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無人島レコード選び(今のところ...2020/08/08)

昨年まで月1-2回は音楽ライブを見に行っていた音楽愛好家仲間がいる。コロナ自粛で彼らとなかなか会う機会が無いため、代替策としてオンライン飲み会をやるのだが、次回は月並みではあるが「無人島レコード」を10曲選んで持ち込もう、ということになった。

ご存じ「無人島レコード」というコンセプトの歴史は古くて、英国営放送BBCの”Desrt Island Discs”というラジオ番組の始まりは1942年にまで遡る。各ゲストが、もし無人島に流されたら、という前提で8曲持っていきたい音楽と一冊の本(聖書とシェイクスピア以外)と一つの贅沢品を選ぶ、というのがこの番組での公式ルールだ。

またレコードコレクターズの別冊でも無人島レコードという本が二冊発売されていて(註:この本の編集者の野地祐子さん=萩原健太夫人)、ここでのルールは無人島に持っていくレコードを一枚だけ選ぶというもの(アナログ、CD、カセット、SP、アルバム、シングルどれでもOK。ただし二枚組アルバムの場合はどちらか一枚のみ)。執筆者はミュージシャンや評論家など多種多様だが、多くの人が一枚だけとは酷だ、と言っている。中には楽器弾きだから楽器を持ち込んだ方が良い、という人たちまでいる。

ということで、今回の飲み会では「無人島に持っていきたいレコード」をシンプルに10曲選ぶことにした。選択は曲単位を基本とするが、アルバムすべて捨て曲無しという場合はアルバム単位でもOKとした。

とは言っても10曲選ぶのは一枚選ぶよりはマシだが、それほど簡単なことでは無い。私自身も当然10曲に絞るとなると簡単では無いので、まずは選択する一定の基準を作ることにした。

まず無人島という環境下で聴くことが想像できないものは外すことにした。例えばキングクリムゾンの”Red"ジェームステイラーの”You've Got a Friend"。南の島の青い空の下で、スピードメーターのピークゾーンを超えるような”Red"にはまるのは怖いものがあるし、友達が近くにいないのに「いつでも駆け付けてあげる」というのもホラー映画のようだ。

次に、良い曲だけど、歌詞が悲惨な生活を描写していたり哀愁や孤独を歌っているなど、どうもただでさえ孤独の中、精神的に滅入っていきそうなものは外すこととした。例えばボビー・ウーマックの”Across 110th Street”ビル・ウイザーズの”Soul Shadows"ルー・リードの”Walk On The Wild Side”井上堯之の「一人」などがそれにあたる。やはり明るめかニュートラルな曲調が良い。

最後に、レイドバックしていていかにも南海の無人島にフィットしているのだが、あまりにフィットしすぎてそのまま何もせずに腐っていってしまいそうになる曲は外すことにした。例えばボビー・チャールズの”Small Town Talk"フェイセズの”Ooh La La"The Beach Boysの”Good Vibrations"遠藤賢司の「寝図美よこれが太平洋だ」などがそれにあたる。 

ということで悩んだ末私の無人島レコードと言える10曲は次の通り。一応順番もこの順が良いと思っている。

1.  The Allman Brothers Band "Little Marta" 

The Allman Brothers Bandの”Eat a Peach"に収録されたアコースティックインストルメンタル曲。Duane Allmanがバイク事故で死ぬ直前にレコーディングされたものだ。共にOpenチューニングで弾くDicky Bettsとのギターの絡みが美しい。アコースティックギターの名手Leo Kottkeは「これまで作曲された中で最も完璧なギター曲」だと言っている。

2.  Aaron Neville "It Feels Like Rain"

本曲はBuddy Guyでも有名だが、オリジナルは88年に作曲者John Hiattがアルバム”Slow Tuning"でリリースしたもの。無人島レコード選択にあたってオリジナルしか選ばない、という基準も当初は考えたが、このAaron Nevilleのカバーがあまりにも素晴らしいので、その基準を定めることを諦めた。一方この選択の結果、John Hiatt本人が10曲に漏れてしまったのは残念。AaronのAngle Voiceも美しいが、チャンネル左のトレモロの効いたギター、Ry Cooderの間奏でのスライドも本当に美しい。

3.  Bob Marley & The Wailers "Jamming"

今回のルールの一つである、捨て曲無しの場合アルバムを選んでも良い、を適用するとすればBob Marleyのベストアルバム”Legend"が最有力候補だったが、潔くその中から一曲を選ぶとするとこの曲にした。オリジナルは77年のアルバム”Exodus"だが、この”Legend"は収録曲の順番も秀逸で”Jamming"はアルバムの最後に収録されている。”Jamming"は異なるミックスのバージョンがいくつもあり(Long Version, Exodus 40 Mix, 1984 12" Mix, US Version, Live Version等)、その違いを聴くのも楽しい。

4.  King Harvest "Dancing in the Moonlight"

オリジナルは1969年にSherman Kellyと言う人がギャングに襲われた後に夢想した”Joyful and Relaxed"な世界を自らのバンドであるBoffalongo(註:Orleansの前身バンド)で歌ったものだが、有名なのはShermanの弟Wellsが在籍したKing Harvestのバージョンで、シングルのB面としてリリースされた。数多くのカバー曲があり、先のOrleansがライブでカバーしたり、日本でも大橋トリオが取り上げている。また最近ではゲーム”Guardians of the Galaxy: The Telltale Series”のセカンドエピソードのオープニング曲にも選ばれている。

5.  Blind Faith "Can't Find My Way Home"

Steve Winwoodが作曲したこの曲は1969年にEric ClaptionやGinger Bakerらと結成したBlind Faithの同名アルバムに収録されている。コード進行が何といっても素晴らしいが、Gingerのパーカッションも独創的だ。Ericもソロでこの曲を何度も取り上げているし、Steveもこの曲がお気に入りなのだろう、Eric Claptonとのジョイントツアーでも歌っているし、自宅の暖炉前でのアコースティックライブがYouTubeでも見ることができる。カバー曲ではEllen Mcllwaineが素晴らしいし、青山陽一は2010年にSteveが主催した"Can't Find My Way Home"カバーコンテストで世界二位を獲得している。

6.  Joni Mitchell "A Case of You"

1971年に発表された”Blue"に収録された曲。Graham Nashについて歌った曲だとも、Leonard Kohenについてだとも言われる。Joniが使う独特の弦楽器は”Appalachian Dulcimer”と言われるもので、ライブで使っている様子を見ることができる。この曲についてはPrinceがJoniのトリビュートアルバムで取り上げているものがアレンジ・歌・演奏とも素晴らしく、今回そちらを選ぶかどうか迷ったが、やはり作曲をしたJoniをリスペクトしたかったのでオリジナルを選んだ。また昨年New YorkのTown HallにChiris Thilleがホストを務めるLive from Hereの公開放送を見に行った際に、Aoife O'donovanがJoniのHappy Birthdayに因んでカバーしていたのも忘れられない。Live From Hereはコロナ禍で中止となっているが、ぜひ復活して欲しい。

7.  Little Feat "Willin'"

Lowell GeorgeがLittle Featを結成する前のMothers of Invention時代に作曲した曲で、これをFrank Zappaに聴かせたら自分でバンドを作った方が良い、と言われて首になったという話もある。1971年のファーストアルバムに収録され、そして翌年のアルバム”Salin' Shoes”でテンポを落として再集録されている。米国では長距離ドライバーのアンセムというのがシンプルな解釈だが、ドラッグの密輸など不思議な部分の多い詩でもある。カバーもたくさんあるが、珍しいものでは92年にBob Dylanがライブでこの曲をカバーしている。

8.  Tom Waits "Jersey Girl"

Tom Waitsの80年のアルバム”Heartattack and Vine"に収録されていて、TomがNew Jerseyに住んでいた後に夫人となるKathleen Brennanに捧げた曲。Tomは「自分がSha la laなんて歌う曲を書くとは思ってもみなかった」と当時の彼女に対する特別な想いを告白している。曲調は明らかに"Under the Boardwalk" あるいは "Spanish Harlem"とよく似ている。カバー曲ではBruce Springsteenが84年に”Cover Me"のB面に収録、最近ではTom WaitsのトリビュートアルバムでConnie Bailey Raeが取り上げているものが素晴らしい。

9.  Lou Reed "Perfect Day"

オリジナルは1972年の”Transformer"に収録されたもので、当時”Walk On The Wild Side"とのダブルA面シングルとしてカットされている。プロデュースはDavid BowieとMick Ronson。1996年に映画Trainspottingでこの曲が使われて、シンプルなラブソングでは無くドラックへの愛を歌っているのではないかとの疑惑が持ち上がったがLou本人は全面否定している。BBCの製作したチャリティビデオで共に亡くなったLou ReedやDavid Bowieを含む数多くのミュージシャンが歌っている姿も今や貴重だ。

10.  Fountain of Wayne "Someone to Love"

今回10曲に絞るのに大変苦労した訳で、10曲の最終選考に漏れた曲は計27曲もあるが、最後の席を手に入れたのは唯一Power PopバンドFountain of Wayneの2006年のこの曲。すでにNoteにも名曲紹介でこの曲を取り上げた通り、コロナ禍前には知らなかったこのバンドだが、この曲がしばらく頭から離れなかった。個人的には25年ぐらい前にPowe Popがマイブームとなったことがあったが、その後流石に聴き飽きてしまい、最近はPower Popを聴くことが無かったが、改めてPower Popの良さを再発見させてもらったことに感謝したい。

無人島レコードは当然生きている限りこれからも入れ換えがあるとは思うが、これが現時点でのベストだと自負している。数年後にこれを見直す時が来るのを楽しみにして、新しい曲探しに勤しむ今日この頃だ。

Apple Musicで上記10曲を初め、選に漏れた曲も含めてPlaylistを公開していますのでご興味のある方はそちらもご参照ください。

追記:先の「無人島レコード」と「無人島レコード2」の二冊を取り寄せて分析してみると、意外と重複が無い。複数人によって選ばれたレコードと選択者数のランキングは次の通り。

第一位 ザ・ビーチボーイズ ペットサウンド(四名。小倉エージ、山本精一、伊藤銀次、グレン・ティルブルック)

第二位 ザ・ビートルズ ホワイトアルバム ディスク1 (三名。倉本美津留、杉真理、鈴木惣一朗。ちなみにディスク2は和田唱一名のみ。)

同数第三位 ザ・バンド 南十字星(二名。相倉久人、山口洋)、ジョンレノン ジョンの魂(二名。鈴木祥子、近藤金吾)、YMO ソリッドステートサバイバー(二名。高野寛、体育Cuts)

番外では、自分のCDを選んだ人がサンディー、遠藤賢司、村上”ポンタ”秀一の三名。自作CDという逃げ道を編み出したの有田芳生と内田樹の二名。落語CDを選んだのが内田樹と鈴木さえ子の二名。

掟破りはTop Pop Record 1955-1970というレコードチャート本を選んだ大瀧詠一。彼は1962年から66年のチャートの曲は自分の頭で「いくらでも再生できる」らしい。流石です


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