とある映画の感想文
まだまだ残暑が抜けない彼岸前の夜。徒然に映画を観ようとアマプラを開いたところ―――
以前Xで告知を見かけて、とても気になっていた作品が目に留まりました。
ついさっき、ノンストップで観終わったのですが・・・
うまく言葉が出ない。
興奮しているわけではないんですが、感情も思考もぐるぐる回るばかりで整理できない。
さながら鈍器で後頭部を強打され、脳震盪を起こしたような・・・
これまで少なくとも数百本くらいの映画を観てきましたが、掛け値なしにインパクトの強さはトップクラスでした。
2024年6月公開。
実話をベースにしたお話です。
2020年春、とある新聞に掲載された小さな三面記事。
遠いようでいて、その実とても身近にある「現実」を思い知らされた気がしました。
作品のあらすじなどは公式サイトから引用させていただきます。
辛い、悲しい、寂しい、という感情。
だから薬物に頼って現実逃避。
家族の生活を支える義務感。
毒親との共依存。
小学校途中からずっと不登校。
年齢不相応なほど少ない知識と経験。
お金を得る方法は売春。
無限ループ。
乏しい表情。
虚ろな眼。
わかりやすい「不幸」を寄せて煮詰めたような。
これだけを読むと「ああ、可哀想に」という言葉がすぐ出るんですが・・・
本人は可哀想だと思っていない様子なんですよね。
生まれたときからそういう境遇しか経験していないのだから。杏にとってそれは「日常」であり「当たり前」。
それゆえに、不思議な感覚ですが「非日常感」を感じさせません。
あらすじにある通り、そこに救いの手が差し伸べられたことをきっかけに立ち直っていく杏。悪辣な毒親の元で育ったにも関わらず、ひたむきで優しく、弱いものを慈しむ性格であることが伝わってきます。
新しい「日常」を得て生き生きと、楽しそうに過ごす杏。
何を以て「まともな人格」の基準とするかはさておき・・・杏は決して特異な人格ではないのです。
そんな杏が辿った結末は、とてもいたたまれないものでした。
・・・何でしょうね。
私は常々、「人間の心はとても弱いものだ」と感じています。もちろん自分の心も弱い。
仮に、私が杏と同じ境遇にあったとして―――
あんなに優しく、
あんなに真摯に、
あんなにまばゆく、
生きられる自信はまったくありません。
杏のような境遇にある人々は、現在進行形で、日本中に、世界中に、めちゃくちゃたくさん居ます。
スポットを当てれば、彼ら彼女ら一人ひとりの人生があり、生活があり、感情があります。
解決策はわかりません。
どれほどの資金、人数、時間をかけても根本的な解決を図ることは困難なように思います。
それでもセーフティネットは間違いなく必要でしょう。
人はみんな弱いからこそ、人との繋がりや支え合いがあれば少し強くなれる気がします。
普段は目に入っていない残酷な現実に対して、
今の自分に何ができるかと問われても答えに窮するのが率直なところなのですが―――
とりあえず今は、『あんのこと』を心に刻んでおきます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?