事業者との自由交渉によって、著作権使用料を得ようとする動きが出てきました。
ヨーロッパの方では、そうした動きを察知した著作権管理事業者は著作権使用料を見直すことを決定しました。
グローバル視点で音楽出版社として参入していくには、従来の日本のやり方では合わなくなっっていることが分かります。では、海外と日本のギャップ、世界共通の課題を前にどのように著作権ビジネスを展開すればいいのか考えていきたいと思います。
さらに
アメリカやイギリスの音楽出版社のサイトをみてみると、出版社の枠組みを超えて、ディストリビューションやマーケティング分析、クリエイティブ面でのサポートなど多岐にわたる機能を備えていることがほとんどでした。
日本の既存のサービスでいうと、FRIENDSHIP.がそれを表していると思います。
レーベルや音楽配信事業者、クリエイターとの関わりの中で、グローバルな視点の音楽出版社としてどうすればエコシステムを構築できるのでしょうか。
アイディアの種
・ブロックチェーン
・インタラクティブ配信に特化した著作権管理事業者を通さない管理
・アメリカやヨーロッパでの管理
・音楽出版社の機能を備えたクリエイティブ団体
*ブロックチェーン
ソニーやJASRACなどでブロックチェーンを導入する動きがあります。まだまだ実証段階ですが、実用化できれば、業界に新たなプラットフォームができそうです。
ブロックチェーンをある1社が導入すれば、機能するものではなく、業界全体で足並みを揃えて取り組まないといけないシステムです。
さきほど不均衡問題に触れましたが、音楽配信事業者、レーベル、音楽出版社それぞれが自らの権利ばかりを考え保身に走ろうとせず、株式会社音楽業界としてどの立場の人も全体的な視点で考えなければ、それぞれが持つ権利のパワーゲームになってしまいます。
ブロックチェーンの導入によって、効率化・透明性とともに、お互いを監視でき、テレビ局やイベンター、グッズを含む制作会社など音楽に関わる全ての分野とのスムーズな連携により、しっかり権利者にロイヤリティが分配されるエコシステムが構築されます。
この書籍によると、まだまだ実用化には技術的な問題を多数抱えているそうですが、ブロックチェーンによる可能性を示してくれています。
*インタラクティブ配信に特化した著作権管理事業者を通さない管理
日本では、音楽のデジタル化が何周も遅れているせいか、さきほどの不均衡問題に対して問題意識が薄いように感じます。このままの状態が続くと、海外が決められたルールに従うだけでイニシアティブをもって行動することがますます難しくなります。世界とのギャップに対して、日本の法律や規定の中でできることを模索しなければなりません。
日本でも音楽出版社はインタラクティブ配信に関して自ら管理できれば、著作権管理事業者を通さない分、手数料は引かれないし、音楽配信事業者と自由交渉できます。しかし、配信事業者との交渉するうえで、力のあるキーパーソンがいない限り1音楽出版社の交渉力では、かえって分配される使用料率が下がるかもしれません。
そこでMerlinのように配信事業者に対して強い交渉力のもたない音楽出版社やMPA(日本音楽出版社協会)が集まることで、インディーズ団体として、強い交渉力を得ることができるのではないでしょうか。
*アメリカやヨーロッパでの管理
世界の著作権使用料率を見直す動向を受けて、そのまま世界で出版ビジネスした方が、日本の遅い変化を待つよりも賢いのかなと感じました。これは世界へ出ていくことのみに価値を見出したアイディアの種です。
*音楽出版社の機能を備えたクリエイティブ団体
音楽の歴史を振り返り、映画やゲーム、MVなど音楽×〇〇でより音楽が活性してきました。さらに何かムーブメントが起きるときはいつも人が集まっています。
音楽作家に限らず、あらゆるクリエイターのクリエイティブを持ち寄って、創造できるプラットフォームがあります。
ムーブメントを起こすクリエイティブ団体がハブとなり、クリエイターが創造できる機会をつくり、表現されたものを文化としてディストリビューション、プロモーションを行います。そこで生み出されたクリエイターの権利を管理し、しっかり権利者に還元するエコシステムが必要です。
クリエイターの創造力がすぐにわかるようにカタログを整えることも音楽出版社の重要な責務の一つになってくるのかもしれません。
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