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ブックレビュー「統計学が見つけた野球の真理」

3月にレビューした「アメリカン・ベースボール革命 データテクノロジーが野球の常識を変える」はベースボール界の従来の規範にこだわらなかった人達("Unconformist")が統計データを使っていかに良い選手を育てたかについてフォーカスした本だったが、今回の本書は選手のプレーをいかに適正に評価するのかにフォーカスした本だ。

その意味では本書の目線は”Moneyball”時代に近いスタンスのように思うが、科学系の書籍が特色のブルーバックスらしく、統計算出データの意味や算出方法の変遷にまで踏み込んでおり、データマニアにとってはこちらの方が面白いだろう。

例えば守備指標として守備率(刺殺+補殺/刺殺+補殺+失策)があるが、これが高いからと言って「守備能力の高さ」を示すとは限らない。なぜならば「守備範囲の広さ」が考慮されていないからだ。

守備範囲が広く、届くか届かないかの際どい打球への捕球を試みて失敗した場合守備率は下がり、逆に打球への捕球動作を行うことなく打球をヒットとして記録された方が守備率は上がる。このため新たに考案されたのがRF(Range Factor=刺殺+補殺/守備イニングX9)。

しかしこれでも「守備範囲」や「打球の質」が考慮に入れられていない。そこで開発されたのがZR(Zone Rating=受け持ちのゾーンでの打球処理数+ゾーン外での処理数/受け持ちのゾーンの打球総数)。

しかしこのZRでもソーン内に飛んできた打球の処理の難易度の影響や守備範囲を超えて処理したファインプレーなどが考慮されていない。そこで2001年にUZR(Ultimate Zone Rating=守備範囲+失策をしない能力+併殺奪取能力+肩の力)が提案された。

それでもUZRは守備のポジショニングやグラウンドの形状、守備プレーに至るまでの過程などが考慮に入っていないため「守備の巧拙」というよりは」守備プレーの結果、どれだけの失点を防ぐことができたか」を評価する指標だと言われている。

本書では他にも打撃の指標、投手の指標、チームの指標、パークファクター(スタジアムの影響)、走塁の指標とその変遷が紹介されている。また未解決問題として「勝負強さ」を評価する指標や捕手の評価が挙げられているのも興味深い。

さらには大谷翔平の二刀流を打者と比較するための指標として「WAR」(Wins Above Replacements、「どの選手と同じ出場機会分を最小のコストで代替可能な控え選手が出場した場合に比べて、どれだけチームの勝利数を増やしたか」)が紹介されている。

二刀流の場合は野手としてのWARと投手としてのWARを合計して算出され大谷翔平の2021の数値は8.1で、これは同シーズンのメジャーリーガーの中では最も高かった。このため筆者は昨シーズンの大谷翔平のMVPはセイバーメトリクスの点からも妥当だとしている。

ところが今2022年シーズンはヤンキーズのアーロン・ジャッジのWARが何と9.0で、大谷翔平は昨年同様8.1。もちろんWARのみで決まる訳では無いが、果たして今年のMVPがどちらになるのか。そういった中WARが十分大谷翔平の活躍を表しているのかとの議論も次の記事のように行われているようだ。

こういった旬の話題をしっかり理解する意味でも本書は有効だと思う。





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