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あえてキャリアをリセットして地に足をつける

 2016年9月に僕は新卒で入ったIT企業を辞めて農家になった。その判断は結果的に言えば良かったと思う。良かった理由は上げればキリがなく、移住とセットだったので色んな要素が絡んでいるのだけど、今回は少しキャリアっぽい話をしようかなと。

 それまではIT企業でクラウドシステムの法人営業をやっていて、それなりのやりがいや楽しさもありましたが、一度うつ病になって休んで以降、何となく「この仕事をずっと続けてよいものなのか?」とくすぶった状態が続いていました。だから仕事への熱量も中途半端な感じで、新卒からの3年半を過ごすことに。

 新卒への研修や教育体制はしっかりしていて、社会人としてのイロハを教えてもらったり、現場でしか経験できないこともたくさん積ませてもらいました。と、当時は感じていたけど今振り返るとそれらが自分の血肉になっていたかというと、疑問です。

 僕はIT企業を辞めてから、農家になりました。農家になるまでの間に少し時間もあったので、酒蔵で日本酒づくりのバイトをしたり、日雇い派遣の仕事をしたりと、現場にゴリゴリ出てその日その日にやることを完遂していく仕事。それまではいわゆるホワイトカラーの仕事だったので一昼夜で完遂できる仕事はほぼありませんでした。

 ホワイトカラーの仕事から現場仕事を経験した時、何となくホワイトカラー時代に教えられたことが、現場仕事を経験することで自分の血と肉となるくらい、理解が浸透したなと。具体的にどんなことがあったか、3つくらい挙げられます。

 1つ目は、終わらせることの重要性。時間は限られているから終わらせないとアカンと、散々色んな人から怒られた新人時代もあり、こればっかりは分かっているつもりでしたが、現場仕事ではこれを身体で覚えさせられました。

 例えば酒蔵で日本酒づくりの仕事をしている時、お米を洗う作業をしていたのですが、僕が米を洗い終わらないと次の行程に他の人が進めません。もちろん待っているのは先輩や杜氏さんなので、無駄な時間を過ごさせる訳もいかず、急いでやります。もちろんテキトーに済ませるのではなく丁寧さも兼ね備えながら迅速に。ある程度のプレッシャーを感じながらも1時間ほどの仕事を完遂させて、次に繋げる。

 現場仕事だとその日のやることの中に、こういった事象がいくつも発生するので、時にはプレッシャーを感じながら終わらせ、時には汗水垂らしながら終わらせるという事を身体で覚えます。これができることで、感謝もされるし自分の中にちょっとした達成感も生まれます。

 もちろん、スピーディーに事業を回す為にとりあえず終わらせる事が大事、という考えもありますが終わらせることの本質を学んだ経験でした。

 2つ目は、仕事では信頼関係が大事だということ。これもむっちゃ当たり前ですが、新卒時代は関わる人が多すぎて正直ぼやっとしていましたが、現場仕事になると如実にこれが大事だと分かりました。

 例えば農業で重たいものを運ぶ時に何人かで協力しながら運びます。この時に危険がないように細かく状況を指示しながら運んだり、息を合わせて持ち上げたり、ちょっとしたコミュニケーションですが信頼関係があると、こういった共同作業がスムーズに進む。何となくイメージできますよね?

 ホワイトカラーでいう信頼関係はチームで成果を上げる為であったり、お客さんとの関係性をつくって売上に貢献するようなイメージですが、現場仕事だと信頼関係がないと危険が伴ったり、下手すりゃ怪我をしちゃうので本当に信頼関係を築いて仕事をすることが大事。

 だから、普段の挨拶であったり、何気ないコミュニケーションが大切なんだなと思い知らされました。

 3つ目は、自分の長所。先ほども書きましたが、ホワイトカラーは中長期スパンで仕事をすることが多く、成果であったり自らの貢献が分かりづらかったりします。一方で現場はその日、その時間内にやるべきことを完遂させて1日を終えます。だから、自分は何ができて何ができなかったのがハッキリするんですね。

 僕の場合は、手先が少し器用だったり掃除が好きだったので、酒蔵で働いていた時は先輩よりも早く丁寧に仕込み器具の清掃を終えることができたり、1日段取りからボトルネックになりそうな行程から逆算して動いていたので先輩から「井上くんがいるから助かる」と褒めてもらえたりとか。

 ものすごく単純なことだけど、現場で具体的な仕事をして評価されたことを振り返って整理し、当たり前のようできることだと認識しながら抽象化させていくことで自分の長所が如実に見えてきます。

 ホワイトカラーだと成果も見えにくかったり、中長期で動くので、結局自分は何をしていて、どんなスキルが身に付いていたのか、実感を得にくかったなと。特に僕は仕事できる新卒じゃなかったので、尚更だったかな。

 上記のような3つは例えばの話ですが、他にも現場仕事で動き回ることで、体力や筋力が付いて健康的な身体になったり、パフォーマンスが安定したりと良いことはたくさんありました。現場仕事だからこそ、好きな仕事に熱中する自分も発見できたので、スキルも自分の特性も地に足がついた感覚。

 結果論にはなりますが、僕はキャリアをホワイトカラーから現場仕事へリセットしたことで、自分のスキルや長所に改めて気づくことができました。もちろん、これが正しいキャリア形成だとは思ってもいませんが、都市部での働き方にモヤモヤしていたり、自分のスキルや特性がしっくりきていない人にとっては良いんじゃないかな。

 そんな場を京丹後市で仲間と一緒にいま作ろうとしていて、文脈は少し異なりますが、色んな現場仕事ができる組合を立ち上げました。先日、取材された新聞記事はこちら↓

  自分の経験を活かしながら、京丹後の為に何かできることはないかなと、個人的にもやりがいと面白さを感じながらできている仕事です。まだ組合としての情報発信は弱いですが、個人的な思いや公式なリリース情報もこの場で発信していけたらなと思ってます。

 あえてのリセット、考えてみてはどうでしょうね。

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