自分たちの音が聞えなくなったら
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自分たちの音が聞えなくなったら

今日は1998年発行のメルマガ

  電脳市場本舗
~Marketing Surfin'98~

からお届けします。いまやスターバックスはありふれたお店だけど、世界そして日本に進出した直後の様子がわかって、面白い。当時大阪にスタバはなかったんだね。

<1> 自分たちの音が聞えなくなったら

ハワード・シュルツ スターバックスコーヒー会長が著書(*)の中で言っている。

* スターバックス成功物語、ハワード・シュルツ&ドリー・ジョーンズ・ヤング、小幡他訳、日経BP社、1998/4/27;原題「Pour Your Heart Into It」

・ イタリアのエスプレッソ・バーを見ているうちに私は気がついた。スターバックスは大事なことを見逃していたのだ。「極めて重要な問題だ! 」と私は思った。顧客との絆を見逃している。

・ 問題ははっきりしている。スターバックスは質の良いコーヒー豆を扱っているが、店でお客にコーヒーを飲ませていない。われわれはコーヒーを農産物として扱い、袋詰めにしてお客の家に届けているだけなのだ。

これらは、彼が経営に乗り出す以前のスターバックスの問題点を指摘した個所である。

そして、著書の最後のほうで、ビートルズがコンサートをやめたくだりについて触れ、こうも言っている。

・ テレビ番組では、ポールとジョージ、リンゴがテーブルを囲んでツアーの中止を決意した理由について語り合っていた。「みんなが叫べば叫ぶほど、われわれのバンドの質が落ちてゆく」とポールが言った。「歓迎されるのはうれしいけど、自分たちの音が聞こえなくなったんだ」。
その言葉を聞いて私は愕然とした。
自分たちの音が聞こえなくなったら、もはや何のために歌うのかわからなくなる。
ビートルズは自分たちの音を再発見するために、スタジオに戻らなければならなかったのだ。

スターバックス。大阪に住んでいるので、最初に出会ったのは今年1998年1月のロサンゼルス空港であった。東京に進出している店には行ったことがない。

マイアミまでのフライト・コネクションの待ち時間つぶしにぶらぶらしていたら、スターバックスがあった。「何じゃ、これ?」

そしてその店の独特の雰囲気が「何かある」と思わせるものがあった。

早速入り、帰国前のフライトでも、立ち寄った。ユナイテッド機内でも、飲んだ。

帰国してから、先述の翻訳本が出版され、読み、興味を持った。ロスに留学中の友人Rieさんに「どう?」とかサウンドしたりした。彼女は、スターバックスを大学でのプレゼンテーマに選んでいるくらい研究していたので、現地の店舗のデジタルカメラ画像を送ってくれたり、した。

そしてスターバックスは、ぼくの「五感マーケティング」のテーマ店舗に、なった。

<2> 「五感マーケティング」とは?

「五感マーケティング」というものを、ここで少し説明させてください。

従来のマーケティングが、いわゆる、「手で触ることができる製品」を中心に成立していたものだった。例えばコトラー教授のマーケティング原理などは、そのような「固い」製品に対するマーケティングの体系である。これを「数を数えられる」ことから、[tangible]マーケティングと呼んでみる。[Visible]マーケティングと呼んでもよい。キィワードは、部分、分析、論理、図表、である。

それらに対して、今日のようにサービス、つまりInvisibleを中心に大半のビジネスが成立している場合には、新たな、より、人間の感覚からのアプローチを中心に据えたマーケティングが必要なのではないか? [intangible]マーケティング。[Invisible]マーケティング。キィワードは、全体、包括、感覚、雰囲気、である。

「言葉にはできないけれど、その店に行ったら、何となく落ち着く」
「どこがどういいのか、うまく言えないけど、いいんだなあ」

こういうことって、あるでしょう?

ぼくにとって、スターバックスの店舗は、そういうものだったのだ。

<3> 事業ドメインが変わったのか?

さて、2年ぶりのホノルルは、かなり変わっていた。その「変化」の大部分を、スターバックスが形成していた。

つまり、スターバックスの店舗が、あちこちに増えていたんだ。ということは、典型的なアメリカの街に、なりつつある、ということだ。

カハラ・モールにはバーンズ&ノーブル書店内と、モール内に、2店もあったし、アラモアナ・ビーチパーク前ワードセンター近くにある、クレイジーシャツのアウトレット横にも進出していた。驚いたのはDFS(デューティーフリー・ショッパーズ)店内にもあることだ。何だか、猛烈にわらわらと店舗数を増やしている様子。もちろん、ホノルル空港内にも、あった。そうだ。ユナイテッド機内のコーヒーも、そうだ。

どこにでも、あった。  こうなると、スターバックスは、自らの事業ドメインを変えたのではないのか? と思わざるを得ない。そう言えば、旅行中読んだニューズウイークで、「ありふれた休暇旅行」を描写するのに、「どこへ行っても、結局はスターバックスでコーヒーを飲むようなもの」という表現があったような気がする。

「コーヒーを楽しむことができる店舗」から、「どこに行ってもあるコーヒーのコンビニ」へと、ドメインは変遷したのではないのか?

事業のマーケティングキィは、エステート、不動産問題に移ってしまう。日本でいうなら、イオンなどの大型店舗の進出の際、最も事業計画を左右する問題である。スターバックスの場合は、たいてい建物の一角を使うだけであって、不動産としての投資金額はわずかだと思うが、それでも、事業の中心が、不動産を中心に回り出しているおそれが充分に、ある。

つまり、「数えられる」ファクターが、大きくなってきている、ということだ。ぼくはこれによって、「自分たちの音が聞えなくなって」きていなければいいのだが、と案じる。実際、店舗内のスタッフの顧客対応は素晴らしいし、コーヒーの味も、おいしかった。しかし、とぼくは思う。あの、グリーン、白、黒で構成されたトレードマーク、セイレンが、「ありふれ」になってしまっているのではないか?

店の「とんがり」が、どこにあるのか、わかりづらくなってきている。

<4> 新・ライフサイクル論を語る

新・ライフサイクル論。

1st stage ?:何? これ

2nd stage had better:あったほうがいいな

3rd stage must:ないと困る

4th stage 最後:まだあったん!?

スターバックスは、このうち、どうやら、すでに3番目のステージに来ているようである。あまりの急展開の店舗数の増加は、ドメインの混乱を招き、へたをすると、自らの寿命を縮めることになりかねない。

先ほど紹介したRさんは現在日本に帰国していて、新宿のスターバックスに行った。その時の感想は「スターバックスに来たというより、アフタヌーンティールームに来たような」感じがした、というものである。

ここでぼくは、結論づけるつもりはない。一つの仮説として、ここで提示するにとどめる。まだまだぼく自身、スターバックスの実際の店舗に行っていないから。

アメリカのメインランドではどうなのか、あらためて行ってみないと、と思っているが、まさかコーヒーを飲むためだけにアメリカに行くわけにもいかないので、同時に気になっているほかのテーマ、例えばハード・キャンディの創設者ディーナ・モハージャがつかまるとかしたら、渡米計画をたてようと思う。

では、Mahalo!

(初出 1998年8月13日)

2021年11月阪本追記

この後、やはりスターバックスは低迷する。2000年に渡米し、ニューヨークに住み始めた頃が「スタバの不動産化」が最も激しい時期で、実質創業者ハワード・シュルツが経営の前線に復帰し、立て直すのがこの後だ。
「自分たちの音が聞こえなくなる」のは、他人事ではない。くれぐれも気を付けましょう。

このメルマガが1998年。その3年後、ずばり『インビジブル・マーケティング』というタイトルの翻訳書を出版するとは、この時夢にも思ってませんでした。

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では最後、大好きな斉藤和義さんのビートルズ・ルーフトップライブへのオマージュ。


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