最初に知性が芽生えた猿

 額に落ちた滴の冷たさで目が覚めた。始めてのことだった。これほど詳細に俺自身の目覚めを述懐するのは。俺は身を横たえていた花崗岩を離れ、洞穴の入り口から差し込む太陽の光を、その隣に浮かんだ赫奕たる金星を眺めた。

「キキッ」俺に猿の言葉で声をかけてきたのは、2年連れ添ったつがいの『枝を踏む音』だ。いつもと様子の違う俺を見て、不安げに跳び跳ねたり、歯を剥き出したりしている。「そうじゃない」俺は自分の身に起こっていることを彼女に伝えた。「こんなことって」知性を知った彼女の物憂げな瞳。「……夢みたいだね」

 俺たちは外へ出た。シダが生い茂り、丸々と肥えたブヨが飛び交う。遠くにナウマンゾウの猛る声。世界はどこまでも広く。この星は未だ手付かずだ。「森を切り開こう」俺たちは互いに手を取り合った。「ここに空港を建てよう」

【続く】

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