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幸せを心から願って

仕事が終わった深夜。
いつも通りなら、ロッカーに着くと
スマホの電源を入れイヤホンをし
耳読しながら着替えて退勤する。
でも。
今日は何もする気がおきませんでした。
ロッカーの鏡に映る自分を見ると
堪えていた涙が溢れて。

今回はある赤ちゃんの退院までのお話。
Aちゃんは2ヶ月前の暑い日に産まれました
体重は1,000gに満たない『超低出生体重児
2,024年現在
日本で1500g未満で生まれる赤ちゃんは
年間およそ8000人ほど。
現在の医療技術があってこそ
『超低出生体重児の赤ちゃんは入院をし
適切な治療を受け
数ヶ月の入院を経て退院出来ています。
もちろん、
その中には重い疾患の赤ちゃんもいて
入院生活は年単位となるケースも。

Aちゃんに話を戻します。
Aちゃんに私が出会ったのは約1ヶ月前。
ずっと眠っていて殆ど泣くことはありません。
最初は私を含む保育士は触れない
クベース
= 在胎35週未満の低出生体重児等が
 全身管理を行うために入る
 透明箱型の医療機器
に入っていたAちゃん。
日に日に成長しコット(ベッド)に移る許可が。
コットのAちゃんは
骨ばっている身体に点滴を打ち、酸素吸入をし
口から胃管を入れて、ずっと眠っていました。
そして、Aちゃんのお母様は産後週に1度程度
1時間程 面会にいらしていました。
全く泣かないAちゃんをじっとみつめるお母様
私が お母様に
「Aちゃんは可愛いですね。
   夜は時々目を覚まして
 オムツ替えの時私を見てくれたりしています
 少しずつ成長されてますね。
 昼間は眠くてお母さんのお顔を見れないけど
 耳は聴こえていますから、
 優しくお声掛けをしてあげてくださいね」
と伝えると
「Aちゃん・・・」
小さな声でお母様は声掛けをされていました。

Aちゃんは日に日に成長をし、
今では体重は2,500g位まで大きくなり
酸素吸入も点滴も胃管もなく
ミルクは自分でゴクゴクと飲める上、
足りなくて大きな声で「ウワァーン!」と泣いて
″ もっとミルクほしいよ!″
と意思表示したり、
ウンチが出ると ″ オムツかえて!″
眠いけど眠れない時はMAXの大きな声で
「ウワァーン!ウワァーン!」と泣き
手足を大きくバタバタさせて
″ だっこ!だっこ!はやくだっこして! ″
と呼んでくれるようになりました。
そしてAちゃんに近寄り、望みどおりに
ミルクをあげたり だっこをすると
ぷにぷにのほっぺをプゥ~っと膨らませ
ぷっくりとした口を尖らせて
目を細めて ″う~ん滿足、滿足!″
という顔をしてくれるのです。

私はそんなAちゃんが大好きで
本当に可愛くて仕方ありませんでした。
そんなAちゃんが今日、突然退院したのです。
突然の退院は、病院では稀にあります。
Aちゃんは成長してきましたし、いつ退院でも
おかしいことではありません。
一般的な退院の場合は、事前説明が保護者にあり
退院日に持参するものや退院後の通院など
様々なお話が保護者にあります。
しかし、Aちゃんのお母様が先週いらした際
そのような説明は一切ありませんでした。

今日、Aちゃんのお迎えに来たのは
私が1度も見たことのない人でした。
その人は里親でした。
Aちゃんはお母様にだっこされる時は
泣いていても一瞬で黙り、お得意の
ほっぺぷっくり、口をとがらせ目を閉じます。
今日は、里親の来るタイミングを見計らい
ナースの指示のもと、何も知らない私は
Aちゃんにミルクをたっぷり飲ませました。
ぐっすり眠っていたAちゃんを里親さんは
用意されたセレモニードレスを着せ
大切そうにそうっとそうっと抱っこされました。
ぐっすり眠っていたAちゃんの筈が急に泣き出し
大泣きをして里親さんは困っていました。
私は泣き止むように諌める指示をナースに受け
心の中で様々な思いを巡らせながら
Aちゃんをだっこしました。
最近私がAちゃんをだっこする時に
歌っている歌をうたい
フワフワとAちゃんを揺らすと
Aちゃんは泣き止み、
ほっぺぷっくり 口がとんがり
目を閉じて眠っていきました。
そして、里親さんに
スヤスヤ眠るAちゃんをお渡ししたのです。

退院は赤ちゃんにとって、喜ばしいことです。
産まれてからずっと入院で、ようやく外に出て
家族のもとで大切に大切に愛情深く育ててもらい
人として成長していくのです。

Aちゃんは
望まない妊娠で産まれた赤ちゃんでした
手術する予定のお母様が
事情で手術が出来なくなり
出産せざるを得なかったとのこと。
お母様は望まない出産をし、
特別養子縁組が成立し退院までは
Aちゃんを見届けに
週に1度面会にいらしていたのです。
お母様の強い要望で、看護師長と役職以外は
里親については隠匿とのこと。
お母様はどんな想いで
先週最後のAちゃんの面会に
来ていたのでしょう・・・

Aちゃんは産んでくれたお母様のことは
記憶には残らない筈。
もちろん、病院での2ヶ月も忘れることでしょう。

この記事を書きながら、また涙が溢れます。
どうか AちゃんがAちゃんらしく
ずっと笑顔で幸せでいられますように。
Aちゃん、あなたは沢山の人から愛されていますよ
だからこれからも沢山甘えて
周りの人に愛情をいっぱいもらってね。

幸せを心から願って。



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